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まんぼうライダー①
しおりを挟むそれは、進路に悩んでいた高三の秋だった。
「森川さん!森川さん!」
未だに提出出来ていない進路調査表を前に顰めっ面をしているであろう私の元に、見知らぬ女子がやって来た。
彼女は私の机の前に跪くと、上目遣いに見上げてくる。
「ねぇ、今度の学園祭で私と一緒に出し物やってくれないかなぁ?」
「は?」
いきなりの事で戸惑う私に、彼女は「この通り!」と、可愛らしい顔の前で手を合わせた。
「……てゆーか、誰?」
見知らぬ女子から突然訳の分からないお願いをされても、はっきり言って迷惑なだけ。
取り敢えず、まず初めに名を名乗って欲しい。
彼女はハッとしたように目を見開き、すぐに笑顔を作った。
「私、普通科三年の間宮 志保。階が違うから分かんない……よね?」
間宮と名乗った女子は、可愛く小首を傾げてみせる。
彼女の名を聞いて、私は思わず「あぁ……」と、声を挙げた。
普通科の間宮 志保……
名前だけなら聞いた事がある。
よく男子が可愛いと騒いでいるのを知っていたから。
噂は所詮噂で、実際は大した事ないんじゃない?なんて密かに思っていたけれど……
実物を目の前にして、案外噂も馬鹿には出来ないな………と、思った。
クリッとした大きな目に、小顔だからこそ似合うショートヘアが特徴的な間宮さん。
小柄で細くて……
でも、出る所は出ていて。
短めのスカートの裾から覗く脚は、恐らく私の二の腕と同じくらいの太さなんじゃないかと。
彼女の透き通るような白い肌には、ニキビ一つ見当たらない。
正に、美少女といっても過言ではなく、トドのようなもっさい外見をしている私とは180度違う。
いや、そもそも私と彼女は、同じ生物かどうかも怪しい。
「森川さんにしか頼めないの!お願い!」
「………どうして私なの?」
遠巻きに男子が見ているのが分かり、何となく居心地が悪い。
男子が見ているのは間宮さんだけだと当然知っているけれど。
こうなれば、引き立て役になっている自分が哀れに思えてくる。
「そもそも、出し物って何をするの?何の説明もなしにお願いされても訳分かんないし、困るんだけど」
悪気はないけれど、素っ気ない口調になってしまった。
それに対し、背後の方から「何だよ、あいつ…」と、誰かが苦々しげに吐き捨てた。
きっと、間宮ファンの男子が私の態度に腹を立てたのだろう。
しかし、間宮さんは私の態度に気を悪くする処か、逆によくぞ聞いてくれました!といった具合に表情を輝かせた。
「実はねぇ…」
切り出した間宮さんは、詳しい事情を饒舌に語り始めた。
仲間内でちょっとしたゲームをした事。
そのゲームで最下位になり、罰ゲームをしなければならない事。
更に、その罰ゲームの内容が、学園祭のステージ上で何でも良いから芸をしろというものだという事まで教えてくれた。
「それで、漫才をしようと思ってるんだよね」
「ふぅん……」
あくまでも自分には関係ない事として、軽く聞き流していると
「お願い!森川さん、私と一緒に漫才して!」
「………はぁ?」
切なそうな表情をした間宮さんが、私の手を掴んだ。
「私が考えたネタを出来るの、森川さんだけなの」
「…………そうは言われても…」
「本当にお願い!一生のお願い!」
私の力士のような大きな手に、間宮さんの爪が食い込んで来る。
彼女は、可憐な見掛けに反して、意外と力が強いらしい。
「悪いけどーーー…」
「お願いっ!!」
いくら真摯にお願いされても答えはノー。
大体、初対面の女子からの唐突なお願いを素直に聞いてあげられる程、私はお人好しじゃないし。
何より、漫才って……
大勢の前で恥をかくのは必至。
何よりも、私には何のメリットもない。
「他当たってくれる?」
私には全く関係ないといった素振りで、再び手元の進路調査表に視線を移す。
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