売名恋愛

江上蒼羽

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雲のように掴めない人⑪

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「私も、相方に対して芹沢さんと同じ感情を抱いていた事がありますよ」

「……森ちゃんも?」


私が切り出すと、芹沢さんが食い付いた。


「相方の活躍の裏で、一般人のような生活をしていましたから……」


テレビで間宮の活躍を見る度に、落ち込んでいた自分。

今思い出すだけでも、胸が痛くなる。


「間宮の活躍を目にする度に格差を感じて、奥歯を噛み締めてたものです」

「でも、今じゃ再ブレイクを果たせた訳じゃん?羨ましいよ。俺はいつ日の目を見る事が出来るのやら……って感じ」


芹沢さんは、大きな溜め息を吐く。


「おっしーは、このまま俺を置いてどんどん上へ昇っていくんだろうな……その内、雲のように掴めない存在になるかも…」


寂しげに目を伏せた芹沢さんに、私の胸がまた痛みを増した。

しんみりしかけた空気。

それを打破するように、芹沢さんが明るく言う。


「おっ、森ちゃん、グラスが空だよ。次何飲む?」


目の前のグラスはほぼ空。


「あ、いえ、お構い無く…」

「ダメダメ。折角なんだから、もっと飲んどこうよ」


芹沢さんは何を思ったのか、ワインを注文。

お高そうなボトルが一本とワイングラスが二つテーブルの上に置かれた。

封を切られたそれは、耳に残る音を奏でながらグラスに注がれる。


「ワインなんて、飲んだ事ないんですけど」

「うん、俺も。でも、たまにはいいっしょ?」

「え………」

「じゃ、もっかい乾杯しよ」


改めて乾杯を交わし、口を付けた。

途端に、芳醇な香りが立ち込め、渋さが口内に広がる。


「………よく分かんね…」

「……お、同じく」


私と芹沢さんには、ワインはまだ早かったらしい。


「えー……どうする?開けちゃったじゃん」

「責任持って、芹沢さんが飲んで下さい」

「いやいや、連帯責任で」

「いやいやいや、個人の責任で」


お互いにワインの擦り付け合い。


「いやいや……森ちゃんが…」

「いやいやいや……芹沢さんが…」


すると、芹沢さんが「じゃあ、俺が飲む」と、ボトルを引っ掴んだ。


「それなら私が…」


ボトルに手を伸ばすと、芹沢さんが不敵な笑みを浮かべる。


「じゃ、どうぞどうぞ」

「えっ、えー?」


押し付けられたボトル。

途中から、大御所芸人のネタ的流れになっていたのが分かっていただけに、もう笑いを堪えるのは限界だった。

それは芹沢さんも同様だったようで。

お互いに顔を見合わせて大爆笑。


「さっすが芸人さん。笑いが分かってる」

「いや、そんな事は……芹沢さんこそ、芸人に向いてるんじゃないですか?」


私の言葉に芹沢さんは満更でもないように笑う。


「マジ?んじゃ、まんぼうライダーが解散した暁には、俺とコンビ組む?」

「解散なんて縁起でもない!でも、そうなった時はよろしくお願いします?」

「何故に疑問系?」


芹沢さんの心の中にある小さな闇。

その部分に触れた所為か、急速に彼との距離が縮まる。

自分も同じ闇を持ち合わせているだけに。

異性でここまで意気投合した人は、芹沢さんが初めてだ。


「俺達、良い友達になれそうじゃね?」

「私もそんな気がしました」

「マジ?」


テンションが上がったらしい芹沢さんが私に握手を求めてきた。

少し躊躇いながらも、右手を差し出す。


「森ちゃんの手、プニプニしてる」

「いたたたた……芹沢さん、もうちょいソフトにお願いします…」


握力測定のような固い握手を交わし、また顔を見合わせて大笑い。
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