42 / 137
飛躍と恋心④
しおりを挟むデブ飯云々の話が済んだ後、忍足さんが徐にバッグの中を漁り出す。
「実は、森川さんに報告したい事があるんですよ」
そう言って、彼が取り出したのは、先程見ていた冊子とは別の冊子だった。
その題字を見て、私の胸がきゅんと高鳴る。
「こ、ここ、これって……」
「もし良ければ、ご覧になられますか?」
小刻みに震える手で、差し出された冊子を受け取る。
「来秋公開の覆面ライダーシリーズ最新作の映画に、急遽覆面ライダーブレイブとして出演する事が決まりました」
「ぶぶぶ………ブレイブ役?!本当ですか?!」
興奮気味に食い付く私に、彼は目を細めながら頷いた。
「えぇ。脚本を担当した方がストーリーを付け加えてくれたようで……過去からやって来たライダーとして、主人公ライダーを導く、割りと重要な役所です」
「わわっ、何その設定……素晴らしいです!」
【覆面ライダー煌刃~遥かなる時空を越えた戦い~】
テンション急上昇、血圧も急上昇中の私の目は、脚本とみられる冊子の題字に釘付け状態。
「散々な結果に終わったデビュー作のリベンジのチャンスを頂けるとは、思ってもみませんでした」
「凄いじゃないですか!衣装もジャスティス登場時のと変わらないんですか?」
「さぁ……その辺はまだ詳しくは………でも、主役を食う位の演技で、最高の映画にしたいと思っています。子供達にも喜んで貰いたいので」
誇らしげに語る忍足さんは「どうぞ、中を見て下さい」と、脚本を開くように促してくる。
けれども、私は脚本を握ったまま開けない。
……見たい、読みたい、知りたい…
ブレイブがどんな風に登場して、どんな台詞を喋って、どんな風に主人公を導くのか…
最新作のライダーがどんなキャラクターで、どんな設定なのか……
ストーリーは、どう動いていくのか………非常に気になる。
「ぬぬぬ……」
手は開こうとするけれど、心は必死でそれを阻止している。
ぐぐっと奥歯を食い縛りながら、冊子を忍足さんに返す。
「ご覧にならないのですか?」
小首を傾げる忍足さんに、私は「はいぃ…」と頷く。
「凄く気になる所なんですけど、楽しみは映画公開まで取っておく事にします」
「そうですか…」
恐らく脚本を読んだ私の反応を楽しみにしていたであろう忍足さんは、少し残念そうに眉を下げた。
と、そこへ
「お待たせ致しました」
店員がやって来て、豚しゃぶ用の出汁が入った鍋がコンロにセットされる。
肉と野菜がふんだんに盛り合わせられた皿と、立ち込める出汁の香りにより、私のお腹が「ぐうぅ~」と、情けない音を出した。
「可愛らしい音ですね」
「………そ、空耳です」
二人で「いただきます」と、手を合わせてから箸を握る。
手始めに野菜から………と、透き通る程薄くスライスされた大根をしゃぶしゃぶ…
「ブレイブの件は、絶対、森川さんに一番にお知らせしようと思っていたんですよ」
爽やかに微笑む忍足さんの言葉に、私の胸がドキッと跳ねた。
彼女でも………それ以前に友達でもない私に一番に………というのが、嬉しい。
「森川さんなら、きっと喜んでくれると思って………そしたら、案の定…」
「え、へへ……ちょっと興奮し過ぎちゃいましたけど…」
出汁に潜らせた大根を口に含めば、出汁の香りが口いっぱいに広がった。
「森川さんとの交際報道が出てから、他にも沢山仕事が入ってきました」
「それは良かったです」
「今までオーディションでしか役を貰えなかったのが嘘みたいですよ」
忍足さんは、豚肉をしゃぶしゃぶして、口へと運ぶ。
「おいしいですね」
そう微笑みかけられ、照れながら私も「そうですね」と、微笑み返す。
0
あなたにおすすめの小説
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中
白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。
思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。
愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ
向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。
アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。
そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___
異世界恋愛 《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる