売名恋愛

江上蒼羽

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飛躍と恋心④

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デブ飯云々の話が済んだ後、忍足さんが徐にバッグの中を漁り出す。


「実は、森川さんに報告したい事があるんですよ」


そう言って、彼が取り出したのは、先程見ていた冊子とは別の冊子だった。

その題字を見て、私の胸がきゅんと高鳴る。


「こ、ここ、これって……」

「もし良ければ、ご覧になられますか?」


小刻みに震える手で、差し出された冊子を受け取る。


「来秋公開の覆面ライダーシリーズ最新作の映画に、急遽覆面ライダーブレイブとして出演する事が決まりました」

「ぶぶぶ………ブレイブ役?!本当ですか?!」


興奮気味に食い付く私に、彼は目を細めながら頷いた。


「えぇ。脚本を担当した方がストーリーを付け加えてくれたようで……過去からやって来たライダーとして、主人公ライダーを導く、割りと重要な役所です」

「わわっ、何その設定……素晴らしいです!」





【覆面ライダー煌刃~遥かなる時空を越えた戦い~】




テンション急上昇、血圧も急上昇中の私の目は、脚本とみられる冊子の題字に釘付け状態。


「散々な結果に終わったデビュー作のリベンジのチャンスを頂けるとは、思ってもみませんでした」

「凄いじゃないですか!衣装もジャスティス登場時のと変わらないんですか?」

「さぁ……その辺はまだ詳しくは………でも、主役を食う位の演技で、最高の映画にしたいと思っています。子供達にも喜んで貰いたいので」


誇らしげに語る忍足さんは「どうぞ、中を見て下さい」と、脚本を開くように促してくる。


けれども、私は脚本を握ったまま開けない。


……見たい、読みたい、知りたい…

ブレイブがどんな風に登場して、どんな台詞を喋って、どんな風に主人公を導くのか…

最新作のライダーがどんなキャラクターで、どんな設定なのか……

ストーリーは、どう動いていくのか………非常に気になる。


「ぬぬぬ……」


手は開こうとするけれど、心は必死でそれを阻止している。

ぐぐっと奥歯を食い縛りながら、冊子を忍足さんに返す。


「ご覧にならないのですか?」


小首を傾げる忍足さんに、私は「はいぃ…」と頷く。


「凄く気になる所なんですけど、楽しみは映画公開まで取っておく事にします」

「そうですか…」


恐らく脚本を読んだ私の反応を楽しみにしていたであろう忍足さんは、少し残念そうに眉を下げた。

と、そこへ


「お待たせ致しました」


店員がやって来て、豚しゃぶ用の出汁が入った鍋がコンロにセットされる。

肉と野菜がふんだんに盛り合わせられた皿と、立ち込める出汁の香りにより、私のお腹が「ぐうぅ~」と、情けない音を出した。


「可愛らしい音ですね」

「………そ、空耳です」


二人で「いただきます」と、手を合わせてから箸を握る。

手始めに野菜から………と、透き通る程薄くスライスされた大根をしゃぶしゃぶ…


「ブレイブの件は、絶対、森川さんに一番にお知らせしようと思っていたんですよ」


爽やかに微笑む忍足さんの言葉に、私の胸がドキッと跳ねた。

彼女でも………それ以前に友達でもない私に一番に………というのが、嬉しい。


「森川さんなら、きっと喜んでくれると思って………そしたら、案の定…」

「え、へへ……ちょっと興奮し過ぎちゃいましたけど…」


出汁に潜らせた大根を口に含めば、出汁の香りが口いっぱいに広がった。


「森川さんとの交際報道が出てから、他にも沢山仕事が入ってきました」

「それは良かったです」

「今までオーディションでしか役を貰えなかったのが嘘みたいですよ」


忍足さんは、豚肉をしゃぶしゃぶして、口へと運ぶ。


「おいしいですね」


そう微笑みかけられ、照れながら私も「そうですね」と、微笑み返す。
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