16 / 25
塩分も甘さも控えめ位が丁度良い⑥
しおりを挟む「はい、これ。仕事入ったんでしょ?」
溜め息を吐きながら携帯の画面を眺めている私に、芹沢さんが服を差し出してきた。
「うん……」
返事をしたものの、受け取る気になれない。
それを不思議に思ったらしい芹沢さんが優しく「志保?」と問い掛けてくる。
「邪魔……入っちゃったね…ごめん」
「良いって。てか、森ちゃんどうしたの?」
芹沢さんが私の手を取り、服を持たせる。
「何か、具合悪くなったみたいで、病院行ってるって。だから代わりに仕事を……」
「マジ?大丈夫なの?森ちゃん」
「さぁ………体は丈夫な子なんだけど……後でLINEしてみる」
「そうしな。取り敢えず、支度した方が良くね?いい加減目のやり場が……」
とか言っときながらしっかり凝視している芹沢さんが何だか可愛い。
「続き……しないの?」
わざと挑発するようににじり寄る。
「いや、急がなくて良いの?何時からか知らないけど…」
「川瀬さんが迎えに来る。まだ少し時間あるよ」
続きをせがむように、芹沢さんに抱き付いた。
肌と肌の触れ合いが心地好い。
「……萎えちゃった?」
「全然。でも……」
「あと15分あるよ?」
芹沢さんの体ごと後ろに倒れると、フローリングの冷たさが肌に伝わる。
見上げた芹沢さんが「15分て」と目を細めてた。
「それで足りると思う?」
「サクッと終わらせれば時間余るんじゃない?」
「テキトーに済ませろって?無理言うな」
芹沢さんの唇が肌に触れた瞬間、全身に電流が流れた。
かと思ったら、すぐに彼は上体を起こす。
「………続きはまた別の機会ね」
「………」
「早く支度しな?」
火照る体に刻まれた紅い印。
仕方なく、それで自分を納得させた。
「気を付けて」
「………うん」
玄関で靴を履く私を見送る芹沢さん。
名残惜しさが腰を重くさせる。
「森川の代打、しっかりやってくる」
「偉い。俺も後でおっしーに探り入れてみるけど……森ちゃん、大した事ないと良いね」
「うん」
握っていた携帯が震えた。
川瀬さんからの着信だ。
着いたと連絡を貰ってから中々出てこない私に焦れて、催促してきているんだと思う。
二人の甘い時間をぶち壊したんだから、少し位待ってくれても良いじゃん……と、心の中で毒づきながら「よいしょっ」と腰を持ち上げた。
「また来て良い?」
ドアノブに手を掛けて振り返る。
芹沢さんはニカッと歯を見せての満面の笑み。
「いつでもおいで。大歓迎」
「じゃあ、この後の仕事終わったら来て良い?さっきの続きしたい」
私の大胆な言葉を受け、芹沢さんは「早速かーい」と大笑い。
「良いよ、待ってる」
「へへ………ありがと」
私は、芹沢さんに関しては肉食女子らしい。
時間がないって分かってはいるけど、離れがたい。
一旦は回したドアノブを戻し、二歩分下がる。
「間に合うの?」
「大丈夫…………多分」
「多分て……」
苦笑する芹沢さんに構わず、彼の背中に腕を回す。
「また怒られるんじゃない?」
「いい。怒られ慣れてる」
あと一分だけ………と、ぎゅうっと抱き付く私を「しょーがねーなー」と言いながら抱き締めてくれる芹沢さんの優しさが嬉しい。
「好きだよ」
「好き」
いつものように揃うタイミング。
それに二人で顔を見合わせてから吹き出して。
「ぶつかり稽古に備えて準備体操しとくかな」
「激しい肉弾戦になりそうな予感……」
「おうよ!覚悟しな」
「わぁ、怖い~」
エネルギーをたっぷりチャージしてから部屋を後にした。
川瀬さんの待つ車に乗り込むと同時に「遅いっ!!」の怒鳴り声。
「いつまで待たせんの?!」
かなりご立腹なご様子に「ひぇ~」と思いながらも「すみませ~ん」と反省しているフリ。
我ながらいい性格してると思う。
「森川から連絡ありました?」
「まだ。LINE送ってみたけど、既読がつかないの」
「そっかぁ…大丈夫かな………?」
携帯を操作すると、私がさっき送ったメッセージにも既読は付いていない事が分かった。
「森川……重症?もしかして…」
相方が心配で堪らない私に、川瀬さんが厳しい口調で言う。
「間宮、あんたはこの後の仕事の事だけ考えてなさい」
若干ムッとしながらも「はぁ~い」と返事は素直。
要領の良さだけが私の取り柄。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる