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波紋と余波②
しおりを挟む「私は何のお咎めもないのに、芹沢さんは頭を丸めて………何もそこまでしなくても良かったのに…」
ゴルフ場の芝生のようにキレイに刈られた頭部。
思わす触りたい衝動に駆られる程、魅惑的だ。
恐らく、私との記事の所為で事務所側から頭を丸めるように命じられたのだと勝手に思ってしまったのだけれど……
芹沢さんの「え……?」というリアクションが、その思い込みを打ち砕いた。
「これは、その………」
芹沢さんは、自らの頭を撫でながら苦笑する。
「ドラマの仕事が入ってさ………時代背景が戦時中だっつーから、それに合わせただけってゆーか…」
今度は私の方が「え……」と、間抜けな声を挙げた。
「この頭は、今回の件……あんま関係ないんだよね…」
「…………あ、そうなんですか…」
………あぁ、私の馬鹿。
芹沢さんたら、私の為に……なんて、一瞬でもヒロインぶった事を思ってしまった自分が痛過ぎる。
「結構、頭の形良いっしょ?歪みもないし」
自分の勘違いを恥じている私を余所に、芹沢さんは自らの頭を絶賛。
かと思えば、すぐに真面目な顔になる。
「ドッキリの所為でナーバスになっている森ちゃんに追い討ちを掛けるみたいな事しちゃって、本気で反省してる」
彼は「信じて貰えないかもしんないけど……」と、続ける。
「記事に書かれたような売名目的なんかじゃ、絶対ないから」
芹沢さんの真剣過ぎる眼差しに嘘は見えない。
「それを証明したくて、社長にも一緒に謝りに来て貰ったんだ」
車中で煙草を吸いながら待機している社長さん。
一見怖そうな極道面に見えて、かなり良い人なんだな……と、思っていると、不意に車中の社長さんと視線が絡む。
蛇に睨まれた蛙の如く固まる私に、彼はニッコリと微笑みかけてきた。
「社長は、ああ見えてすんげー良い人だよ」
芹沢さんは、まるで自分の事のように誇らしげ。
「前の事務所に見放された俺を拾ってくれた恩人なの。パッと見、ヤクザだけどさ」
「………うっかり、そっち系の方かと思ってました……」
私が、ついつい本音を滑らしてしまうと、芹沢さんは「あ、やっぱり?」と、いつもの彼らしい明るい表情になる。
「誤解され易い人だからね。大きい声じゃ言えないけど、何でも昔、悪役専門のプロダクションからスカウトされた事があったらしいよ」
大きい声じゃ言えない……と、前置いていながらも、芹沢さんは普通に声を大にして言うから笑いが込み上げて来て…
「あははっ、普通に声大きいし!芹沢さんて、キャラ的に俳優だけじゃ勿体ない気がしますよ」
是非とも、バラエティーにも進出して欲しい。
きっと、お茶の間の人気キャラクターになれる筈。
私が褒めたのが嬉しかったのか、彼はほんのり頬を赤らめて「そうかな?」とはにかむ。
「路線変更も有りかもね」
「いや、断然有りだと思います」
二人で一頻り笑い合った後、芹沢さんが再度真面目な顔を作る。
「とにかく、不快な思いをさせてごめん。これに懲りずに、また一緒に飲んでくれたら嬉しいよ。今度は、二人っきりじゃなく、お互いに友達連れて」
芹沢さんからの要望に「喜んで」と返事をしてから「あ、でも……」と、切り返す。
「全然不快じゃなかったです。芹沢さんのような格好良い人と噂になれて光栄でした」
これは、ただ単純に思った事を素直に言っただけ。
深く考えずに軽い気持ちで発言しただけだったのだけれど……
「そっか…」
芹沢さんが、一瞬だけ困ったような顔をしたのを私は見逃さなかった。
「ありがと、森ちゃん。実はさ……」
前よりさっぱりとした後頭部を掻きながら彼は言う。
「森ちゃんとの記事が出たのを知った時、いっそ本当に付き合っちゃおうか?なんて思ったりしたんだよね…」
「え……」
芹沢さんの大胆な発言に、脳内に嵐が吹き荒れる。
だけどそれは、彼の「なんて、冗談だけど」に、ピタリと止む。
「さすがの俺も、仲間が本気で好きになったコに平気で手を出せる程、神経太くないからね」
「…………は…」
意味が全く理解出来なかった。
耳には入ってきたものの、そのまま華麗に通過したみたく、頭に響かない。
「え………今の、どういう……?」
恐らく、今の私は、幼稚園児レベルまで知能が退化しているに違いない。
聞き取れた筈の言葉が意味不明……
どうした私、おかしいぞ?しっかりしろ!と、自分に往復ビンタ食らわしたい位、脳の理解し考える部門を担当する機能の働きはストップしている。
無意味に瞬きを繰り返している私に、芹沢さんは、ニィッと歯を見せる。
「ま、今のが意味分からんかったなら、近い内に本人から聞いて!じゃあ、俺もう行くから」
答えにすらならない答えを残して、芹沢さんは、社長さんが待つ車に乗り込んだ。
「え………ちょっと、芹沢さ…」
救いを求める私の声なんか聞こえませんとばかりに、車は急発進。
後には、タイヤの跡と排気ガスが 残されただけ。
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