売名恋愛

江上蒼羽

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雲のように掴めない人⑦

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「シリアスなシーンの撮影ばっかだけど、現場自体は和気藹々していて楽しいよ。良かったら今度、現場見学に来ない?」

「え………」


これは………何とも嬉しいお言葉。

まさか、覆面ライダーシリーズに出演する俳優さんから直々に現場見学のお誘いを頂けるとは。

どのような人々の手で、名作が作り出されているのか……

幼い頃から非常に興味があった。

実は、こっそりエキストラ出演希望のハガキを出していた事もあったし。


「い、いいんですか?」


高ぶる感情を抑えながら確認すると、芹沢さんは「おう、勿論」と笑う。


「見に行きたいです!是非、お願いします!」

「ははっ、マジで好きなんだねー…えっと、今度の撮影は確かーーー…」
「ストップ」


芹沢さんと見学の日取りの打ち合わせをしようとした時、忍足さんが私と芹沢さんの間に割り込んだ。


「芹やん、素良は俺の彼女。ナンパ厳禁ね」


私と芹沢さんがほぼ同時に「え…?」と声を挙げた。


「あと、過度のボディータッチはNGだから」


私の角度からは、忍足さんの表情は窺えない。

それでも笑いを含んだ声から、笑みを浮かべているだろう事は察知出来る。


「や……だなーおっしー、下心なんか全然ないよ?現場見学も善意で誘っただけだし…」

「うん、そうだと思うけど………やめて?不快だから」


冗談っぽく芹沢さんに釘を差しているけれど、言葉には棘と抑制力がある。


「もしかして、おっしー、妬いてんの?」

「……そんなんじゃないよ」

「またまたぁー守りに入ってんの?」


胸が、きゅんと音を立てた。

忍足さんの自然な演技に、つい勘違いしてしまいそうな自分がここに居て。

本当に彼の恋人になったような錯覚が、私の頬を緩ませる。

これは、演技だと分かっていてもかなり嬉しいシチュエーションだ。

一体、私はどんな顔をしていれば良いのやら……

忍足さんの演技に乗っかって照れたようにはにかめば良いのか?

はたまた、芹沢さん同様に「えっ?ヤキモチ?」なんて、からかってみたりすれば良いのだろうか?

どうリアクションするのが正解なのか分からないまま、顔が不自然ににやけそうになるのを必死で我慢。

そうこうしている内に、最上さんが「……ところで」と話題を変える。


「………鷹林さんへのご挨拶は済みましたか?」


途端に、忍足さんが小さく「……しまった」と呟く。


「鷹林さんの楽屋にも顔出しておかないとマズイよね……」

「そりゃそうでしょ。大御所への挨拶忘れちゃマズイよ?」


話が見えないでいる私に、忍足さんは苦笑いながら「以前共演した大御所なんだ」と。


「これから挨拶しにーーー…」
「その必要はないわよ。こちらから赴いてあげたから」


その声に一斉に振り返ると、部屋の入り口に凭れる女性の姿があった。

彼女は、緩くウェーブの掛かったロングヘアをかき上げながらゆっくり前進してくる。


「ノックもせずに失礼」


女優オーラと熟女の色気を醸し出す彼女は、忍足さんの前にやって来ると妖艶に微笑んだ。


「私に顔を見せないなんて……つれないわね、忍足くんたら」

「鷹林さん……すみません、お着替えの最中だったら失礼かと思いまして…」

「あら、そんな事気にしなくて良いのに……」


艶かしい手つきで忍足さんの胸元をなぞるこの女性が大御所の鷹林さんらしい。


「相変わらずの良いオトコね、惚れ惚れしちゃう……」

「ありがとうございます」


迫力の美女相手に、さすがの忍足さんもタジタジで。

彼の顔から余裕が消えている。


「また共演したいわ。ねぇ、どうだった?私の演技」

「凄く妖艶で惹き付けられました」

「あら、嬉しい」


まるでラブシーンを見せつけられているかのような、濃厚な絡み。

ドキドキしつつも、内心はちょっぴり面白くない。


「あら?こちらは………噂の彼女?」


鷹林さんが漸く私の存在に気が付いた。


「は、初めまして、森川と申します」


鷹林さんの白魚のような手が、緊張気味に挨拶する私の頬に向かって伸びてきた。


「……お肌艶々でスベスベね…若いって羨ましいわ」

「え、あ………ありがとうございます…」


私の頬をそっと撫で上げる彼女の手。

自ずと喉がゴクッ……と鳴った。


「初めまして、この舞台の座長を務める鷹林 怜子よ。舞台を中心に活動しているから、私の事なんて知らないわよね?きっと」

「あ、えっと……知識不足ですみません…」


戸惑いながら答える私に、鷹林さんが「ふふ……可愛いわね」と笑う。
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