売名恋愛

江上蒼羽

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売名後の売名?⑤

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思いがけない主役の離脱により、飲み会は早々お開きが決定。

このまま姐さん抜きで会を続行したら、後が怖い。

だから、誰も何も言わずに帰り支度を始めた。

中途半端に手を付けた料理とお酒に後ろ髪を引かれながらも、席を立つ。


「俺、まだ来たばっかなんだけど」


ビールにほんの一口手を付けただけの芹沢さんが不満気にぼやくも、誰もが苦笑いで流す。

姐さんの手前、余計な事を言えないのだ。


「残念だけど、また今度ね。ごめんなさい、芹沢くん」

「小久保さんとじっくり飲みたかったんですけどねー」

「あら………嬉しい事言ってくれるじゃない」


芹沢さんの言葉に、小久保姐さんが少しだけ機嫌を直す。

芹沢さんもまた、間宮と同じで世渡り上手っぽい。

店の前でタクシーに乗り込む姐さんを皆で見送り「じゃ、お疲れでしたー」と、其々帰路につく。

これといって、連絡先を交換する訳でも、次の明確な約束をする訳でもなく…

ただ「また飲みましょう」と、濁してサヨウナラ。

多分、次はないだろう……と、察した。



「森川、お疲れ~気を付けて帰ってね~」


帰りの方面が同じ間宮と梅原は、タクシーの相乗りで帰宅。

別方向の私は、徒歩で駅を目指す。


「あー……肩凝った。無駄な時間過ごしちゃったな…」


独り言が勝手に漏れ出た。

つまらない飲みのお陰で、貴重な睡眠時間が減ってしまった。

あの時間がなければ、きっと、あと2、3時間は多く眠れただろうに。

小久保姐さんめ………と、恨みながら歩いていると…


「森ちゃん、待った」


その声に振り返れば、芹沢さんが小走りで駆け寄ってくる。


「二人で飲み直さない?俺、全然飲み足りなくてさー」


芹沢さんは、キョトンとする私の腕を引く。


「えっ、ちょっと……?」

「ごめん、少しだけ付き合ってよ。奢るから」


やや強引な誘いではあるものの、不快感は全くなかった。




芹沢さんに連れられてやって来たのは、彼が仲間と良く利用するというチェーン店の居酒屋。


「こんなとこでゴメンネ。奢るって言っておきながら、実はあんまり金持ってなくてさ」


恥ずかしげもなく堂々と言う芹沢さんのオープンな性格に、私の中の彼の好感度が上がる。


「全然構いませんよ。逆に、変に洒落た店より好きです」

「そう?良かった。森ちゃん、生で良い?」


私が頷くと、芹沢さんが通り掛かりの店員に生ビールを二つと、軽いつまみを注文した。

店内は平日だというのに賑やかで、あまり落ち着かない。

席毎に薄いついたてで仕切られているものの、他の客との距離は近い。

私も芹沢さんも芸能人であるからして、バレたら大変なんじゃ……と、不安に感じていると、一足先に生ビールが運ばれてきた。


「んじゃ、取り敢えず乾杯っつーことで」


芹沢さんがジョッキを掲げる。

それに合わせて、私もジョッキを持ち上げた。


「乾杯」


厚いガラス同士がぶつかる鈍い音を聞いてから、よく冷えたビールを堪能する。


「っ、あー!旨い!」


オヤジのように唸る芹沢さんに「オッサンですか!」と私がツッコミを入れると、彼は嬉しそうに目を細めた。

それから沁々と言う。


「意外と元気そうでホッとしたよ」


その言葉に「えっ?」と、聞き返せば、芹沢さんはニッと笑う。


「もっと落ち込んでるかと思ったから」


テーブルに頬杖をつきながら私を繁々と眺めてくる彼に多少の居心地の悪さを感じつつ、ビールを煽った。


「まさかの、ドッキリオチ………ビビったね」

「………」


口の中にはビールの苦味が広がり、心の中には痛みを伴う苦味が広がる。


「さすがにあれはやり過ぎっしょ?森ちゃん可哀想過ぎた」

「………」


運ばれてきたおつまみ三点盛りを箸で摘まむ芹沢さん。

私は彼に静かな怒りをぶつける。


「…………芹沢さんだって、グルだったんじゃないんですか?」


忍足さんとのデートは、全てホンコンシューズのフトシの監視下にあった。

芹沢さんもドッキリ仕掛人の一員として参加していたと考えるのは、自然な事だ。

なのに彼ときたら、急に真面目な顔を作り出して「いんや」と、首を左右に振る。


「俺はなーんにも知らないよ」

「嘘だ……絶対知ってましたよ」


この際、シラを切らずに全て話して欲しい。

でも、私の思いとは反対に、彼は「知らない」と繰り返した。
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