53 / 137
雲のように掴めない人⑦
しおりを挟む「シリアスなシーンの撮影ばっかだけど、現場自体は和気藹々していて楽しいよ。良かったら今度、現場見学に来ない?」
「え………」
これは………何とも嬉しいお言葉。
まさか、覆面ライダーシリーズに出演する俳優さんから直々に現場見学のお誘いを頂けるとは。
どのような人々の手で、名作が作り出されているのか……
幼い頃から非常に興味があった。
実は、こっそりエキストラ出演希望のハガキを出していた事もあったし。
「い、いいんですか?」
高ぶる感情を抑えながら確認すると、芹沢さんは「おう、勿論」と笑う。
「見に行きたいです!是非、お願いします!」
「ははっ、マジで好きなんだねー…えっと、今度の撮影は確かーーー…」
「ストップ」
芹沢さんと見学の日取りの打ち合わせをしようとした時、忍足さんが私と芹沢さんの間に割り込んだ。
「芹やん、素良は俺の彼女。ナンパ厳禁ね」
私と芹沢さんがほぼ同時に「え…?」と声を挙げた。
「あと、過度のボディータッチはNGだから」
私の角度からは、忍足さんの表情は窺えない。
それでも笑いを含んだ声から、笑みを浮かべているだろう事は察知出来る。
「や……だなーおっしー、下心なんか全然ないよ?現場見学も善意で誘っただけだし…」
「うん、そうだと思うけど………やめて?不快だから」
冗談っぽく芹沢さんに釘を差しているけれど、言葉には棘と抑制力がある。
「もしかして、おっしー、妬いてんの?」
「……そんなんじゃないよ」
「またまたぁー守りに入ってんの?」
胸が、きゅんと音を立てた。
忍足さんの自然な演技に、つい勘違いしてしまいそうな自分がここに居て。
本当に彼の恋人になったような錯覚が、私の頬を緩ませる。
これは、演技だと分かっていてもかなり嬉しいシチュエーションだ。
一体、私はどんな顔をしていれば良いのやら……
忍足さんの演技に乗っかって照れたようにはにかめば良いのか?
はたまた、芹沢さん同様に「えっ?ヤキモチ?」なんて、からかってみたりすれば良いのだろうか?
どうリアクションするのが正解なのか分からないまま、顔が不自然ににやけそうになるのを必死で我慢。
そうこうしている内に、最上さんが「……ところで」と話題を変える。
「………鷹林さんへのご挨拶は済みましたか?」
途端に、忍足さんが小さく「……しまった」と呟く。
「鷹林さんの楽屋にも顔出しておかないとマズイよね……」
「そりゃそうでしょ。大御所への挨拶忘れちゃマズイよ?」
話が見えないでいる私に、忍足さんは苦笑いながら「以前共演した大御所なんだ」と。
「これから挨拶しにーーー…」
「その必要はないわよ。こちらから赴いてあげたから」
その声に一斉に振り返ると、部屋の入り口に凭れる女性の姿があった。
彼女は、緩くウェーブの掛かったロングヘアをかき上げながらゆっくり前進してくる。
「ノックもせずに失礼」
女優オーラと熟女の色気を醸し出す彼女は、忍足さんの前にやって来ると妖艶に微笑んだ。
「私に顔を見せないなんて……つれないわね、忍足くんたら」
「鷹林さん……すみません、お着替えの最中だったら失礼かと思いまして…」
「あら、そんな事気にしなくて良いのに……」
艶かしい手つきで忍足さんの胸元をなぞるこの女性が大御所の鷹林さんらしい。
「相変わらずの良いオトコね、惚れ惚れしちゃう……」
「ありがとうございます」
迫力の美女相手に、さすがの忍足さんもタジタジで。
彼の顔から余裕が消えている。
「また共演したいわ。ねぇ、どうだった?私の演技」
「凄く妖艶で惹き付けられました」
「あら、嬉しい」
まるでラブシーンを見せつけられているかのような、濃厚な絡み。
ドキドキしつつも、内心はちょっぴり面白くない。
「あら?こちらは………噂の彼女?」
鷹林さんが漸く私の存在に気が付いた。
「は、初めまして、森川と申します」
鷹林さんの白魚のような手が、緊張気味に挨拶する私の頬に向かって伸びてきた。
「……お肌艶々でスベスベね…若いって羨ましいわ」
「え、あ………ありがとうございます…」
私の頬をそっと撫で上げる彼女の手。
自ずと喉がゴクッ……と鳴った。
「初めまして、この舞台の座長を務める鷹林 怜子よ。舞台を中心に活動しているから、私の事なんて知らないわよね?きっと」
「あ、えっと……知識不足ですみません…」
戸惑いながら答える私に、鷹林さんが「ふふ……可愛いわね」と笑う。
0
あなたにおすすめの小説
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中
白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。
思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。
愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ
向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。
アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。
そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___
異世界恋愛 《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる