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好きか嫌いか問われたら…⑤
しおりを挟む「……嘘つき。歌上手いじゃん。それで下手とかって、馬鹿にしてない?」
気持ち良さげに歌い終えた芹沢さんに思いの丈をぶつけると、彼は苦い笑みを浮かべる。
「いや、上手くないから」
「うーわ、その謙遜、すっごい腹立たしい。超嫌味」
「嫌味じゃないし。間宮ちゃん、ホラ次曲入れな?」
次は何を歌おうか……と悩みながら、タッチペンで画面をタップする。
「それだけ上手いと、合コンでは人気者だったんじゃない?」
きっと女受けを狙って、死に物狂いで練習したんだろうなと想像すれば微笑ましい。
でも彼は「んな訳ねーじゃん」と一蹴。
「オーディションの為に猛練習しただけ」
「ふぅん……」と流しかけて、すぐに「え?」と顔を上げる。
「オーディション?何の?ドラマのオーディションって、歌のテストもあるの?」
芹沢さんは「違う違う」と首を振った。
「このグループの新メンバー募集オーディション………最終選考手前で落ちたけど」
「えぇーっ?!うっそー!」
「マジ。もう何年も前の話だよ。だから、この人達の歌は一通り歌えんの」
「うわ……びっくり」
意外な経歴を知って瞬きを増やす私に、彼は照れ臭そうにはにかんだ。
一曲歌わせてしまえば、もうこっちのもの。
私が上手いと褒めたもんだから、彼は気を良くしたらしく「じゃあ、もう一曲いかせて頂こうかな」と、デンモクを操る。
「同じ系列で、三代目とか?」
「是非、流行ったランニングマンの振り付きでお願いしま~す」
「あはは、そんなん言ったらマジでやっちゃうよ?」
またダンスも上手いんだ、これが。
「きゃ~っ!格好良い!せり~素敵~!!」
本家も真っ青なパフォーマンスにはしゃぐ私に、芹沢さん大喜び。
「次、イイねダンスの人達お願い!」
「ざーん念!!あれ、まだ練習中」
「えぇーっ!見た~い!」
「また今度」
一曲、また一曲と歌う毎に、見るに耐えない程の落ち込み様が嘘みたいに芹沢さんの表情が明るくなっていく。
「次、何歌う?」
「んー……どうしよっかなぁ…」
「バンド系は?部屋にCDあったじゃん」
「そだね、一曲いっとこうかな。間宮ちゃんはまたアニソン?」
「んんー…流石に続くと引くでしょ?だから、そうだなぁ……お源さんなら歌える」
「おっ、いいねぇ」
芹沢さんが笑うと私も嬉しい。
彼の子供みたいな無邪気な笑顔は、不思議な力を秘めているような気がする。
「………元気出たみたいでホッとした」
選曲の間に空いた間に、ポツリと呟いた言葉に芹沢さんが目を丸くした。
「間宮ちゃん……?」
「芹沢さんの鬱陶しい程の笑顔がないと物足りないってゆーか、暑苦しい程の元気の押し売りがないと寂しくて…」
芹沢さんは「何だよ、それ」と笑う。
「間宮ちゃんにとって、俺ってテニスの松岡 修造レベルに暑苦しい存在なの?」
「うん、地球温暖化もいいとこ」
「マジか、クールに決めてるつもりなんだけどなぁ」
「えー…どこが?」
惚けてみせる芹沢さんは、完全にいつもの彼に戻っている。
「………やっぱり、芹沢さんは笑顔が一番だよ」
「ん?」
本当は聞こえてたくせに、聞こえない振りしてわざとらしく首を傾げる芹沢さん。
そういうとこはちょっとムカつくなんて思いながらも、結局は憎めない。
第一印象はチャラくて調子の良さそうな奴。
でも、話せば結構いい奴で。
好きか嫌いかと問われれば、どちらかと言えば好きかな?位だったから、彼からの交際の申し出に軽い気持ちで乗っかった訳だけれど。
今では好きかな?が、ゾッコンなのかも?へと進化している。
リアルの男でここまで填まれたのは、この人だけだよな………と思っていたら、気付けば言葉が先行していた。
「………好き」
「っ、」
柄にもない、芹沢さんの真っ赤な顔。
それが堪らなく可愛くて……
「っ、次は、あっま~いラブソングリクエストしていい?」
照れ隠しも兼ねて、無邪気さを装ってマイクを差し出した。
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