9 / 25
好きか嫌いか問われたら…④
しおりを挟む店員を始めとする多くの視線を集めながらの食事は、あまり食べた気はしなかった。
私よりも彼の方がその思いが強かったみたいだけれど。
「グレープフルーツとトマト………効いてきた?」
「いや、まだ。食べたばっかだし」
「そっか。あ、あとね、ハチミツも良いらしいよ?お味噌汁なんかも」
「へぇ、間宮ちゃん、物知り」
「えっへへ、前に医療番組に出た時に得た情報」
得意気に笑って、また彼の腕にしがみつく。
人目を気にしている様子の芹沢さんは、私の行動に対して困ったように眉を下げる。
でも、決して振り解こうとはしない。
だから私は知らんぷりして、絡める腕に力を込めた。
街中をある程度ブラブラしてから、カラオケしに施設に入った。
鬱憤を晴らすにはもってこいだし、頻りに人目を気にする芹沢さんに配慮しての選択だった。
平日で空いていたから、フリータイムに設定。
フリータイムとセットのドリンクバーにほんのりテンションが上がる。
「持ち込みOKなら、お菓子買い込んでくれば良かったぁ」
嘆く私に芹沢さんがそっとデンモクを渡してくる。
「俺聴いてるから歌って、間宮ちゃん」
確かに私は芹沢さんに「付き合って」と一方的に言った。
でも、だからといって、受け身のままというか……
あくまで俺は付き合ってあげてるよ的な姿勢が面白くない。
「最初は私が歌うけど、芹沢さんも歌ってよね」
笑顔の中に圧力を目一杯込めて言ってから、タッチペンで選曲、送信。
最初の一曲目は、私の十八番のアニソン。
ネット上で露骨に腐女子受けを狙ってると評されていた某水泳アニメ第一期のエンディングソング。
当然、気分を盛り上げる為にアニメ映像の方をチョイスした。
私の大好物なアニメだった為、暇さえあれば繰り返し繰り返し観ていた。
水泳アニメとあって、肌色率が素晴らしく、かなり目の保養させて頂いたし。
見目麗しい高校生の男子達のじゃれ合う姿はヨダレと鼻水の分泌も良くしてくれた。
歌は何十回と聴いているから、歌詞を見ずとも余裕で歌える。
一字一句、音程も完璧に。
一曲目を歌い切り、ウォーミングアップ完了。
ドリンクで喉を潤し、二曲目へと挑む。
二曲目も、得意のアニソン。
今度のは、これまた大好きなアニメ、銅魂の第二期のオープニング。
主人公の銅さんは私の心の恋人の一人だ。
そんな彼を思い浮かべながら熱唱すると、爽快感と共に日頃のストレスが消えていく。
喉の調子を見ながら、三曲目を選曲する。
「三曲目は………卓プリのキャラソンいっとこうかな~」
「あの………間宮ちゃん…?」
ルンルンとタッチペンでデンモクを操作している私に、芹沢さんが恐る恐るといった感じで話し掛けてくる。
「選曲がマニアックでついていけないんだけど……」
デンモクから視線を離して彼を見れば、微妙な顔をして笑っている。
「もうちょい可愛らしいっていうか、今時の女の子が歌うような歌を選曲するかと思ってたんだけど……」
「今時の女の子……」
「例えば、坂系列のアイドルとかの歌とか…」
年齢的にギリギリ今時の女の子の私だけれど、正直あまり興味のないジャンルだ。
「私、その人達の曲、サビしか知らないもん」
口を尖らせて開き直る私を芹沢さんが「マジか」と笑う。
「意外と間宮ちゃんの歌声が野太くてビックリした。普段の声が可愛いから余計に」
「悪かったね。それよか、芹沢さんも何か歌ってよ。折角のフリータイムなんだから」
デンモクとマイクを押し付けると、彼は「参ったな~」と困ったように笑う。
「言っとくけど、俺、歌あんま上手くないよ」
「………案外そういう保険かける人程、嫌味に上手かったりするんだよね」
「いや、マジで」
とか何とか言ってたけれど。
黒っぽくて、よく半裸になりたがる某ダンス集団の曲を選曲した芹沢さん。
出だしから、ゾクッと身震いがした。
「………ムカつく…」
上手くないなんて、どの口が言ってるんだか……って言いたい。
私の読み通り、芹沢さんの歌は嫌味な程上手かった。
普段の声からは想像もつかない甘い歌声でバラード曲をしっとりと歌い上げる。
音程は正確で、憎らしい事に時折ビブラートなんか効かせた位にして。
0
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる