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第二夜:指編みのマフラー【8】
しおりを挟む「唯、莉子……大きくなったね」
唯の耳に届いたのは、懐かしい声だった。
ずっと恋しがっていた声だった。
「お、おばあちゃーん!」
唯は、風と共に現れた人物に向かって走り出す。
莉子は、その場に立ち尽くしていた。
「会いたかったよ!ずっと、ずっと会いたかったよー!」
「よしよし」
胸に飛び込んで来た唯を強く抱き締め、背中を擦る晴子。
「おばあちゃん……?」
祖母の記憶がない莉子は、晴子を不思議そうに見上げている。
そんな莉子に、晴子は優しく笑いかけた。
「莉子もおいで」
その声を合図に、莉子も祖母の胸に飛び込んだ。
「おばあちゃん、おばあちゃん!」
「おーよしよし……二人して赤ちゃんみたいだねぇ」
生前良く着ていたグレーの割烹着を纏っている晴子に、これでもかという程にしがみつく唯と、それを真似る莉子。
久し振りの祖母の胸は、温かくて、柔らかくて
……優しい匂いがした。
晴子の右手は唯が、左手は莉子が其々繋ぐ。
「おばあちゃんのお手々、温かいね」
「あったかーい」
「唯の手も莉子の手も温かいよ」
三人で一面の花畑を歩く。
「お母さんね、おばあちゃんが死んでからずっと泣いてたんだよ。泣き虫だよねー?」
「あらあら……あの子はいくつになっても…」
困ったように笑う晴子に、唯が続ける。
「お父さんがね、またおばあちゃんが作ったポテトサラダ食べたいって言ってたよ」
「あら、そう。嬉しいねぇ」
「おじいちゃんがね、すごく寂しそうだよ。それに………」
唯の手に力が入る。
「ランドセルに動物園に……いっぱい、いっぱい約束したじゃん…」
晴子は、次に唯の口から飛び出してくるであろう言葉を予測して、小さく息を吐いた。
「………おばあちゃん、どうして死んじゃったの?」
唯の問いに、晴子は小さく「ごめんね…」と、呟いた。
「おねえちゃん、ないてるの?」
唯の目から大粒の涙が溢れた。
「ランドセル……買ってあげられなくてごめんね…動物園、一緒に行けなくてごめんね…」
晴子は、一度大きく息を吸い込んでから言う。
「お約束……どれもこれも守れなくてごめんね……悪いばあちゃんだ」
晴子の目にも涙が滲む。
唯との約束を一つも果たせないまま死んでしまった。
その想いが、激しい後悔として、晴子の胸を強く締め付ける。
同時に、孫の涙にも、胸が痛んだ。
「おねえちゃんもおばあちゃんもないちゃだめでしょ!にこにこしてなきゃ」
莉子の言葉に、ハッと我に返った晴子は「そうだね」と笑い、割烹着の袖で涙を拭った。
唯も手の甲で涙を拭い、鼻を啜る。
「りこね、いつもほいくえんがんばってるんだよ」
得意気な顔で話す莉子に、晴子は目を細める。
「そっかぁ、保育園は楽しい?」
「うん!おともだちいっぱいいるよ!おきゅうしょくのおまめ、きらいだけどがんばってたべてるんだよ!えらいでしょ?」
「うんうん、偉いね」
晴子に誉められ、莉子の顔がパアッと輝いた。
「私もね、学校で勉強頑張ってるよ!」
莉子に負けじと、唯も口を挟む。
「この前ね、書き初めで賞取ったよ。賞状ももらったんだ」
「凄いねぇ」
「おばあちゃんに見せたかったな」
「それからね」と、唯は続ける。
「春の運動会もね、1位いっぱい獲ったんだよ!」
「頑張ったねぇ」
「文化祭の絵も上手に描けたし、作品もかわいく出来たんだよ!おばあちゃんにも見てほしかったなぁ」
唯の言葉に、晴子は何も言わずに、ただ眉を下げて笑っていた。
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