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飛躍と恋心①
しおりを挟む「さぁ、今夜も始まりました。今夜も素敵なゲストをお招きして、楽しいトークをしたいと思います」
全国ネットの人気トークバラエティー“いわし御殿”の収録。
お笑い界の重鎮、いわし師匠の司会の元、テーマに沿ってゲストがトークする番組。
デビュー当時は、よくコンビでお呼びが掛かったけれど、人気が下火になった頃から私は呼ばれなくなり……
間宮がピンで出演しているのを、薄型テレビの前でよく視聴していたものだ。
間宮は、女芸人の中では断トツで地デジ対応型の美女。
その上、いわし師匠に気に入られていたから、よくトーク中に弄られていたのを覚えている。
あの時は、心底羨ましかった。
私と間宮は、雛壇の端の芸人席に座り、いわし師匠の軽妙な語りに耳を澄ませる。
「初登場のゲストが3人おんねんな。まずは、グラビアアイドルの姫川 凜さん」
「初めまして~よろしくお願いしま~す」
「さっすが、グラビアやってるだけあって、スタイルええなぁ。Fカップあるんやて?挟まれたいわぁ」
「やぁだ~いわしさんたら~恥ずかしいです~」
「ええやん、触るだけでも。そのお隣も初登場、モノマネタレントのーーー…」
一人一人、ゲストを笑いを交えて紹介していくいわし師匠。
彼のトークの巧みさに脱帽していると、ふと、師匠と視線が絡む。
「何と………久し振りのコンビでの登場やな、まんぼうライダーの二人」
うっかり油断していた所の、急なフリ。
笑いに厳しいいわし師匠を前に、無様な真似は出来ない。
「どーもー!まんぼうライダー間宮でーす!」
「同じくまんぼうライダー、森の妖精、川の精霊、お空の上のご先祖様達のアイドル、森川 素良でーす!」
自己紹介がてら、過去のネタを披露。
すかさず、間宮から鋭いツッコミが入る。
「アンタ、そのネタまだやんの?古いわっ!」
「古くないよ、リバイバルだよ」
「リバイバル?アホか!流行ってないし!流行語大賞に掠ってすらないわ!」
事前に打ち合わせたゆる~いネタを軽く繰り広げてから、席を立ち、二人でいわし師匠に向かって一礼。
「お久し振りでございます、いわし師匠。今夜はよろしくお願いします」
「よろしくお願いしま~す」
いわし師匠は、やや渋い顔で「25点やな……」と呟く。
途端にスタジオに笑いが起こった。
いわし師匠からのダメ出しはキツい。
でも、愛のあるキツさだ。
スタジオの笑いに満足そうな笑顔を浮かべたいわし師匠は、雛壇の真ん前に用意された台座に凭れながら言う。
「何でも、森川は、ちょっと前に大きなニュースになったなぁ。アレ、どないなん?」
早速のいわし師匠の弄り。
大御所と対峙している自分に感動を覚えつつ、例によって例の言葉で質問をかわす。
「お友達です」
間髪入れずに「嘘こけ!」と、間宮よりも鋭いツッコミ。
「なーにが、お友達です、や!ただの友達が手なんか繋がへんやろ。付きおうてんちゃうんか?」
いわし師匠の目は、真剣そのもの。
自分の番組を盛り上げようと、かなり力を入れていらっしゃる。
それが大きなプレッシャーとなり、私に襲い掛かってくる。
「それとも最近の若いもんは、お友達でも手を繋ぐもんなんか?どない思います?大林さん」
前席中央に鎮座する大物演歌歌手に話を振るいわし師匠。
流石に、トークのテンポは速い。
「そうよねぇ……手を繋いで寄り添って歩いてたっていうじゃない?お友達…ではないわよねぇ」
年齢相応のゆったりとした口調で語る大林さんに、いわし師匠も「ですよねぇ?」と、頷く。
「因みに、あの彼とどこまでいっとんねん。Aか?Bか?それとも、Zまで到達したんか?」
いわし師匠の下世話な弄り。
スタジオゲスト達が「Zって何するんですか?」「今時アルファベットはないですよ~」等とどよめく中、いわし師匠の期待の目が私を捉えて離さない。
お前も芸人なら、上手くボケて笑いを取れ………と、私の芸人としての実力を試しているかのよう。
「いやぁ~本当にお友達なんですよ。アルファベットにすら達していないというか………まだ多分イロハニ…の、ホ辺りの段階で~…」
「イロハニ……て……お前、ほんなら、まだまだ先は長いで」
内心ドキドキしながら精一杯のボケを披露すると、いわし師匠が乗ってくれ、またスタジオに笑いが起こる。
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