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塩分も甘さも控えめ位が丁度良い②
しおりを挟む芹沢さんの熱い思いが、ビリビリと伝わってくる。
いつもと違う真剣な眼差しは、私をドキドキさせるには十分過ぎる程の力があった。
「今回掴んだ役で、それが叶うと思った。やっと、間宮ちゃんに近付けると思ったのに………駄目になっちゃって…」
「芹沢さん…」
「悔しいって言葉だけじゃ、済まないんだよ」
吐き捨てるように言った芹沢さんを前に、私は気の利いた言葉一つ浮かばず、もどかしい思いを抱えるだけ。
「いつまでも俳優として芽が出ないどころか、根っこすら張り巡らせてないし……」
芹沢さんは、深くて重い溜め息を吐いた。
「俺の人生設計では、今頃人気俳優として君臨している予定だったのに…」
大真面目な顔して、どこかピントのずれたような事を言った芹沢さんが可笑しくて…
「え、ちょっと何言ってるか分からない」
先輩芸人のネタを拝借しながら笑ってしまった。
「そこ笑うとこじゃないって。俺真剣だし」
抗議の姿勢を取る芹沢さんに「大丈夫」と親指を突き立てる。
「芹沢さんの舞台での存在感はピカイチだから」
一度、彼の出演する舞台作品を拝見させて貰った事がある。
多少の贔屓目もあったかもしれないけれど、彼の圧倒的な存在感と光る演技に身震いしたのを覚えている。
「個人的な意見だけど、実力のある俳優さん程、下積み時代が長いと思う」
大物と呼ばれる人は大体舞台を主として活動した後、地上波に出てくるイメージだ。
「いきなりぽっと出て売れるような俳優なんて、すぐに消えてくじゃん。そういうのって、大概顔だけの棒演技」
芹沢さんを励ます為にテキトー言ってる訳じゃない。
本音で物を言ってるだけ。
「芹沢さんは素晴らしい人材だよ。俳優としても人間的にも」
「間宮ちゃん……」
芹沢さんの固い表情が解れていく。
「見た目はペラッペラに薄いように見える。でも、中身はしっかり分厚くて芯がある…………あ、こう言うと、何だかトイレットペーパーみたいだね!」
「ま、間宮ちゃ~ん…」
そして完全に崩れて、引きつったような笑顔に。
「釣り合う、釣り合わないとか………そんなの私の知ったこっちゃない。勝手に引け目を感じないでよ。お互いを尊重し合えればそれで良いと私は思ってるんだから」
ぐっと胸を張り、目の前の彼をしっかり見据える。
「芹沢さんの努力を知ってる。だからこそ、対等じゃないとか、私より下だなんて思った事なんてない」
ただ与えられた役を言われるがままに演じるのではなく、どう自分なりに表現出来るか懸命に考えていた。
観ている側が退屈しないようアドリブ効かせてみようか?とか、動きはこれで大丈夫か?とか。
先輩俳優の演技や練習風景の録画を観ながら何度も悩んで答えを導き出していたのを知っている。
演じるという仕事に真摯に向き合い、より高みを目指そうと熱心な姿をよく知っているこらこそ言える。
「いつか必ず芹沢さんの素晴らしさが評価される日が来る。だから、前向きでいよう?胸を鳩みたいに張りっぱなしでいようよ」
「…………うん…」
少しの間を空けてから、芹沢さんが噛み締めるように頷いた。
それからすぐに「……だね」と呟き、芹沢さんがニカッと歯を見せる。
「間宮ちゃん、マジで感謝」
満面の芹沢スマイルは、子供みたいな無垢さを携えている。
「芹沢さんが元気のない時は、私が必ず元気にしてあげる」
「なら俺は、間宮ちゃんがヘコんでる時、間宮ちゃんが元気になる方法を必死に考えて、実践する。あらゆる手段を駆使して笑顔にしてみせる」
「あは……それ、ちょっとキュンと来た」
キュンで勢いをつけて、そっと身を乗り出した。
今日をきっかけに、いつまで待っても進展しない関係に、変化をもたらせたくて。
今まで最大で30㎝弱までしか近付いた事のない距離をぐぐっと一気に縮める。
「ん?間宮ちゃん…?」
目をパチクリさせる彼に構わず、瞼をゆっくり下ろす。
「いい加減、チューくらいしてきたら?こんな可愛い女の子が目の前に居るんだから」
自分で言うなよって台詞を早口で囁いてから……
少しカサつきがちな厚めの唇に自分唇を押し当てた。
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