19 / 25
まんぼうライダーは不滅です③
しおりを挟む百合かと思う程、女同士できつく抱き合う私と森川を見て、川瀬さんがそっと呟く。
「……まんぼうライダーは不滅、といった所かしら」
コンビの絆の深さを確認していると、それを邪魔するようにインターホンが鳴る。
「こんな真夜中に誰よ」
川瀬さんが玄関の方角に向かって吐き捨てた。
私も不審に思いながら、そちらに視線を向ける。
真夜中の来訪者は、ピンポンピンポンピンポン…と執拗にインターホンを連打。
その異様さに森川の表情が強張る。
「私が応対するわ。念の為、すぐ警察に連絡出来るように携帯握ってなさい」
玄関に向かう川瀬さんの指示通り、私と森川は其々の携帯を握り締めた。
手にうっすら汗が滲む。
緊張で鼓動が大きく速くなったのも束の間……
「素良っ!!」
森川の名を呼びながら部屋に侵入して来た人物を目にした途端、一同の緊張と警戒が一気に解けた。
真夜中の来訪者は、不審者でも幽霊でもなく
「慧史くん?!」
森川の最愛の彼氏である、忍足 慧史氏。
感情が読み取り難い固い表情をした彼が抱えているのは、大きなピンクのバラの花束。
「嘘………今日地方での撮影で会えないって言ってたのに…」
「うん、そうだったんだけど……素良からのLINE見たら、居ても立ってもいれなくて…」
両手いっぱいに抱える大きな花束と共に、忍足さんは森川へと真っ直ぐに向かっていく。
森川の前に跪いた忍足さんは、抱えていた花束を彼女に差し出す。
「遅くまで開いている店を探すのに手間取っちゃって………こんな夜中にごめん」
「………慧史くん?」
彼の行動に目を真ん丸くさせる森川。
私と川瀬さんも同様に。
「取り敢えずの間に合わせで花ってのが凄く悔しい……今度、改めて指輪を用意するから…」
この展開はもしかして……と息を飲む。
「俺と結婚して下さい」
「っ、」
「お腹の子と三人で幸せになろう」
森川は目に沢山の涙を溜めて頷き、花束を受け取った。
それを更に忍足さんが抱き締める。
………といった展開をまざまざと見せつけられる私と川瀬さん。
忍足さんに完全に空気と扱われているらしい。
うわぁ………キザ過ぎなんじゃない?と軽く引く私とは違い、森川は目を輝かせる。
「可愛い……ピンクのバラだ…」
嬉しそうに頬を染めて乙女と化している森川に満足そうに微笑む忍足さん。
「素良のイメージでピンクにしたんだ」
「嬉しい……ありがとう」
「喜んでくれて良かった」
私と川瀬さんの存在を忘れて二人の世界へ突入し、限りなくイチャイチャし出す森川と忍足さん。
「楽しみだね」
「うん………男の子かな?女の子かな?」
「素良にそっくりな女の子が良いな」
「えー?慧史くんそっくりな男の子が良いなぁ……一緒に覆面ライダーごっこしたい」
私に入り込む隙など全くなさそうなので、玄関に向けて方向転換を行う。
二人が放つピンクオーラに頭がやられそうなので。
後の事はマネージャーである川瀬さんが動いてくれる筈。
ウチの事務所の社長への報告の他、忍足さんサイドへの根回し等といった裏方の事は私の仕事じゃないから。
私は森川の体に異常がない事と、彼女とまんぼうライダーを続けられる事が分かれば十分だ。
「間宮?帰るの?」
部屋を後にしようとする私に川瀬さんが声を掛けて来た。
それに小さく「はい」と返事をする。
「愛し合う二人の邪魔をする程野暮じゃないですから」
チラ………と、森川と忍足さんを流し見ると、二人は我に返ったかのようにくっついてた身を剥がした。
恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせる森川とばつが悪そうに視線を逸らす忍足さん。
続きは私と川瀬さんが帰ってからすると良い。
0
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
解けない魔法を このキスで
葉月 まい
恋愛
『さめない夢が叶う場所』
そこで出逢った二人は、
お互いを認識しないまま
同じ場所で再会する。
『自分の作ったドレスで女の子達をプリンセスに』
その想いでドレスを作る『ソルシエール』(魔法使い)
そんな彼女に、彼がかける魔法とは?
═•-⊰❉⊱•登場人物 •⊰❉⊱•-═
白石 美蘭 Miran Shiraishi(27歳)…ドレスブランド『ソルシエール』代表
新海 高良 Takara Shinkai(32歳)…リゾートホテル運営会社『新海ホテル&リゾート』 副社長
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる