売名恋愛

江上蒼羽

文字の大きさ
上 下
45 / 137

飛躍と恋心⑦

しおりを挟む


食事を終え、二人で店を後にする。

誰に見られても良いよう、手を繋いで。

帰りのタクシーを捕まえようと通りに出た所で、忍足さんが「おっ……」と声を挙げた。

彼の視線の先には、目がチカチカするカラフルな電飾。


「まだ時間ある?」

「え………あ、はい……少しなら…」


忍足さんの口角が引き上がる。


「ちょっとストレス解散に遊んでいかない?」

「え………?」


私の返事を聞く前に、既に忍足さんの足はゲームセンターへと向かい始めていた。

半ば引き摺られる形で、私はそれについていく。

建物に一歩足を踏み入れると、耳をつんざく騒音に迎えられた。

時間帯的に、素行の悪そうな輩が屯していて、ちょっと怖い。

出来れば早々に帰りたいな………なんて気持ちを抱えている私の心情など知るよしもない忍足さんは、堂々とした足取りでゲームセンター内を闊歩する。


「手始めに、これからいっとく?」


忍足さんの足が止まったのは、太鼓型のリズム系ゲーム機の前。


「レベルはやや難にして、曲はーーー…」
「ちょっ………私、出来ませんよ!やった事ないし!」


当たり前のようにばちを押し付けてくる忍足さんに抗議すると、彼は「え………やった事ないの?」と、目を丸くする。


「誰しも一度はやった事あるもんだと思ってたけど……」

「………リズム系のゲームは、センスがないんで避けてたんです」


受け取ったばちを機械に戻そうとする私に、忍足さんが「残念」と、したり顔。


「200円入れちゃった。折角だから付き合って」

「え…………」


有無を言わさず付き合わされる羽目に……


「………本当に下手なんで笑わないで下さいね?」


渋々ばちを握る私に、忍足さんは「大丈夫」と、にっこり。


「俺も下手だから」

「ほ、本当ですか?」


首を縦に振った彼に、ちょっぴりホッとした。


「曲はどうする?何がいい?」


ばちで太鼓の縁を叩きながら選曲する忍足さん。


「ノリ良く、ロックとか?アイドル系は恥ずかしいから勘弁ね」

「………最近の歌は分からないのでお任せーーー…」


ここで目に入ったのが、覆面ライダーの文字。


「あ、あの、こここ、これ!この覆面ライダー愛のテーマをお願いします!」


言いながら、すかさず忍足さん側の太鼓のど真ん中を叩く。


「………えー…マジで?」


ちょっぴり嫌そうな忍足さんに構わず、ばちを構える。


「………ま、いいけど」


鳴り出したイントロが、私のテンションMAXまで引き上げた。




「………忍足さんの嘘吐き…」

「何が?」


画面に出た数字に落ち込みながら、ばちを静かに戻す。


「全然下手じゃないし……寧ろ、かなりの高得点だし…」

「んー…俺的にはまだまだなんだけど…」


私は惨敗。

それに対して、忍足さんは素晴らしい成績を残している。


「それ、嫌味にしか聞こえないです」

「そう?てゆーか、大体素良はさ、叩くタイミングが一歩遅いんだよ」

「………だから、リズム系のゲームは苦手なんです」


前もって笑うなと釘を差したにも拘わらず、忍足さんは思いっ切り笑っている。

あまりの自分の出来なさに悔しいのと、悲しいのと………

鬱々とした空気を醸し出しながら、何気なく後ろを振り返ると、そこには沢山の見物人がいて…


「あ、まんぼうの森川と、俳優の忍足って人だ」

「やっぱり、付き合ってんだね」

「ふぅん、意外とお似合いかも?」


口々に感想を漏らしながら、遠巻きに私と忍足さんの様子を見守っている。

少し不安になって忍足さんを見上げると、彼は大丈夫という代わりに優しく微笑んだ。


「次は、ラリオカートやらない?」

「ラリオカート………ですか?」

「あ、もしかして、これもやった事ない?」


忍足さんの問いにコクッと頷く。


「アクセル踏んでハンドル操作するだけ。簡単だよ」

「それなら………」


沢山の人に見守られながら、ラリオカートなるものをプレイ。

アクセルベタ踏みでキャラクターが疾走する爽快感……

これが結構癖になりそうだった。

その後には、エアーホッケーではしゃぎ、シューティングゲームで迫り来るゾンビに悲鳴を挙げた。


「あああ……お、忍足さん!覆面ライダーのゲームがぁ……」

「はいはい、それはお子様向けだからやめとこうね」

「いやぁ………1プレイだけでも…」

「だーめ」


覆面ライダーのゲームは、あっさり却下され、そのまま通過。
しおりを挟む

処理中です...