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飛躍と恋心⑧
しおりを挟む覆面ライダーゲームのプレイを阻まれて落ち込む私。
それを見かねて、忍足さんがクレーンゲームでぬいぐるみを取ってくれた。
マンボウ、しかも大きめサイズ。
「なんか、嬉しいかも……」
「まんぼうライダーだけに、マンボウのぬいぐるみが良く似合うね」
毒々しい色合いながらも、顔は可愛いマンボウ。
手触りが良く、マシュマロみたいな柔らかさか堪らない。
「ふにふにで手離せなくなりそうです」
「それは良かった。頑張って取った甲斐があるな」
アームが弱いとぼやきながら、結構な額を注ぎ込んでいた忍足さん。
「ありがとうございます。大切にしますね」
彼は、大事にマンボウを抱き抱える私を見て満足そうに笑っていた。
そう言って、彼が指差したのは、プリクラと呼ばれる代物で。
「え………やだ、恥ずかしいです…」
「いい歳して、子供向けのゲームやりたがってたくせに?それよりかは恥ずかしくないでしょ」
忍足さんは、躊躇う私の腕を強く引っ張り、カーテンの中へ引き込もうとする。
それにやんわり抵抗しながら「撮った事ないし……」と呟くと、忍足さんの目が大きく開いた。
「学生時代に友達と撮ったりしなかった?」
「………そういうの、縁がなかったから…」
通常なら、楽しい筈の学生時代。
キラキラ輝いている青春期真っ盛り。
でも、残念ながら、私には全く縁がなかった。
「…………」
忍足さんは、一瞬動きを止めた後、またすぐに私の腕を引く。
「撮った事ないんなら、尚更撮っとこうよ」
硬貨投入口に、忍足さんが小銭を数枚押し込む。
それを緊張でガタガタ震えながら見ている私。
プリクラなんて、相方の間宮とも撮った事がない。
撮り方なんて知らないし……
第一、どこにカメラがあって、どこを見ればいいのかも分からない。
「最近のは性能良いらしいよ。多少写り悪くても後からうまく修正出来るみたいだから、リラックスして撮ろう」
「あ、あわわ……」
マンボウを抱えたまま固まる私に、忍足さんは苦笑い。
「ほら、撮るよ」
「わっ…?!」
強引に引き寄せられ、忍足さんと密着。
「あそこのカメラ見て」
私の顔のすぐ横に、忍足さんの小さな顔が並ぶ。
忍足さんから仄かに香る、透き通るように爽やかで優しい匂い。
それを意識した途端、私の顔から発火。
そして、そのまま大炎上。
たった数秒の撮影ながらも、私としては四季折々を体感出来てしまう程長く感じて……
何度も失神しかけた。
プリントアウトされて出てきたシールを見て、忍足さんが嬉しそうに笑う。
「おおー…結構良い感じに撮れた」
テキトーにデコレーションし、修正は程々に留めた、自然な感じの出来となったシール。
手にした途端、自分の強張った表情に落胆した。
もっと可愛く写りたかった………と。
そんでもって、忍足さんの方が顔が小さいのが、女として悔しいポイントの一つ。
いやいや、お団子の分、顔が大きく見えるのかもしれない……
というか、そう思いたい。
学生時代、同級生達が学校帰りにプリクラを撮ったり、撮ったシールを交換したりしているのを見て、何がそんなに楽しいんだろう……と、疑問に思っていた。
たかが写真シールごときで……なんて。
一緒に撮る相手がいなかったから、余計に理解し難かった。
でも、こうして体験してみて、あの頃はしゃいでいた皆の気持ちが漸く理解出来た。
どんなポーズで撮るか考えたり、修正で違う自分に変身出来たり……
ただ写真を撮るだけでも、人をワクワクさせる要素が、この機械に沢山詰まっている。
「初プリクラが、俺でゴメンね?」
「あ、いや………全然、良いです!」
下手したら、このまま一生、このワクワクを知らずに過ごしていたかもしれない。
ここは、貴重な体験をさせてくれた忍足さんに感謝したい。
ゲームセンターを出て、乗り込んだタクシーに揺られる事、数分。
「それじゃ、また」
忍足さんは、相乗りしたタクシーを先に降りる。
「あ、はい……また…」
後部座席に、一人分の空席が出来て、急激に名残惜しさが込み上げてきた。
私の渇いた心が、まだ離れたくないと訴えているかのよう。
忍足さんは、ドアが閉まる直前、タクシーの運転手に聞こえないよう、私の耳元でそっと囁く。
「今日は楽しかった。ありがとう……また、連絡しますんで…」
耳元で響く低い声は、私の精神を掻き乱すには十分な威力を持っていた。
たった一言耳元で囁かれただけなのに、心拍数が異様に跳ね上がる。
「気を付けて」
ドキドキドキドキ………うるさく喚く心臓をもて余していると、静かにドアが閉まる。
優しく微笑みながら手を振る忍足さんをバックに、タクシーは走り出した。
タクシーに一人残された私は、忍足さんと過ごした数時間を反芻する。
一緒にご飯を食べて、ゲームをしてはしゃいで……
凄く、充実した時間だった。
彼の何気ない言葉に、喜んだり、照れたり……逆に青ざめてみたり。
ふとした仕草にドキッとして目を奪われてしまったり。
色んな感情が私の中で複雑に絡まっている。
忍足さんは、同じ目的の為に手を組んだ人だ。
お笑いで言うならば、コンビを組んだ相方といった所。
一部の人間しか知らない極秘の任務を遂行する為に、お互いを利用し合うだけの関係……
でも、それと同時に、私の中で一番身近な異性でもある。
だから、意識するのは当然といえば当然で。
彼が私に優しいのは、芸能界という厳しい世界を藁にすがってでも生き残る為。
私は彼のビジネスパートナーでしかなく、私も彼を同様に見ていなければならない。
………それなのに。
あろう事か、私の心は図々しい事に、それ以上のものを望み出してしまったらしい。
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