売名恋愛

江上蒼羽

文字の大きさ
89 / 137

波紋と余波②

しおりを挟む


「私は何のお咎めもないのに、芹沢さんは頭を丸めて………何もそこまでしなくても良かったのに…」


ゴルフ場の芝生のようにキレイに刈られた頭部。

思わす触りたい衝動に駆られる程、魅惑的だ。

恐らく、私との記事の所為で事務所側から頭を丸めるように命じられたのだと勝手に思ってしまったのだけれど……

芹沢さんの「え……?」というリアクションが、その思い込みを打ち砕いた。


「これは、その………」


芹沢さんは、自らの頭を撫でながら苦笑する。


「ドラマの仕事が入ってさ………時代背景が戦時中だっつーから、それに合わせただけってゆーか…」


今度は私の方が「え……」と、間抜けな声を挙げた。


「この頭は、今回の件……あんま関係ないんだよね…」

「…………あ、そうなんですか…」


………あぁ、私の馬鹿。

芹沢さんたら、私の為に……なんて、一瞬でもヒロインぶった事を思ってしまった自分が痛過ぎる。


「結構、頭の形良いっしょ?歪みもないし」


自分の勘違いを恥じている私を余所に、芹沢さんは自らの頭を絶賛。

かと思えば、すぐに真面目な顔になる。


「ドッキリの所為でナーバスになっている森ちゃんに追い討ちを掛けるみたいな事しちゃって、本気で反省してる」


彼は「信じて貰えないかもしんないけど……」と、続ける。


「記事に書かれたような売名目的なんかじゃ、絶対ないから」


芹沢さんの真剣過ぎる眼差しに嘘は見えない。


「それを証明したくて、社長にも一緒に謝りに来て貰ったんだ」


車中で煙草を吸いながら待機している社長さん。

一見怖そうな極道面に見えて、かなり良い人なんだな……と、思っていると、不意に車中の社長さんと視線が絡む。

蛇に睨まれた蛙の如く固まる私に、彼はニッコリと微笑みかけてきた。


「社長は、ああ見えてすんげー良い人だよ」


芹沢さんは、まるで自分の事のように誇らしげ。


「前の事務所に見放された俺を拾ってくれた恩人なの。パッと見、ヤクザだけどさ」

「………うっかり、そっち系の方かと思ってました……」


私が、ついつい本音を滑らしてしまうと、芹沢さんは「あ、やっぱり?」と、いつもの彼らしい明るい表情になる。


「誤解され易い人だからね。大きい声じゃ言えないけど、何でも昔、悪役専門のプロダクションからスカウトされた事があったらしいよ」


大きい声じゃ言えない……と、前置いていながらも、芹沢さんは普通に声を大にして言うから笑いが込み上げて来て…


「あははっ、普通に声大きいし!芹沢さんて、キャラ的に俳優だけじゃ勿体ない気がしますよ」


是非とも、バラエティーにも進出して欲しい。

きっと、お茶の間の人気キャラクターになれる筈。

私が褒めたのが嬉しかったのか、彼はほんのり頬を赤らめて「そうかな?」とはにかむ。


「路線変更も有りかもね」

「いや、断然有りだと思います」


二人で一頻り笑い合った後、芹沢さんが再度真面目な顔を作る。


「とにかく、不快な思いをさせてごめん。これに懲りずに、また一緒に飲んでくれたら嬉しいよ。今度は、二人っきりじゃなく、お互いに友達連れて」


芹沢さんからの要望に「喜んで」と返事をしてから「あ、でも……」と、切り返す。


「全然不快じゃなかったです。芹沢さんのような格好良い人と噂になれて光栄でした」


これは、ただ単純に思った事を素直に言っただけ。

深く考えずに軽い気持ちで発言しただけだったのだけれど……


「そっか…」


芹沢さんが、一瞬だけ困ったような顔をしたのを私は見逃さなかった。


「ありがと、森ちゃん。実はさ……」


前よりさっぱりとした後頭部を掻きながら彼は言う。


「森ちゃんとの記事が出たのを知った時、いっそ本当に付き合っちゃおうか?なんて思ったりしたんだよね…」

「え……」


芹沢さんの大胆な発言に、脳内に嵐が吹き荒れる。


だけどそれは、彼の「なんて、冗談だけど」に、ピタリと止む。


「さすがの俺も、仲間が本気で好きになったコに平気で手を出せる程、神経太くないからね」

「…………は…」


意味が全く理解出来なかった。

耳には入ってきたものの、そのまま華麗に通過したみたく、頭に響かない。


「え………今の、どういう……?」


恐らく、今の私は、幼稚園児レベルまで知能が退化しているに違いない。

聞き取れた筈の言葉が意味不明……

どうした私、おかしいぞ?しっかりしろ!と、自分に往復ビンタ食らわしたい位、脳の理解し考える部門を担当する機能の働きはストップしている。

無意味に瞬きを繰り返している私に、芹沢さんは、ニィッと歯を見せる。


「ま、今のが意味分からんかったなら、近い内に本人から聞いて!じゃあ、俺もう行くから」


答えにすらならない答えを残して、芹沢さんは、社長さんが待つ車に乗り込んだ。


「え………ちょっと、芹沢さ…」


救いを求める私の声なんか聞こえませんとばかりに、車は急発進。

後には、タイヤの跡と排気ガスが 残されただけ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】

remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。 地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。 水村ゆい、23歳、シングルマザー。 誰にも言えないけど、愛息子の父親は、 今人気絶頂バンドのボーカルなんです。 初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。 待っている… 人生で、一度だけの恋。 【完結】ありがとうございました‼︎

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中

白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。 思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。 愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ 向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。 アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。 そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___ 異世界恋愛 《完結しました》

処理中です...