売名恋愛

江上蒼羽

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壊れた心と拒絶④

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【女芸人の恋物語、まさかのドッキリオチ?!】


《一時は人気低迷により、密かに芸能界引退を囁かれていたお笑いコンビ“まんぼうライダー”のボケ担当、森川 素良。
今や、飛ぶ鳥を落とす勢いで再ブレイク中だ。
彼女の芸能界再浮上のキッカケとなったのは、イケメン俳優、忍足 慧史との熱愛。
度重なる逢い引きが目撃され、その度に芸能ニュースを賑わせた。
しかし、その熱愛が、全てヤラセのものだった事が判明。
事の詳細は、2月14日に放送されたテレビ夕日系列の人気バラエティー“ホンコンハーツ”内で明らかになった。
落ち目の彼女に、名を売りたい俳優が売名目的の偽装交際を持ち掛けた所から計画は始まった。
隠しカメラや、一般人の振りをした番組スタッフ等が二人の様子を見守る中、何も知らない森川は、忍足氏と密会を重ね、恋心を育んでいった。
いよいよ二人の距離が縮まるといった瞬間、番組サイドよりドッキリが打ち明けられた。
顔面蒼白の森川を囲んで爆笑する、ホンコンシューズの二人を始めとした出演者達。
三ヶ月前、熱愛スクープによって、世間を賑わせたニュースは、まさかの番組ドッキリというオチに終わった。
放送終了後から、番組ホームページへの書き込みが後を絶たず、視聴者が今回のドッキリに高い関心を寄せている事が窺える。
森川と世間を見事に騙してみせた、ホンコンシューズの村田 太の鬼才振りと俳優忍足 慧史の演技力を称えるコメントが並ぶ一方で、ドッキリに嵌められた森川に対する同情、過剰な演出への批判が相次いだ。
特に、これはイジメに値するのではないか?やり過ぎでは?等のコメントが目立つ。
近年、過剰演出によってBPOの審査が行われる番組が数多いが、今回のケースも例外では無さそうだ。
番組内でのネタバラシに激しく憤怒していた森川だが、その姿はどこか痛々しかった。
ホンコンシューズの村田 太と俳優忍足 慧史。
番組の企画とはいえ、一人の女性を傷付けた彼等の罪は重いだろう。
女心を弄び、笑い者へと仕立て上げる………まさに、鬼畜の所業と言わざるを得ない》




一晩明ければ、ドッキリが大騒動へと発展していた。

新聞各紙は、こぞって私と忍足さんのヤラセ交際の顛末を大々的に報じ

一面を飾る見出しには“売名”“ドッキリ”“ヤラセ”等の文字が大きく踊っていた。

番組制作者やフトシの奇策を褒めちぎる紙面もあれば、忍足さんの演技力を高く評価する紙面もある。

それとは反対に、強く批判している紙面も多々存在している。

テレビをつければ、猫も杓子も朝から同じニュースばかり……

他に話題がないのかって位、女芸人の恋のお粗末な結末を延々繰り返している。

最早、馬鹿の一つ覚えに近いものを感じる。



『昨日放送された番組の中で、まんぼうライダーの森川 素良さんがーー…』

『森川 素良、落とし穴へと垂直落下』

『何と、森川さんの熱愛は、全てドッキリだった模様です』



面識のない人間がテレビの中で“森川 素良”と、勝手に私の名前を挙げている。

三ヶ月前は誇らしい気持ちでそれを視聴していたのに、今では耳障りに思えてならない。


「これが、今朝までに番組ホームページに寄せられた番組に対する意見と感想よ」


事務所に呼び出されてすぐ、川瀬さんから手渡された用紙の束。

そこには、数え切れない程の視聴者からのコメントが印字されていた。


「ご覧の通り、かなりの反響よ。まだまだ、コメントの書き込みは続いてるわ」

「…………」


厚さ、1㎝以上はありそうな、紙の束を、ゆっくり捲る。



“フトシ、マジ鬼才!俺も引っ掛かった!”

“ドッキリだったの?!本当に付き合ってるかと思ってたからビックリ!”

“森川が意外と乙女でビビった!”

“忍足イケメン過ぎ。あれなら、引っ掛かってもしゃーない”

“ホンハー面白くて好きだけど、今回のは、ちと頂けない。やり過ぎ”

“今回の、芸人イジメにも程がある”

“森川可哀想……あたしなら立ち直れない”

“さっすがフトシ!奴の頭の回転の早さは、常人とは桁が違う”

“まんぼう森川、芸人としての分を弁えろ。俳優が女芸人なんか相手にする筈ない”

“森川~悲惨過ぎて、こっちが泣ける~”

“今回のドッキリは笑えなかったなぁ。あれは酷い”

“森川落ち込んでんじゃない?大丈夫かな…”

“女芸人も一人の女なんだな”

“これは人間不信になんだろ。ドッキリという名のイジメ”

“森川、最後キレてたけど、痛々しかった。泣くの我慢してた感じ。切ねぇー!”

“大変、不愉快でした”

“番組スタッフ、落とし穴制作、お疲れ!”

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