腐っても女子、ですから

江上蒼羽

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塩分も甘さも控えめ位が丁度良い④

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ほんの数秒前まで触れ合っていた唇の感触を名残惜しむように、指先でなぞった。


「今のはゴメン………つい暴走しちゃって……今後はそんな事ないようにするから」

「…………」

「本格的に俳優業が軌道に乗るまでは無責任な事したくない。せめて地上波の連続ドラマに当たり前のように出れるまでは」


キリッと表情を引き締めて、男らしく宣言する芹沢氏。

なるほど、彼が手を出して来ない理由を漸く知る事が出来た。

だけど、初めて知った彼の胸の内への私の感想は………


“はぁ?何それ、ふざけてんの?!”だった。


「男としてのケジメ、だから」


最高に格好良い顔で、最高に格好つけて言った芹沢さん。

私は彼に馬鹿にしたような視線を送る。


「それ………格好良いとか思ってる?」


普段より低い声とテンションに、芹沢さんは当然「えっ?」と聞き返してくる訳で。


「間宮ちゃん?」

「売れるまではお前に手を出したくない………芹沢さんは格好つけてるけど、そういうの全然格好良くない!時代遅れ!古い!ダサい!!」


どうやら、さっき着火した導火線が消えていなかったらしい。

時間差で爆薬に到達し、今、大爆発。


「男の人ってケジメ云々大好きだよね?それが美学だとでも思ってんの?」

「いや、だってそうじゃん」


私の爆発に唖然としながらも、反論してくる、生意気な芹沢さんに「違う!」と一喝。


「断じて違う!男としてのケジメなんて、女心無視した自己満足だから!」


爆発は勢いを衰える事なく、威力を持続させる。


「芹沢さんは何の為に私と一緒に居るんだろう?とか、本当は私の事どう思ってるんだろう?って不安で堪らなかった!」

「俺は間宮ちゃんを大切に思って……」

「でも、私は不安だったし、今も不安だらけ!!」


ここで、怒りに涙という邪魔なオプションが付いた。

止めどなく溢れ出てくる涙で視界がぼやける。


「欲求不満とか、そういうのじゃなくて………相方が……森川が凄い満たされた顔してて……」


忍足さんと正式に付き合うようになってからの森川は、女の私から見てもキラキラしてて、眩しくて……

物凄い、柔らかくて良い表情をするようになった。

まぁ、芸人としての面白さには欠けるけれど。


「順調に忍足さんとの絆を育んでるんだなって思ったら、私も好きな人と絆を育みたいって思うようになった。寧ろ、それが自然な事でしょ?」

「…………」

「なのに、私達の関係は三ヶ月前から何にも変わってない!!」


唾が飛ぶ事なんかお構いなしに「私はっ!」と、声を大にする。


「芹沢さんが好きなの!だからスキンシップ取りたいし、キスして欲しいし、抱き締めて貰いたい!」


ぐいっと、手の甲で涙を雑に拭った。


「これ、女の子なら当たり前の感情だから!!」


ゼェ、ハァ……と息を切らす私に、芹沢さんはポカーン。

数秒変な沈黙が続いた後、彼が神妙な顔して「ゴメン……」と呟いた。


「俺、完全に間宮ちゃんの気持ちシカトしてたね」


テーブル脇のティッシュを2、3枚引き抜いて、鼻に押し当てた。

ズビーッと汚い水音が響く。


「でも、間宮ちゃんの事を大切に思ってる事だけは、ちゃんと知ってて欲しい」

「………うん」


今度は涙をティッシュオフ。

マスカラがティッシュに付着したのを見て、小さく溜め息を吐いた。

きっと今の私はパンダ目になっているんだろう。


「………俺、間宮ちゃんは普通の女の子とは違うと思ってて……」

「………それってどういう…」


意味だ?と、忽ち眉間に皺が寄る。


「ちょっと個性的で、普通の女の子とは感覚が違うっつーか……だから、そういう男女間の事がなくても気にしてないと思ってたんだけど………違ったんだね」


すかさず「そりゃそうだよ!」と反論してやる。


「男同士の絡みが大好きでも、ちゃんと女の子としての感覚や願望はあるよ」


恋愛脱落女子になりかけて、いっそこのまま腐の道を極めようと思っていた事もあった。

そんな私をその気にさせといて、全くの自覚なしか?この男は。


「私は、腐ってても女子、なんだからね」

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