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高過ぎる代償①
しおりを挟む食レポは、中々奥が深い。
ただ「美味しい!」を繰り返すだけでは視聴者に料理の素晴らしさは伝わらない。
総合的な味は勿論、香り、食感、舌触り、素材の風味から、盛り付けに器まで……
細部に渡って、分かり易く言葉を選びながら伝えるのが、グルメレポートを担った人間の役目。
「見て下さい!このボリューム!私のお団子よりも大きいですよ、このシュークリーム!」
お約束のカメラアップ。
色んな角度から映して貰ってから、大口で、あぐっと頬張る。
「ん~!この、しっとりとしたシュー生地!中の濃厚なのにしつこくないクリームの味わい……絶妙です!」
自慢の商品をどのように評価されるのか……と不安そうな店主が見守る中、懸命に美味しいアピール。
「これ、何個でもいけますよ~!」
リハーサルとリテイクで、計5個目。
正直、これ以上口にしたら、耳と鼻の穴から拘り卵のカスタードがニョロっと出てきそうだ。
「まんぼうライダーさん、ちょっとこっち来て」
収録の合間にディレクターから召集が掛かる。
ディレクターは、駆け付けた私と間宮を交互に見ながら渋い顔で言う。
「あのさー……もっと気の利いた事言ってくれないかなー?」
「え……」
私と間宮はお互いに顔を見合わせた。
「美味しそうに食べてくれるのは良いんだけど、普通の食レポじゃ面白くないワケ。特に森川さんの方」
ディレクターに睨まれ、自ずと顔が強張る。
彼の怒りの矛先は、どうやら私の方に向けられているらしい。
ピリッとした空気が立ち込める。
「何?あの食レポ。あんなコメント、新人のアイドルだって出来るよ」
「す、すみません……」
「もう少し空気読んで、ボケたりウケに走ってくれない?でないと、ワザワザ芸人起用した意味ないから」
ピシャッと言い放ち、この場を後にするディレクター。
その背中をぼんやり眺めていると、間宮がそっと私の肩に手を添えた。
「森川……」
心配そうに声を掛けてくる間宮。
私は咄嗟に笑顔を作る。
「………大丈夫。平気」
ダメ出しは受けて当然だ。
芸人という立場を弁えて気を利かせるべきだったのに、うっかり普通の食レポを繰り返している私に落ち度はある。
ディレクターの言う通り、私みたいなただオーバーなだけのリアクションは誰にだって出来る。
まんぼうライダーとして番組に呼ばれているのだから、ここは芸人として腕を見せなければならない。
場を盛り上げて、笑いを誘いつつも、食レポもきちんとこなす……
それがパーフェクトに出来てこその、プロフェッショナル。
「次のお店に行ったら、目一杯ボケてみせるから、間宮、ツッコミよろしく」
「オッケー!お店の人への絡みも任せて」
気合いを入れ直し、拳と拳をぶつけ合う。
この厳しい業界で、次はない。
使えないと判断されたが最後、二度と起用される事はなく、花びらのように散っていくだけ。
一度、業界から消えた人間の私は、同じ思いを二度と味わいたくない。
折角浮かび上がれたんだ。
ここで沈んでなるものか。
無事に収録が済み、張り詰めた空気の現場は、一気に和やかムードへと切り替わる。
「お疲れー、森川。頑張ったじゃん」
間宮がハイタッチを求めてくる。
「お疲れ、間宮」
手のひらを弾くと、軽快な音が鳴った。
「二人共、お疲れ様。後半の方、かなり良かったってディレクターが仰ってたわ」
マネージャーの川瀬さんから飲み物を受け取り、喉を潤した。
「あ、はは……所々滑ってましたけどね」
「あら、それもまた愛嬌よ」
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