売名恋愛

江上蒼羽

文字の大きさ
25 / 137

計画始動⑦

しおりを挟む


巨大迷路前には、長い行列が出来ていた。

最後尾の看板には“只今1時間待ち”の表示がされている。


「混んでるなー……どうしよっか、待つ?別のアトラクションに行く?」

「んー…」


入り口の状況も分からない程の長い行列、沢山の人……

並ぶかどうするか迷っていると、そこへ小さな男の子を連れた家族が通り掛かる。


「パパー、ママーはやくー!はやくしないと、覆面ライダーショーはじまっちゃうよー!」

「はいはい、分かったから走らないで」


せがむ子供に引っ張られる両親の様子を見送ると、忍足さんが「へぇ……」 と声を挙げる。


「子供向けのイベントもやってるんだね。だから今日はこんなに混んでるのか」

「…………ふ、」

「ん?」


覆面ライダーショーという、聞き捨てならない単語を耳にし、体が興奮に震える。


「覆面ライダーショー……」


上事のように呟くと、忍足さんが園内地図を見ながら言う。


「うん、イベント広場でやるみたいだね。11時半からと、2時半からの二回講演……」

「み、観たい観たい!観たいです!」


激しく食い付く私に忍足さんは「え……」と、たじろぐ。


「子供向けのショーなのに?」

「はい!是非!何が何でも!!」

「へ、へぇ……そう…」


鼻息荒く詰め寄る私に、忍足さんはあからさまなドン引き様を見せる。

薄く笑った口元が微かにヒクついている。

けれども、そんな事、今はどうだっていい。

覆面ライダーのショーがあるという事を耳にした以上、観覧希望、大希望。

これを観ずにして帰れる筈もない。


「流石にちょっと……恥ずかしいよ、いい大人がさ」

「お願いします」

「いや、でもさ……」


明らかに嫌がっている様子の忍足さんに何度もしつこく「お願いします」と食い下がる。

小さな男の子が駄々を捏ねるならまだしも、いい歳した女が「覆面ライダーショーが観たい」とごねる姿は可愛くないだろうと思う。

その辺は、自分でも分かってはいるのだけれど、やはり、観たいものは観たいのだ。

覆面ライダーシリーズの大ファンとして。


「忍足さんが嫌なら、私一人で観に行きます」

「え……」


ショーが始まる10分前。

渋る忍足さんを見限り、イベント広場の方へと体を向ける。


「終わるまでどこかでテキトーに時間を潰してて下さい。私は、地球の危機を救うヒーローへ熱い声援を送ってきます」


早く行かないと良い場所が取られてしまう……

なるべく良く見える位置からヒーローの勇姿を拝みたい。

忍足さんには悪いけれど、一時的に計画から離脱させて貰う事にした。


「あ、ちょっと……」


背後の忍足さんに構わず歩を進める。

脳内は、既に覆面ライダーショーで埋め尽くされていて

最早、計画すらどうでも良くなっていた。


「覆面ライダーショー……覆面ライダーショー……」


頬を緩ませ、ブツブツ言いながら歩く20代前半の女。

端から見たら不気味な事、この上ないだろうな……と思う。


「待って、素良」


少し慌てた様子で追い掛けてきた忍足さんは、私の二の腕を引く。

そしてそのまま手を取ると、強く握ってきた。


「付き合うから、一人で行動しないで」


忍足さんは、私の耳元で「計画の意味がない」と囁いた。


「それに、さっき名前で呼ぶように言ったよね?」


私の勝手な行動に苛立っているのか、忍足さんの語気がやや強い。

否が応にも、ビビらされる。

怖い顔付きで睨むように私を見る忍足さん。


「………難易度が高い事を要求されても応じられない場合があります。私にあまり期待しないで下さい」


強気で反論してみたものの、直視出来ずに俯いた。


「あぁ、だよね。恋愛初心者に無理な要求して申し訳無い」


人を馬鹿にしたように笑いを含ませて放たれた言葉……

カァッと、頬が紅潮する。

返すべき言葉が見当たらず、尚且つ、繋がれた手を振り解く根性も度胸もない私に、忍足さんは溜め息混じりに呟く。


「仕事だと割り切ってやってくれないかな?お互いの今後が掛かってるんだし」

「っ、……」


それを言われたら、ぐうの根も出てきやしない。

通りすがりの人が好奇に満ちた目で私と忍足さんの様子を観察している。

声のボリュームは落としているから内容までは聞かれないにしろ、漂う険悪な雰囲気からして、痴話喧嘩を始めたと思われているに違いない。

痴話という程親しくもないけれど。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。 地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。 水村ゆい、23歳、シングルマザー。 誰にも言えないけど、愛息子の父親は、 今人気絶頂バンドのボーカルなんです。 初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。 待っている… 人生で、一度だけの恋。 【完結】ありがとうございました‼︎

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中

白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。 思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。 愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ 向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。 アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。 そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___ 異世界恋愛 《完結しました》

処理中です...