売名恋愛

江上蒼羽

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計画始動⑧

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これ以上馬鹿にされるのは、私としてもメンツが立たない。


「…………下の名前でってのは…流石に仕事でもちょっと無理です……」

「より親しさを演出する為にはさ……無理とか言ってないで協力してよ」


キツめの口調で言われ、私はすっかり萎縮。

仕方なく「分かりましたよ……」と、腹を括る。


「……けけけけけ………け、慧史さん…」


私としては精一杯のこれを、忍足さんは肩を揺らして笑う。


「あはは……今、“け”何回言った?多過ぎじゃない?俺、そんなに変な名前じゃないんだけど」

「………」


どこまで人を見下せば気が済むのか……

この男、腹が立って仕方がない。




ギクシャクした空気を纏いながら覆面ライダーショーが開催されるイベント広場へとやって来た。

当然、小さな子供連れの客で席はほぼ埋まっている。


「座れそうもないけど?」

「…………」


不機嫌そうに言う忍足さんを無視して、どこかに空いているスペースがないか探す。


「あ、あそこ!」


たまたま見付けた通路の脇の極小スペース。

そこへ一目散に向かう。

嫌々ついてくる忍足さんの「何でいい歳してこんな……」というボヤキは聞こえない振り。




開演3分前。

ギリギリセーフで客席した席で、隣り合った家族が物珍しげに私と忍足さんを見る。

何でデート中のカップルが……?とでも言いたげに。

居心地悪さを感じながら開演まで今か今かと待っていると、隣に座る一家の母親らしき若い女性が「あのー…」と声を掛けてきた。


「まんぼうライダーのボケの方……ですよね?」


席について早々の顔バレ。

廃れたと思っていたけど、案外私もまだまだ……と、密かにほくそ笑む。

ほれ見た事か、伊達に一世を風靡してないんだから………なんて。

散々人を馬鹿にしていた忍足さんも、これできっと私を見直した事だろう。


「はい、まんぼうライダー森川 素良です」


ここはファンサービスとして愛想良く振る舞う。


「わぁー、やっぱり!握手して貰えますか?」

「勿論です」


差し出された手を取ると、忘れかけていた優越感が甦る。

やっぱり私は芸能人だったんだって、再認識させられる。


「私、好きだったんですよー」

「え、あ……だった…?」


って、過去形かよ……


「森川さんのボケ、そこそこ面白かったです」


そ、そこそこ………かよ!

心の中でツッコミながら激しく落ち込む。

隣の忍足さんが笑いを堪えている姿を横目で確認して、更に凹む。


「そちらの方は………俳優さんですよね?」


忍足さんの存在に気付いた女性が、目を輝かせる。


「確か、この前のスペシャルドラマで研修医役やってた人………名前はえっと…」

「忍足と申します」


爽やかスマイルで愛想良く振る舞う忍足さん。

女性は、忍足さんとも握手を交わし、嬉しそうにはしゃいだ。

私と握手した時よりも喜んでいる様に、敗北感を味わわされる。

忍足さんの勝ち誇った顔……

初めて会った時の感じの良さが嘘のように、嫌味なオーラが漂っている。

時間が経過するにつれ、彼の本性がちょいちょい顔を覗かせていて……

どうやら、今日の待ち合わせの際の好青年っぷりも幻だったらしい。

この人、実は性格悪いんだな……と悟った。


「何かの撮影ですか?」


カメラやスタッフの姿を探すように周囲を見回しながら聞いてくる女性に、忍足さんはサラリと「完全プライベートです」と答えた。
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