売名恋愛

江上蒼羽

文字の大きさ
40 / 137

飛躍と恋心②

しおりを挟む


「テーマ変えます」


ある程度収録が進み、いわし師匠が仕切り直しに入る。


「続いてのテーマ、コイツとは気が合わないなと感じた時」


いわし師匠が発表したテーマに添って、ゲスト達が順番に取って置きのネタ的エピソードを語っていく。

過去の交際相手と食の好みが合わなかったというエピソードや、番組ADと噛み合わなかったエピソード……等々。

大した事のないごく普通の内容でも、いわし師匠の巧みな話術で、面白可笑しいエピソードに変わるから凄い。

間宮は、私との趣味の違いを暴露。


「私はBL好きなのに、相方の森川は特撮オタクなんですよ。オタク同士通じるものがありながらも、決して交わらない所もあってーーー…」


間宮のお陰で、私の覆面ライダーオタクが、スタジオにいる人全員にバレてしまった。

笑いは取れたけれども、恥ずかしくて入る穴があれば入りたい。



殆んどのゲストが喋り終わって、自分の順番はまだか、と目を泳がせていると、いわし師匠が不意に教鞭の先を私に向ける。


「次は森川!お前の、コイツとは気が合わないなと感じたエピソード聞かせてくれ」

「は、はい」


自ずと、背筋がピンと伸びた。


「私、長らく芸能界から遠ざかっていたんですが、その時、お弁当屋でアルバイトしていたんですよ」


噛まないよう、吃らないよう、ハキハキ喋るよう心掛ける。


「で、よく余った食材にラップを掛けて冷蔵庫に仕舞ってたんですけど、そのラップがいつも箱の中で巻き戻ってるんですよ。私が使う時に限って」

「あー分かるわぁ、よくなるよなぁ」


いわし師匠の相槌に頷きながら、声の大きさはこれでいいのか、速さは大丈夫か………

与えられたチャンスをちゃんと活かせるよう、逸る気持ちを抑えながら、自分の中で一番だと思うエピソードを語る。


「箱から出して、引き出そうとするんですけど、巻き始めが分からなくて………目を凝らして必死に探すんですよね」


分かりやすいよう、ジェスチャーも付けてみた。


「巻き始めの部分を見付けてみても、引き出した瞬間、変に斜めの切り込みが入って……」

「イライラすんよなぁ!ほんで?」

「バランス悪く斜めのまま一周しちゃったりして……私、ラップとは気が合わないんですよね。一生涯、分かり合えないと思います」


話し終え、満足感いっぱいに大きく息を吐いた。

ところが、いわし師匠の様子がおかしい。

俯きがちに手で顔を覆いながら、項垂れている。

間宮が肘で私を小突いた。

それで、自分がやらかした事に気付く。


「………うん、分かる。分かるで…」


低いトーンで言う師匠に不安を覚えつつ、次の言葉を待つ。


「お前の言う事は共感出来る。ただな………物やのーて、人や、人!テーマ履き違えてちゃアカンやろ」


呆れ果てたように言ういわし師匠に、私の全身から血の気が引いていく。


「流石にラップとは、気合わへんやろなぁ……逆に意思の疎通取れたら凄い事やで」

「え……」


怒りを通り越し、呆れているかと思いきや、笑いへと話を持っていこうとするいわし師匠。

笑いへの貪欲さは業界一と名高いだけあって、頭の回転も一流だ。

そんな姿を見せ付けられたら、私の闘志にも火が着いてしまう。


「毎回ラップの箱握って、言う事聞け!ってテレパシー送ってみてるんですけど、中々通じないんです、これが」

「通じるかいな!」

「だから私、家ではラップ使わないんです」

「そりゃ不便とちゃうか?どうすんのや?食べ残した筑前煮とか……」


間宮が「何で筑前煮なんですか?」と、いわし師匠にツッコミを入れると、師匠が「例えば、やがな」と。

そのやり取りにスタジオが爆笑。

私のテンションも高く上がった。


「ジッパー付きの保存袋に皿ごと入れて、冷蔵庫にINです。あ、勿論、空気は抜きますし、汁漏れが怖いんで横には出来ません」

「保存袋に皿ごとて………使い方斬新過ぎるわ!タッパーつこたらええんちゃうのか?!」


いわし師匠の絶叫に近いツッコミがスタジオに響くと、本日の収録一の笑いの渦が発生した。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。 地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。 水村ゆい、23歳、シングルマザー。 誰にも言えないけど、愛息子の父親は、 今人気絶頂バンドのボーカルなんです。 初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。 待っている… 人生で、一度だけの恋。 【完結】ありがとうございました‼︎

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中

白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。 思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。 愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ 向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。 アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。 そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___ 異世界恋愛 《完結しました》

処理中です...