売名恋愛

江上蒼羽

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売名延長案⑤

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何をお願いされるのだろうか……と、身構えていると、忍足さんは「迷惑なのは承知です」と前置いた。


「もうすぐ約束の三ヶ月が経ちます。これまでのご協力、本当に感謝しています」


そう言って、私に頭を下げた忍足さん。

私も「こちらこそ……」と、彼に合わせて頭を下げる。


「何かと不手際があったかと思いますが、お役に立てたようで良かったです」


大役を与えられ、私で良いのだろうか?と、不安でいっぱいだった。

忍足さんの彼女役として、不適合なんじゃないかって悩みながらも、自分としては精一杯頑張ったつもりだ。

……彼の評価はどうであれ。


「森川さんのお陰で、僕の知名度は上がり、仕事も増え、振り幅も拡がりました。感謝してもしきれません」

「いやいや、そんな………」


むず痒い程の謝辞を浴びせられると、どんな表情でどんな反応をすれば良いのか対応に困る。

恐らく苦笑いを浮かべて戸惑っているであろう私とは逆に、彼は表情を引き締めた。


「そこで、森川さんさえ良ければなんですが………もう少し延長しませんか?」

「………え?」


我が耳を疑った。

延長というのは、偽装の恋人関係を……という事なのだろうけれど。


「え、延長……ですか?」


まさかの申し出に、声が裏返る。


「つまり、恋人の振りを続けるって事ですよね……?」

「えぇ、そういう事です」


思いがけない提案に驚き過ぎて、今一つ理解が追い付いていない私の頭。

それなりの進学校で、それなりの成績を残していた筈なのに、肝心な時に役に立たない。


「え、延長って………えと…あの……」


激しく動揺する私に、忍足さんがはにかみながら言う。


「もう少し、森川さんの事を知りたくなった………というのが、本音です」

「え………」


言葉が出なくなった。

そして、何も考えられなくなった。

夢、みたいで。


衝撃と驚きと、じわじわ込み上がってくる喜び。

脳内にお花畑が広がり、蝶が舞い、鳥は歌い……

でも何故かそこに猿が暴れ回り、猪が走り回るというカオスな状況。

つまりは、大パニック真っ盛り。


「返事は急ぎません。是非、ご検討を」

「…………」


何とか状況を整理してみると、忍足さんはこの偽装交際を延長したいという。

それは何の為かと思えば、私をもっと知りたいという理由から……

となると、彼は私に興味を持ってくれている………もしくは、私に多少の好意を抱いてくれていると考えられる。

こんな事があって良いのだろうか?

こんな嘘みたいな事が、私に起こり得るのだろうか?

今まで、出会いの場が何度かありながらも、恋愛へと発展した事はなかった。

それは、私に人を惹き付ける魅力がなかったから。

臆病風に吹かれて、一歩も踏み出せずにいたから。


「注文してから結構経つのに………中々来ませんね」


優しく微笑み掛けてくる忍足さん。

余裕のない私は、ぎこちなく笑い返すしか出来ない。


「そ、そうですね。お腹、もうペコペコです」


恋愛偏差値0、経験値一切なしの私に降って湧いた大チャンス。

すぐにでも「私で良ければ喜んでっ!!」と言いたい所。

寧ろ「大OKで~す!!」と叫び、踊り出したい所だ。

けれども、それは必死に我慢。

返事は急がないと言った忍足さんの手前、がっついていると思われたくない。

ここは、敢えて返事を持ち越す事にした。

恋愛初心者のくせして、駆け引きモドキを駆使するなんて生意気かもしれないけれど。

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