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雲のように掴めない人⑩
しおりを挟む「………」
あるじゃん?と聞かれても。
彼の内面をよく知らない私は「そうですかね?」と無難に流す事しか出来ない。
頑固者というのは、忍足さんとはかけ離れたイメージだからピンと来ないのもあったのだけれど。
「あと、食の好みや価値観の食い違いが際立ってきたみたいで……おっしーは洋食が好きだけど紗和ちんは、ヘルシー志向で和食派って感じでさ」
「へぇ……彼、和食が好きなんだと思ってました…」
初めて会った時が和食のお店だったからか、彼のイメージからかは判別つかないけれど、とにかく勝手に和食派だと思い込んでいた私には意外に思える好みだった。
小さく「意外だな……」と呟いた私に、芹沢さんが首を傾げる。
「……てか、付き合ってる割りには、おっしーの事あんまり知らないんだね」
鋭い指摘と疑惑の眼差しに心臓が大きく跳ねた。
いや、疑惑の眼差し……というのは、私が一方的に感じ取っただけで、彼にそういったつもりはないのかもしれない。
「………まだ、付き合い始めて日が浅いですから」
苦笑いと言い訳でその場を凌いだものの、心の中では『だって、偽装交際だもの。知る程回数会ってないし』と、本音をぶちまける。
「ん、まぁ………なら、仕方ないか」
芹沢さんは納得してくれたけれど、これ以上この話題を穿られたら危険だと思い、別の話題を呈示する。
「せ、芹沢さんは、彼とかなり仲良しみたいですけど、親友ってやつですか?」
この問いに、芹沢さんが口角をグッと引き上げた。
「親友なんて生温いもんじゃないよ。強いて言うなら、戦友」
「戦友?」
「そ、この厳しい業界を戦い抜く戦友。そして、ライバル」
言ってから芹沢さんは「あ、ライバルは俺が勝手に言ってるだけね」と付け加えた。
「同い年で、しかもデビューした年も一緒。だからか、ライバル視しちゃうんだよね」
芹沢さんが忍足さんの方へ視線を向ける。
それに合わせて私も彼の方を見た。
忍足さんは、未だ鷹林さん達との話に夢中。
「おっしーは、同じ役者という仲間でありながら、俺に良い刺激を与えてくれる起爆剤みたいな存在なんだよね」
お酒を飲みながら楽しそうに談笑している忍足さん。
きっと、演技の話で盛り上がっているのだろう。
私と芹沢さんの視線には一切気付く気配がない。
「おっしーとは、切磋琢磨し合いながら役者としての頂点を目指してたんだけど……」
芹沢さんが溜め息混じりに言う。
「ちょっと引き離され始めてきたっぽい」
「あ………」
「おっしーがどんどん露出増えていってるのに対して、俺はまだまだ……ドラマに出れても、脇役中の脇役って感じだし…」
自嘲気味に「結構焦ってんの」と言う芹沢さんに、過去の自分と同じ物を感じた。
「あ、仲間の活躍は嬉しいよ、マジで。でも、心から喜べないでいる自分がいるっていうか……」
「…………分かります、その気持ち」
芹沢さんの抱いている複雑な感情。
売名行為以前の自分とリンクしていて、激しく共感できる。
私も相方の間宮の活躍に心の底から喜べずにいた。
嬉しいには嬉しかったけれど、それと同時に羨望と嫉妬、焦燥感等といった感情も入り交じっていて
私は何をやっているんだろう?
私はこれで良いの?
どうして間宮だけ?
……そんな風に思ってた。
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