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雲のように掴めない人⑨
しおりを挟む「ね、森ちゃんは、おっしーとどこで知り合ったの?」
恐らく茹でダコみたいに顔を赤く染めているであろう私に、芹沢さんが興味津々とばかりに聞いてきた。
「えっ、と………共通の知人を介しての飲み会でです」
これは事前に忍足さんと打ち合わせ済みだった答え。
誰に聞かれても、こう答えるように指示を受けていた。
「へぇ……共通の、って誰?役者?お笑い?」
「それは………秘密です」
「ふぅん……あ、記事にされて本人に迷惑掛けたくないってヤツか」
「ま、まぁ………そんな所です」
前のめりな体勢で質問を浴びせてくる芹沢さんだけれど………私の心臓はバクバク躍動中。
これ以上追及されたら、ボロが出そうな気がして、背中に冷や汗が滲む。
「どっちから付き合おうって言ったの?やっぱりおっしーから?」
「え、あ、はい……」
これは、打ち合わせにはなかったから適当に答えたのだけれど、強ち間違いではないかな……とも思う。
だって、実際は、忍足さんの方から偽装交際の話を持ち掛けて来たんだし。
「だよねーきっと、そうなんじゃないかと思った。森ちゃんの事、大事にしてるっぽいし。楽屋でのおっしー、一瞬人が変わったみたいだったから」
ケラケラ笑う芹沢さんに「何の事ですか?」と聞くと、彼は笑いながら言う。
「俺が森ちゃんに触ったの、メッチャ怒ってたじゃん」
「え、あれ……怒ってました?」
「怒ってた怒ってた。おっしーは、静かにキレるから。んで、スッゴいこえーの。目がマジだったね」
親しい役者仲間でさえも完璧に欺けてしまっている、忍足さんの演技力。
敬服もの………いやいや、アカデミー賞授賞クラスだと思った。
そして、嫉妬は演技でも、嬉しいものは嬉しい……と再度顔面崩壊の危機が訪れた。
「正直言うとさ、熱愛の報道が出た時、意外に思ったんだよね」
芹沢さんがグラスを傾ける。
「意外に……ですか?」
「そう。何で女芸人?って。おっしーの元カノ知ってるから、ジャンルの違いとレベルの違いに驚いた訳よ」
ジャンルはともかく、レベルという言葉に、微妙に引っ掛かりを感じた。
「因みに、元カノさんは……?」
心に大ダメージ覚悟で恐る恐る聞いてみると、芹沢さんがあっさりした口調で言う。
「nina専属モデルの紗和だよ。聞いてなかった?」
「え、え……」
nina(ニーナ)といえば、お洒落大好き女子のバイブル的、ファッション誌。
かくいう私も、一時期間宮から借りて読んでいた事があったような……
専属モデルの紗和ちゃんといえば、クールビューティーな顔立ちながらも、ギャップのある飛びっきりキュートな笑顔が印象的なモデルさん。
もう一人の専属モデルの子に人気を独占され、彼女自身はあまり目立ちはしなかったけれど、私は割りと好きなモデルだ。
そんな人が忍足さんの元カノだとは……
「そ、そこからのこれ………確かにとんでもなくレベルを下げましたね」
自虐的に言う私に、芹沢さんは「だよね」と同調。
グサッと、何かが胸に刺さる。
杭のような太くて、頑丈そうなものが。
「森ちゃんは気取ってないから、そこが良いのかもね」
「………それは、フォローですか?」
「ん、どうだろ?」
芹沢さんは何気に酷い。
彼に軽薄という言葉を贈りたい。
誌面を見る限り、非の打ち所のない元カノ、紗和ちゃん。
キラキラ眩しい笑顔に、長い手足、スラリとした細い体……
雑誌のモデルに直撃のコーナーでは、モデルとしての心構えや自身の拘りを語っていた。
努力家で、向上心の塊みたいな印象を与える彼女は、私とはまるで正反対な気がする。
芹沢さんにしてみれば、紗和ちゃんと別れた忍足さんが新しい彼女として私なんぞを選んだ事を青天の霹靂………または、御乱心?!と捉えた事だろう。
「………あんなにハイレベルな彼女と、どうして別れてしまったんだろう…」
ポツリ、口をついて出て来た疑問。
それに芹沢さんが素早く反応を示す。
「んー…まぁ、単に相性?紗和ちんは我が強くて、おっしーは疲れちゃったみたい」
「へぇ…」
「それに……ほら、おっしーって物腰柔らかそうに見えるけど、頑固な所あるじゃん?」
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