18 / 25
まんぼうライダーは不滅です②
しおりを挟む「あんたと忍足さんの事だからこのまま結婚といきたいでしょうけれど、彼の事務所がどう反応を示すか……よね」
川瀬さんは、あくまでも冷静だ。
「話題性があるからあんた達の付き合いを黙認している部分はあるみたいだけれど………結婚となると……容易くはないんじゃない?」
「…………」
森川が悲しそうに目を伏せた。
「彼、事務所の稼ぎ手でもある訳だし………結婚でファンが離れていく可能性がある。通常なら、人気滑落の要素は排除したい所よね」
川瀬さんの言う事は一理ある。
女とは身勝手なもので、ずっと応援していた人が結婚した途端に見向きもしなくなる。
裏切られた、と被害妄想する。
その人が独身でいようが、自分のものになる筈なんてないのに。
「ましてやデキ婚となると、世間的なイメージはあまり良くないわよね。イメージ商売の芸能人としては痛いわね」
「い、今は授かり婚と言うんです」
森川が反論するも、川瀬さんの表情が変わる事はない。
「産む産まない、結婚するしないは置いといて、産む選択をするとしたら、あんたはどうするつもり?」
淡々とした問い掛けに、森川が「どうって……?」と首を傾げる。
「芸人辞めるかどうかよ」
空気が一気に重たくなり、私はゴクッと息を飲んだ。
いつかみたいに芸人辞めたい、引退したい……なんて言われたらどうしよう…と、胸がざわつく。
あの時とは状況が違う。
でも、辞めるなんて言って欲しくない。
身勝手なのは百も承知してる。
だけど、私の相方は森川ただ一人だ。
今更、森川以外の人間とコンビを組むのは嫌。
まんぼうライダーは森川と二人で築き上げてきたものだからこそ、そう思う。
森川が居なくなったら、全く意味がない。
私の世界が変わってしまう。
お願い、引退だけは………と祈るような気持ちで森川の言葉を待つ。
森川は、チラリと私を一瞥したかと思うと、真っ直ぐに川瀬さんを見て言う。
「子供は産みます。皆に反対されても、絶対産みます。でも、芸人は辞めません」
強い意志が込められた眼差しと口調。
普段の森川からは想像も出来ない凛々しさに、少なからず驚かされた。
「…………つまりは、出産育児の為に一時休業といった形を取る訳ね」
確認する川瀬さんに森川は「はい」と力強く返事をした。
それに対しても川瀬さんは淡々としたもので…
「休業するのは構わないけれど……育休が明けて業界に復帰する頃には、あんたの居場所はないかもしれないのよ?」
森川を試すように、正論ばかりを連ねる。
試される側の森川が腹を括ったように言う。
「居場所なんて、また作れば良いだけです。辞めるつもりは一切ありません」
思わず「森川……」と口にした私を川瀬さんが横目で見た。
けど、何も言わない。
「私以外の人間に、間宮の相方は名乗らせません」
相方の力強い言葉は、泣けるドラマよりも涙を誘う。
「私はこれからもまんぼうライダーでいたいです。あ、でも……間宮が嫌でなければ、だけど…」
最後は照れ臭そうに視線を落とす森川。
森川は、やはり私の相方だった。
「森川~っ!!」
衝動的に最愛の相方を抱き締めた。
「えっ、間宮?」
「ありがとう……ありがとう…」
溢れ出る涙をそのままに、感謝の言葉を繰り返す。
「私もやだよ、森川が居なくなるなんて」
「………間宮…」
「私の相方は、森川しか居ないんだからっ!ずっと二人でまんぼうライダーをやっていきたい!」
正直、森川に対して責任を感じていた。
この世界に入ろうと決めたのは彼女自身だけれど、結果的にそのきっかけを作ったのは私だったから。
私が学祭で漫才をしようなんて誘わなければ、彼女はこんな綱渡りのような人生を歩む事はなかった筈で…
この世界やまんぼうライダーにしがみつくのは、単なる私のワガママでしかないと思っていた。
だからこそ、森川の言葉が嬉しかった。
物凄く。
「森川、元気な赤ちゃんを産んでね」
「間宮……」
森川の背中に回した腕に力を込める。
それに応えるように、森川の腕が私の背に回った。
「うん………ありがとう、間宮…」
0
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
解けない魔法を このキスで
葉月 まい
恋愛
『さめない夢が叶う場所』
そこで出逢った二人は、
お互いを認識しないまま
同じ場所で再会する。
『自分の作ったドレスで女の子達をプリンセスに』
その想いでドレスを作る『ソルシエール』(魔法使い)
そんな彼女に、彼がかける魔法とは?
═•-⊰❉⊱•登場人物 •⊰❉⊱•-═
白石 美蘭 Miran Shiraishi(27歳)…ドレスブランド『ソルシエール』代表
新海 高良 Takara Shinkai(32歳)…リゾートホテル運営会社『新海ホテル&リゾート』 副社長
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる