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飛躍と恋心③
しおりを挟むお喋り好きないわし師匠のお陰で、2時間の予定の収録が3時間越え。
張り切って声を張り上げた所為と緊張で、喉の渇きが尋常じゃない。
川瀬マネージャーからの差し入れのお茶が、極上の美味しさに感じた程だったし。
長い時間椅子に座りっぱなしだった為、腰も痛かったりする。
楽しいトークで大盛り上がりだったから、時間はあっという間に感じたけれど、疲労は相応に体に蓄積されている。
「それじゃ、森川、まったね~!お疲れ~!」
次の日の朝、生放送に曜日レギュラーとして出演する間宮は、収録後早々に帰宅。
私も翌日に仕事が控えているけれど、少しだけ寄り道をする予定だ。
報道が出て以来、ずっとLINEでのやり取りのみで、直接会えずにいた彼と食事の約束をしていたから。
指定された待ち合わせ場所へ行くと、彼は既に来ていた。
「お疲れ様です」
個室の扉を開けるなり、読んでいた冊子を閉じて優しい笑顔で迎えてくれた忍足さん。
前回より、少し窶れたような印象を受けた。
「お疲れ様です。すみません、お待たせしちゃって……思いの外収録が長引いてしまって…」
約束の時間から、30分以上も経過している。
申し訳なさから縮こまる私に、彼は「いえ、大丈夫ですよ」と、目を細める。
「この業界は、時間が読めませんから仕方がないですよ」
「……そう言って頂けるとありがたいです」
私が席につくと同時に、彼は冊子をバッグに仕舞った。
「お久し振りですね。お元気でしたか?」
「は、はい。仕事が忙しくなって、あんまり眠れてないですけど、取り敢えずは元気です」
私は私で忙しく、彼は彼で忙しく……
顔を合わせるのは、実に三週間振り。
「忍足さんは、少しお痩せになられました………よね?」
女性には嬉しいこの台詞。
でも、元々痩せ型の男性には失礼なような気がして、恐る恐る聞いてみた。
前の偽装デートの時より、頬が痩けて見えるのは、私の気の所為だろうか?
「あ、はは………分かります?只でさえ貧弱なのに、磨きが掛かってしまいました」
そう言って眉を下げる彼は、やはり気にしている模様。
「忙しくて食べている暇がないんですか?」
「………えぇ、まぁ……そんな所です」
川瀬マネージャーを通して、忍足さんの仕事量が大幅に膨れ上がったらしい事は聞いている。
激務に追われているなら、きっと簡単な軽食とかで済ませているのだろう。
「あ、もしかして、役作りですか?」
筋肉を付けてムキムキになったかと思えば、病気の役を演じる為に極限まで体重を落としたり……
演じる役柄によって、スタイルを変幻自在に変えてしまうストイックな役者さんも中にはいる。
プロ根性凄いよなぁ……と、感心させられると同時に心配にもなるけれど。
もしかしたら、忍足さんもその類いなのかもしれない。
減量中のプロボクサー役とかのオファーがあったとかで……
とはいえ、やり過ぎはよろしくない。
「顔色もあまり良くないみたいですけど、無理なさらないで下さいね?」
青白い顔色をした忍足さんは、私の言葉に「大丈夫です」と笑ってみせた。
「ここの所、少し食が細くなっているだけです。体調は良いので、何の問題もありません」
「………そうなんですか?」
「えぇ、お気遣いありがとうございます」
何か悩み事でもあるのだろうか?
気になりながらも、これ以上立ち入った事を聞くべきではないような気もする。
私は偽装の恋人ではあるものの、本当の彼女という立場ではないのだから。
「あの………もし、食欲が復活したら、手っ取り早く太れるデブ飯の作り方教えますね」
「ぶっ……デブ飯、ですか?」
「過去の経験から生まれた禁断の食物です」
私なりに気を遣った筈が、何かを間違えたらしい。
忍足さんが可笑しそうに笑う。
「ははは、禁断のって……ある意味怖いな」
「いや、おいしいんですよ?ただ、かなりの高カロリーで…」
元オデブだからこそ、伝授出来る秘伝のメニュー。
丼いっぱいのご飯にマヨネーズとチーズとお肉と……
今考えると、かなり恐ろしい胸焼けメニューだ。
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