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塩分も甘さも控えめ位が丁度良い③
しおりを挟む自分から相手にキスした事なんか、生まれて初めてだ。
したいと思った事も初めて。
36℃前後の温かさをたっぷり感じてから、唇を離す。
瞼を開けば、目を真ん丸く見開いたまま固まっている芹沢さんが居て……
その驚きに満ちた表情から、自分の大胆さをじわじわ思い知る。
「あ、の………間宮ちゃん…?」
声に含まれた戸惑いの声に、一気に恥ずかしくなって、それを誤魔化す為に再度勢いをつけて唇を押し当てようとした。
…………けれど。
「ちょっ………間宮ちゃん、駄目だ」
あろうことか、全力の拒否。
乗り出した体をストンと元に戻され、意気消沈する。
「駄目だよ、そういうのは…」
気まずそうに顔を背けられ、女のプライドはズッタズタ。
怒りの導火線に火が着いた。
「………何で?」
まずは冷静になろうと自分に言い聞かせてみるけれど。
「いや、まだそれは……」
言葉を濁す芹沢さんに、クールダウンどころか、更にイラッ。
「何で?」
「いや、だから………その…」
「……何で?」
幼い子供の“何で?”攻撃の無邪気さゼロバージョンをお見舞いしてやる。
「何で?こんな魅力的な女の子を前にして聖人ぶってんの?」
「いや、違うよ」
「だったら、何で?」
据え膳食わぬは、男の恥………とか何とかいう言葉だってあるのに。
食わぬは男の恥なら、食して貰えぬなら女の恥だ。
「私に触ろうとしないよね?一度も」
完全困り顔の芹沢さんを睨み付けると、彼は「参ったなー…」と、頭を掻きむしる。
「私の事汚いと思ってる?だとしたら、失礼だよ。ちゃーんと毎日お風呂入ってます。その日の汚れはその日の内に落としてまーす」
嫌味をふんだんに込めて言ってやると、芹沢さんが「はぁあ…」と大袈裟な溜め息を吐いた。
その様子を見て、もしかして……と思い付く。
「あー……ひょっとして、チェリー……とか?」
それなら、何とか頷ける。
知らないなら、臆病さから手を出して来ないのにも納得がいく。
「モテる振りして、実は経験がないのねー…」
「………違うって」
「別に隠す事はないよ?恥ずかしがる事も。私、偏見ないし」
意外だなーなんて思いながら、薄く笑っていると「だからっ……」と声を荒げた芹沢さんが迫ってきた。
「っ、」
体を支えきれずに、後ろに倒れる。
そのままフローリングに頭を打ち付けた筈が、何故か衝撃はなく、頭も痛くない。
不思議な現象の理由は、芹沢さんが大きな手で私の後頭部を保護してくれていたから。
「ん……芹っ…」
自分からした触れるだけのキスが幼く感じられる程、深くて熱くて甘い口付けに、頭のネジが飛びそうになる。
気付けば、ねだるように彼の首に腕を回している私。
はしたないと思いながらも、この心地好さを手放すつもりは更々なくて。
このまま時が止まれば良いのに……とさえ、思う。
息が乱れる位の長い口付け。
その余韻に浸る私に芹沢さんが言う。
「………本当はずっとこうしたいと思ってたよ」
間近にある苦しそうな表情は、照明の逆光も相俟って、うんと苦しそうに見えた。
「間宮ちゃんに触りたいし、キスしたい。勿論、その先だって………したい」
声を震わせる彼に、私は「じゃあ、どうして?」と問う。
すると彼は、私から体を離した。
「俺には………まだその資格がない気がして」
「資格……?」
上体を起こしながら聞くと、彼は伏し目がちに言う。
「間宮ちゃんは凄く可愛いし、魅力的だよ。一緒に居ると自分の欲を抑えるの大変だから………でも、俳優としての確かな地位を築けるまでは……って、俺の中で決めてるんだ」
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