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雲のように掴めない人⑥
しおりを挟む緊張で震える私に、芹沢さんがニカッと笑う。
「なーんだ、芸人も俺達役者と同じで演技してるって事か。ねぇ、何かネタ見せてくれない?」
「えっ……」
いきなりの無茶なフリ。
ギョッとする私に彼は「良いじゃん、ちょっとだけ」と、迫ってくる。
「い、いや………あの…」
突然ネタを………と言われても、一人で披露出来るネタはないし……
モノマネでも出来れば良いのだろうけれど、生憎、そんな芸当は持ち合わせていない。
「芹やん、駄目だよ」
困惑している私を見かねて、忍足さんが助け船を差し向ける。
「プロの芸人さんなんだから、ネタ見せは金取るよ」
忍足さんは「ねっ?素良」と、私に同意を求めてきた。
それに乗っかり「高いですよ?」と言うと、芹沢さんは「マジか」と苦笑い。
見事に芹沢さんを黙らせた忍足さんに密かに感謝し、ホッと息を吐いた。
「てかさ、事前に貰ってたパンフと内容違うくない?この舞台…」
忍足さんからの疑問を受け、最上さんは「そうですか?」と、小首を傾げてみせる。
「究極の愛ってのがテーマだから、多少大袈裟な演出になってるかもしれませんが、それ程相違はないかと…」
「いや、こんな昼ドラさながらのドロドロ具合だと思わなかったからさ……見応えはあったけど」
「あはは、彼女さんと観るにはちょっと……な感じでした?」
「ん、うん……ちょっとね。ところでモガ、登場の所、少しトチらなかった?台詞の発し方が変だった気がするんだけど」
「…………バレました?上手く誤魔化したつもりだったんですが……さすが、忍足さん」
舞台についての感想とダメ出しを最上さんに伝えている忍足さんをぼんやり眺めていると、不意に頭の天辺に手が置かれる。
「意外と……小さいんだね。テレビだと、結構身長あるように見えるんだけど……」
それに「え……」と思えば、手の主が興味深かそうに私を見ている。
「そ、そうですか?確か、160㎝はあったかと思うんですが……」
「ふぅん……女の子としては標準的な感じだねー…」
ワッシャワッシャと犬のように撫でられるこの状況に、私はどうしていいのか分からず、顔を引き攣らせながら硬直。
「あ、お団子がない分、余計か………髪下ろしてると普通な……つーか、地味め感じだし……」
「地味……ですか…」
大きくずれた帽子を直しながら「良く言われます」と返す私に、芹沢さんが更に距離を縮める。
「てか、あの真ん丸なお団子頭、どうやって作ってんの?」
どうやら、私は彼の興味の対象に選出されたらしい。
変に食い付かれても対応に困るというか……
「えっと、あの………まず最初に頭の高い位置でポニーテール作って、ボリュームを出せるスポンジみたいな輪っかを通すんですよ」
何故、初対面の人にお団子の作り方を伝授しなければならないのかは疑問だ。
「………で、グルグルグル~って髪を丸めてヘアピンで固定するだけ、です」
「へぇ………なーんだ、お団子の中に飴玉とか入ってんのかと思ってた」
「あ、飴玉………?」
何やら、トンチンカンな想像をしていたらしい芹沢さん。
「そ、飴玉。てっきり、中に目一杯詰めて膨らませてんのかと……」
それがジワジワ来て、遂には噴き出してしまう。
「ぷっ……あはは、お腹空いた時用の非常食みたいな感じですか?」
「そうそう、そんな感じ!」
「ちょっと良いかも………今度やってみようかな…」
「収録が長引いた時に便利かもよ?」
「あはは、確かに」
思いがけない会話から、緊張が解れる。
第一印象は少し怖そうに見えたものの、芹沢さんは意外とフレンドリーで話し易い。
初対面なのに、話が弾む。
「あ、そうそう……テレビで見たんだけど、覆面シリーズ好きなんだって?」
「え……」
全国ネットで配信されてしまったが為に、私のオタクは広く周知のされているらしい。
自分と限られた人の中で留めておきたかったのに。
こうなればいっその事、開き直るべきなのかもしれない。
「はい、大好きです」
「あ、マジで?ネタじゃなく?」
「はい、どっぷりなんですよ~」
ヤケクソ気味に言う私に、芹沢さんは人懐っこい笑顔を向ける。
「まだ情報解禁されてないんだけど、実は俺、今シリーズの終盤に出演するんだ」
「え………嘘?!本当ですか?!」
まだ掴んでいなかった貴重な情報に、自ずと声が大きくなった。
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