売名恋愛

江上蒼羽

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高過ぎる代償②

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川瀬さんが運転する車で、次の仕事へと移動する。


「午後2時からバラエティーの収録。6時から特番の打ち合わせ………それから、8時からラジオに飛び入りでゲスト出演だから。頭に入れといて」


ハンドルを操作しながら早口でスケジュールの確認をする川瀬さん。

私はシュークリームで甘くなった口内に塩気を補充する為にお煎餅をパクつきながら

間宮はメイクを直しながら、其々「了解です」と返事。


「今日も忙しいね~」

「うん……でも、ありがたい事だよ」


間宮と笑い合い、窓から街中の景色を眺めていると、至る所にある赤い幟や掲示物が目に入ってきた。

いずれも、数字の2.14やハートの絵柄が強調されている。


「……あぁ、そうか…」


たまたま信号で停車した位置から見上げた看板に【St.Valentine 's Day】の表記があった。


「もうすぐバレンタインだ…」


独り言として呟いた言葉に「あ、そだね~」と、間宮が反応を示す。


「意中の彼にチョコのプレゼントはいかが?」


間宮が含み笑いを浮かべて私の脇を小突いてきた。

彼女の冷やかしに、私は「いや……別に」と、頬を染める。


「恥ずかしいじゃん……」


バレンタインの存在を思い出したと同時に、彼の顔が頭に浮かんだ。

けれど、それだけ。

身内以外にチョコを渡した経験のない私が、意中の彼にチョコを渡すなんて……

ハードルが高過ぎる。


「間宮こそ、誰かにチョコあげたりしないの?」


然り気無く話題を間宮に振ると、忽ち彼女の顔面が崩れ始めた。


「いやぁ~勿論、あげるよ。ただ、大好きな卓プリの長田副部長とダンガムのレオン大佐………どっちを本命にしようか真剣に悩み中」


両手を胸の前で組み、今にも涎が滴り落ちそうな恍惚とした表情で言う間宮。


「どっちも格好良過ぎて選べないの~!」

「…………あ、そうなんだ…」


今一つ、キャラクター名で言われてもピンと来ないのだけれど……

どうやら、彼女は、今夢中になっているアニメのキャラクターにチョコを贈るつもりらしい。


「いや、他にもね、あげたい人(キャラ)は沢山いるんだけど………やっぱり、本命だけに絞らないと、相手に失礼じゃない?」

「え………あ、うん…」


恐らく間宮は、人とは違う次元を生きているようだ。

しかも、私には理解し難い次元で。


「や、間宮……架空のキャラクターじゃなくて、現実に存在する誰かにあげたりしないの?」


今にも異世界へと旅立ちそうな間宮を引き留めつつ、話題を掘り下げる。

すると、間宮は目を大きく見開いた。


「現実なんか、クソ食らえだっ!二次元バンザイ!!」


間宮の血走った眼に怯えていると、我に返った彼女が重そうに口を開く。


「………色々と汚い部分を見てきたから、当分、現実の男はいいかな…」

「へぇ……」

「まぁ、いつもお世話になっている番組関係者や共演者には義理を用意するつもりではいるけど」


汚い部分……って何だろう?と考えていると、間宮が「……って、私の事はどうでもいいの!」と、声を張り上げる。


「今は森川の話してんの!」

「いや、私の話もいいって……」


何とか話題をかわそうと試みるけれど、間宮はそれを許そうとはしない。


「忍足さんに何かしら用意しとけば?」

「え……だから、いいって……迷惑だろうし…」


意中の彼の名前が出された途端、私の余裕はどこかへ行き、しどろもどろ。


「いいんじゃないの?渡すだけ渡せばいいじゃん」

「いや、でもさ……」


まごつく私に、間宮が「でもさ……じゃないし」と苦笑する。


「別に気持ちを伝えるのを目的としなくても、世間の風潮に合わせましたって顔してればいいんじゃん?」

「あぁ、なるほど…」

「それに、ヤラセの延長を頼んできた以上、向こうが森川に気があるのは明らかじゃん。きっと、チョコも期待してるよ」


間宮は「だから」と、念を押すように続ける。


「森川、忍足さんにチョコ、あげなって」

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