売名恋愛

江上蒼羽

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真相判明④

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「ちょっと、森川?!どこ行くのよ!」


川瀬さんの怒号なんて聞こえない振り。

小言やお説教は後で聞く。

忍足さんが私の楽屋を出てから、既に30分は経過している。

ジャックする番組がなければ、もう既に局を出た可能性がある。

でも、もしかしたら、まだ留まっている可能性も否定出来ない。

広い局内をくまなく探すには、足が全然足りないけれど、ただひたすら、彼の姿を求めて走る。




「はぁ……っ、はぁ…」


顔を見たくないだの、大嫌いだの……

散々酷い事を言っておきながら、今度は彼の姿を探し求めるなんて……

我ながら、随分と矛盾した勝手な行動だと思う。


けど……だけど……


「はぁ、はぁ……はぁ…」


今はとにかく真相が知りたい。

彼の行動の意味を全て知りたい。




すれ違う人達からの怪訝な視線を一身に浴びながら、狭い通路を疾走。

通り掛かるスタジオを覗いてみたり、楽屋の名前表示を確認してみたり……

階を上下してみたりもしたけれど、彼の姿は全く捉えられない。


「……はぁ、っ……忍足さん、どこ?」


元々体力なんて子供並み。

まだ確認していないフロアが沢山あるというのに、スタミナ切れがやって来て、エレベーターホール中程で立ち止まる。

笑う膝を押さえながら「ゼーゼーハーハー」息を乱していると、エレベーターのドアが開く。

男性が一人降り「ドアが閉まります」のアナウンスと共に、ゆっくり閉じていくドア。

その奥に、探している人物がいた。


「あっ………忍足さーーー…」


気付くのが遅かった。

ドアが完全に閉じ、降下を始めている。

彼の手には荷物があった。

恐らく、これから帰宅する所だろう。

となれは、エレベーターが向かう先は………地下駐車場。

すかさず、隣にあるもう一台のエレベーターを呼び出す。

乗り込んだと同時に、駐車場がある階のボタンを連打。



「早く………早く…」


地団駄を踏みたいくらい逸る気持ち。

それをグッと押さえ、途中で乗り込んでくる人が居ない事を願いながら到着をじっと待つ。


「………お願い……間に合って…」






地下駐車場に降り立った時には、彼の姿はなかった。


「……間に合わなかった…」


落胆と共に、疲労が一気に押し上げてきた。

ついでに、涙も。


「………忍足さん…」


もしかしたら、途中の階で降りたのかもしれない。

案外、徒歩で帰ったのかもしれない。


「……っ」


込み上げてくる涙を手の甲で払い、もう一度エレベーターに乗ろうと引き返す。

その時、車のエンジンが掛かる音が駐車場内に響いた。

音の発生源は近い。


「もしかして……」


そう呟いた時には、駆け出していた。
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