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飛躍と恋心②
しおりを挟む「テーマ変えます」
ある程度収録が進み、いわし師匠が仕切り直しに入る。
「続いてのテーマ、コイツとは気が合わないなと感じた時」
いわし師匠が発表したテーマに添って、ゲスト達が順番に取って置きのネタ的エピソードを語っていく。
過去の交際相手と食の好みが合わなかったというエピソードや、番組ADと噛み合わなかったエピソード……等々。
大した事のないごく普通の内容でも、いわし師匠の巧みな話術で、面白可笑しいエピソードに変わるから凄い。
間宮は、私との趣味の違いを暴露。
「私はBL好きなのに、相方の森川は特撮オタクなんですよ。オタク同士通じるものがありながらも、決して交わらない所もあってーーー…」
間宮のお陰で、私の覆面ライダーオタクが、スタジオにいる人全員にバレてしまった。
笑いは取れたけれども、恥ずかしくて入る穴があれば入りたい。
殆んどのゲストが喋り終わって、自分の順番はまだか、と目を泳がせていると、いわし師匠が不意に教鞭の先を私に向ける。
「次は森川!お前の、コイツとは気が合わないなと感じたエピソード聞かせてくれ」
「は、はい」
自ずと、背筋がピンと伸びた。
「私、長らく芸能界から遠ざかっていたんですが、その時、お弁当屋でアルバイトしていたんですよ」
噛まないよう、吃らないよう、ハキハキ喋るよう心掛ける。
「で、よく余った食材にラップを掛けて冷蔵庫に仕舞ってたんですけど、そのラップがいつも箱の中で巻き戻ってるんですよ。私が使う時に限って」
「あー分かるわぁ、よくなるよなぁ」
いわし師匠の相槌に頷きながら、声の大きさはこれでいいのか、速さは大丈夫か………
与えられたチャンスをちゃんと活かせるよう、逸る気持ちを抑えながら、自分の中で一番だと思うエピソードを語る。
「箱から出して、引き出そうとするんですけど、巻き始めが分からなくて………目を凝らして必死に探すんですよね」
分かりやすいよう、ジェスチャーも付けてみた。
「巻き始めの部分を見付けてみても、引き出した瞬間、変に斜めの切り込みが入って……」
「イライラすんよなぁ!ほんで?」
「バランス悪く斜めのまま一周しちゃったりして……私、ラップとは気が合わないんですよね。一生涯、分かり合えないと思います」
話し終え、満足感いっぱいに大きく息を吐いた。
ところが、いわし師匠の様子がおかしい。
俯きがちに手で顔を覆いながら、項垂れている。
間宮が肘で私を小突いた。
それで、自分がやらかした事に気付く。
「………うん、分かる。分かるで…」
低いトーンで言う師匠に不安を覚えつつ、次の言葉を待つ。
「お前の言う事は共感出来る。ただな………物やのーて、人や、人!テーマ履き違えてちゃアカンやろ」
呆れ果てたように言ういわし師匠に、私の全身から血の気が引いていく。
「流石にラップとは、気合わへんやろなぁ……逆に意思の疎通取れたら凄い事やで」
「え……」
怒りを通り越し、呆れているかと思いきや、笑いへと話を持っていこうとするいわし師匠。
笑いへの貪欲さは業界一と名高いだけあって、頭の回転も一流だ。
そんな姿を見せ付けられたら、私の闘志にも火が着いてしまう。
「毎回ラップの箱握って、言う事聞け!ってテレパシー送ってみてるんですけど、中々通じないんです、これが」
「通じるかいな!」
「だから私、家ではラップ使わないんです」
「そりゃ不便とちゃうか?どうすんのや?食べ残した筑前煮とか……」
間宮が「何で筑前煮なんですか?」と、いわし師匠にツッコミを入れると、師匠が「例えば、やがな」と。
そのやり取りにスタジオが爆笑。
私のテンションも高く上がった。
「ジッパー付きの保存袋に皿ごと入れて、冷蔵庫にINです。あ、勿論、空気は抜きますし、汁漏れが怖いんで横には出来ません」
「保存袋に皿ごとて………使い方斬新過ぎるわ!タッパーつこたらええんちゃうのか?!」
いわし師匠の絶叫に近いツッコミがスタジオに響くと、本日の収録一の笑いの渦が発生した。
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