売名恋愛

江上蒼羽

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どういう文面にしようか悩みに悩みながら、一文字ずつ慎重に文字を打ち込んでいく。




ソラ
【お疲れ様です
私もマネージャーさんから連絡もらってニュース観たんですけど、ビックリしました!
ここまで大きく取り沙汰されるなんて~(/▽\)】


けーし
【びっくりですよね。
でも、大きな第一歩です。】


ソラ
【はい、この一歩が実りある収穫になるよう頑張ろうと思います(^_^ゞ
聞いた話では、忍足さんの方はかなり大変な事になっているとか…】


けーし
【自宅と事務所前に凄い数の報道陣が集まってて……
今日はオフだったんですけど、家から一歩も出るなって事務所から言われてしまいました(笑)
缶詰め状態です。】


ソラ
【そうなんですか?うわぁ~(^_^;)
ゆっくり過ごして下さい
それはそうと早速売名の効果がありました♪
これから久し振りのお仕事です】


けーし
【やりましたね!
緊張してませんか?
肩の力を抜いて、リラックスですよ。
頑張って下さい、応援してます。】




忍足さんと、いくつかLINEのやり取りをする内に、緊張が少しずつ解れてきた。

それでも、完全に……とはいかないけれど。

少なくとも、煽っていた心臓が正常に近付きつつある。





会場入りして直ぐに、主催者とイベント司会者に其々挨拶をする。


「本日はよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


頭を深々と下げる私と間宮。

主催者側のお偉方らしき中年男性が嬉しそうに目を細める。


「申し訳ないですね、急にコンビで……と我が儘を申しまして…」

「いえ、とんでもございません!」


確かに急ではあったけれど、私としては仕事が貰えてありがたい。

男性が私に向かって意味ありげに微笑む。


「新聞を拝見したのですが……大変ですねぇ、森川さん」

「え……あ、はいぃ…」


必死に作り笑いをする私に、彼は「で、報道の真相は?」と、野暮な質問を浴びせてくる。


「え………っと…」


来るだろうな……と前以て覚悟はしていたのに、いざ、その時がやってきた途端、言葉が出てこない。

何度も頭の中で「彼とはお友達です」「その質問にはお答え出来ません」等とシミュレートした筈なのに。

咄嗟の機転が利かない、対応出来ない自分が腹立たしい。

おどおどする私を見かねてか、すかさず川瀬さんがフォローに入る。


「大変申し訳ございませんが、その件についての詳細はお答えしかねます」

「ははは……そうですか…そりゃ残念…」


川瀬さんのお陰で命拾いし、ホッと胸を撫で下ろしていると、背中をどつかれた。

振り向けば、ほんの今まで営業スマイルだった川瀬さんの鬼の形相が……

何やってんの?!しっかりやんなさいよ!……と言いたげに、私を睨んでいた。




イベント関係者達に挨拶が済むと、控え室に通された。

スタイリストさんが用意してくれた衣装に袖を通し、メイクさんから、舞台映えするよう、いつもより濃いめのメイクを施される。

その後、最終的な打ち合わせをし、入念に段取りを確認。

イベントが始まったら、司会者の紹介で入場し、商品開発者の説明に相槌を打ちながら、とにかく新商品の使用感、良さをアピールすれば良いだけの事。

新人でも出来る簡単な仕事。

勿論、PRする以上、商品についても熟知していないといけない。

使用感に関しては、本当に使用した間宮に任せることにして、私はシャンプーの成分やボトルの外見等について話題を広げる事に専念しようと思う。



ーー大丈夫、私にも出来る。

…いや、私なら出来る。



成分表を眺めながら、己に暗示を掛ける。

仕舞いには、突如「あ、え、い、う、え、お、あ、お……」と、発声練習をし始めたりして…


「も、森川……気合い入ってんね~…」


苦笑う間宮に構わず、声出しを続けていると、またLINEの通知音が鳴った。
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