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まんぼうライダーは不滅です②
しおりを挟む「あんたと忍足さんの事だからこのまま結婚といきたいでしょうけれど、彼の事務所がどう反応を示すか……よね」
川瀬さんは、あくまでも冷静だ。
「話題性があるからあんた達の付き合いを黙認している部分はあるみたいだけれど………結婚となると……容易くはないんじゃない?」
「…………」
森川が悲しそうに目を伏せた。
「彼、事務所の稼ぎ手でもある訳だし………結婚でファンが離れていく可能性がある。通常なら、人気滑落の要素は排除したい所よね」
川瀬さんの言う事は一理ある。
女とは身勝手なもので、ずっと応援していた人が結婚した途端に見向きもしなくなる。
裏切られた、と被害妄想する。
その人が独身でいようが、自分のものになる筈なんてないのに。
「ましてやデキ婚となると、世間的なイメージはあまり良くないわよね。イメージ商売の芸能人としては痛いわね」
「い、今は授かり婚と言うんです」
森川が反論するも、川瀬さんの表情が変わる事はない。
「産む産まない、結婚するしないは置いといて、産む選択をするとしたら、あんたはどうするつもり?」
淡々とした問い掛けに、森川が「どうって……?」と首を傾げる。
「芸人辞めるかどうかよ」
空気が一気に重たくなり、私はゴクッと息を飲んだ。
いつかみたいに芸人辞めたい、引退したい……なんて言われたらどうしよう…と、胸がざわつく。
あの時とは状況が違う。
でも、辞めるなんて言って欲しくない。
身勝手なのは百も承知してる。
だけど、私の相方は森川ただ一人だ。
今更、森川以外の人間とコンビを組むのは嫌。
まんぼうライダーは森川と二人で築き上げてきたものだからこそ、そう思う。
森川が居なくなったら、全く意味がない。
私の世界が変わってしまう。
お願い、引退だけは………と祈るような気持ちで森川の言葉を待つ。
森川は、チラリと私を一瞥したかと思うと、真っ直ぐに川瀬さんを見て言う。
「子供は産みます。皆に反対されても、絶対産みます。でも、芸人は辞めません」
強い意志が込められた眼差しと口調。
普段の森川からは想像も出来ない凛々しさに、少なからず驚かされた。
「…………つまりは、出産育児の為に一時休業といった形を取る訳ね」
確認する川瀬さんに森川は「はい」と力強く返事をした。
それに対しても川瀬さんは淡々としたもので…
「休業するのは構わないけれど……育休が明けて業界に復帰する頃には、あんたの居場所はないかもしれないのよ?」
森川を試すように、正論ばかりを連ねる。
試される側の森川が腹を括ったように言う。
「居場所なんて、また作れば良いだけです。辞めるつもりは一切ありません」
思わず「森川……」と口にした私を川瀬さんが横目で見た。
けど、何も言わない。
「私以外の人間に、間宮の相方は名乗らせません」
相方の力強い言葉は、泣けるドラマよりも涙を誘う。
「私はこれからもまんぼうライダーでいたいです。あ、でも……間宮が嫌でなければ、だけど…」
最後は照れ臭そうに視線を落とす森川。
森川は、やはり私の相方だった。
「森川~っ!!」
衝動的に最愛の相方を抱き締めた。
「えっ、間宮?」
「ありがとう……ありがとう…」
溢れ出る涙をそのままに、感謝の言葉を繰り返す。
「私もやだよ、森川が居なくなるなんて」
「………間宮…」
「私の相方は、森川しか居ないんだからっ!ずっと二人でまんぼうライダーをやっていきたい!」
正直、森川に対して責任を感じていた。
この世界に入ろうと決めたのは彼女自身だけれど、結果的にそのきっかけを作ったのは私だったから。
私が学祭で漫才をしようなんて誘わなければ、彼女はこんな綱渡りのような人生を歩む事はなかった筈で…
この世界やまんぼうライダーにしがみつくのは、単なる私のワガママでしかないと思っていた。
だからこそ、森川の言葉が嬉しかった。
物凄く。
「森川、元気な赤ちゃんを産んでね」
「間宮……」
森川の背中に回した腕に力を込める。
それに応えるように、森川の腕が私の背に回った。
「うん………ありがとう、間宮…」
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