腐っても女子、ですから

江上蒼羽

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塩分も甘さも控えめ位が丁度良い⑤

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腐ってても、女子。

れっきとしたTHE女の子なんだから……と、鼻息を荒くさせていると…


「それなら……」


芹沢さんの手が私の二の腕を掴んだ。

「えっ?」と思っている内に、あっという間に引き寄せられ、妙に色気のある顔の真ん前に。


「間宮ちゃ………志保が良いなら、今まで我慢した分、きっちり発散させて貰うけど……後悔しない?」


演技なのか分からないけれど、初めて聞いた艶のある低い声に、心臓がビックリして大きく跳ねた。


「後でこんな筈じゃなかったって言われても困っから」


苦しい程に煽り出す心臓を持て余しながら「大丈夫」と返す。


「後悔なんかしない。する訳ない。望んだのは私なんだから」


ドッドッドッ……と、身体中に響く鼓動を鬱陶しく思いながらも意を決して両手を大きく広げた。


「ぶ、ぶつかり稽古なら受けて立つ!さぁ来い!芹沢っ!」


芹沢さんは「ぶつかり稽古って…」と脱力してみせたかと思えば、すぐにニィッと歯を見せる。


「そういうノリ、嫌いじゃないな。割りと好きかも」


愉快そうに目を細めた彼は、 ぶつかり稽古に応じるべく、潔く着ていたシャツを脱ぎ捨てた。


「どすこーい!………とか言った方が良いもんなの?これって」

「し、知らないし」


ぶつかり稽古と称してみたものの、実際の行為はその名とはかけ離れている。

体育会系な雰囲気は全然なく、優しい触れ合いというか、何と言うか……


「………芹沢さんて、もっとガサツな人だと思ってた」

「ん?何いきなり…」


繊細な指使いから与えられる甘い刺激に身を委ねる。

そんな私を見下ろす優しい顔をした芹沢さん。

いつもと別人みたいで、必要以上にドキドキさせられる。


「何て言うか……もっと乱暴に扱われるかと思ってたから。胸なんか、力一杯ガッシガッシ揉まれんのかなーって…」

「あ、はは…」

「オラオラどうだー!って攻めてくんのかなーって」

「んな訳ないって。てか、雑念多くね?」


苦笑いながら芹沢さんは私のうるさい口を塞ぐ。


「ん、」

「………そろそろ良い?」


無言で頷くと、芹沢さんは自身のベルトに手を掛けた。

ゴクッと息を飲んだのも束の間……

間の悪い事に、バッグの中に忍ばせておいた携帯が大音量で鳴った。


「……………最悪。マナーモードにしとくんだった…」

「しゃーないって」


敢えなく中断して、バッグを漁る。

出てきた携帯の画面を見て、大きな溜め息が零れたと同時に、何でこのタイミング?と、泣きたくなった。



着信の主は、マネージャーの川瀬さんだった。


「………はい、もしもし…」


かなーりテンション低めに出た私の様子が可笑しかったのか、芹沢さんが噴き出している。


『あらやだ間宮、あんた暗過ぎ。何かあった?』


折角良い感じだった所を中断させられたらこうなりますよ……と、心の中で毒づきながら「いーえ、大丈夫です」と取り繕う。

彼女からの着信といえば大体用件は見当がつく。


『折角のオフの所悪いんだけど、この後仕事頼みたいの』


ほら、やっぱり。


『森川が収録中に気分が悪いって言い出して…』


思わず「えぇっ?!」と大きな声が出た。


それに芹沢さんも驚き、口を「どした?」の形に動かした。


「森川は大丈夫なんですか?」


メンタルの弱さと対照的に、体は丈夫な相方。

その相方が体調を崩すなんて、コンビを組んでから片手で数える程度しかない。


『吐き気がするって、真っ青な顔して言うから、取り敢えず事務所の暇な人間に付き添わせて病院に向かわせたんだけど…』

「え………大丈夫かな?森川…」


吐き気がするって………前の日に何か悪いものでも食べたのかもしれない。


「胃腸炎……ですかね」

『さぁ……でもあの様子じゃこの後に控えた仕事は無理そうだから、あんたに頼みたいの』

「そういう事なら………分かりました」


何となく状況を察したらしい芹沢さんが、床に散らばっていた私の衣類をかき集め出した。


『で、今あんたどこに居るの?』

「えっと………あの…」


芹沢さんの顔をチラ見しながら、川瀬さんからの質問の答えを濁していると、川瀬さんが『あぁ……もしかして…』と勘づいた。


『またあの売れない役者の所?』


芹沢さんを小馬鹿にしたような言葉に、思いっ切りカチン。

そんな言い方はないでしょ?!と言いたい所を我慢。



「未来のビッグ俳優の所です」


顔を引きつらせて訂正すると、川瀬さんは『まぁ、良いわ』と軽く流す。


『今居る場所からその付近までなら、15分くらいで行けると思うから、支度ときなさい』


私が返事をする前に、通話は途切れた。
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