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side:透也―17
しおりを挟む単独での仕事が思いの外早く片付いたもので、荷降ろしついでに次の指示を仰ぐ為に会社に立ち寄った。
事務所に入った途端、ババ……常務は俺の顔を見て、資材置き場の片付けを命じてきた。
渋々資材置き場へと向かうと、俺と同じく常務に命じられたのか、一足先に片付け作業をしていた水川さんがいた。
俺の姿を確認した彼女は、こめかみから流れる汗を袖口で拭いながら「お疲れ様です」と笑顔を向けてきた。
それに「お疲れさんです」と返しながら、手近にあった鉄材を手に取る。
まさか俺の他に誰かがいるとは思わなかったから、拍子抜けというか、少しだけ驚いた。
水川さんの水色のブラウスが土汚れで茶色くなっている。
小綺麗な格好で、それ以前に事務員がするような仕事じゃないのに。
やっぱり常務はクソだな……と改めて思う。
「服大丈夫すか?汚れますよ。つーかもう手遅れっすね……」
「あぁ、このくらいの汚れなら洗濯すれば落ちますよ。息子の泥んこ汚れに比べたらかわいいものです」
「そっすか」
屈託なく笑う水川さんにつられて俺の頬も緩む。
「それにしても凄いですね。この材料の量」
「材料の値上がりを見越して多めに注文したみたいっすよ」
そのくせ倉庫は狭い。
更には野郎ばかりの職場で、どいつもこいつもテキトーに積み上げるから、ぐちゃぐちゃのゴミ屋敷状態。
どこに何があるか分からなくなっても誰かが片付けると思ってる。
俺を含めて。
「先が尖ってるやつもあるから気を付けた方がいいっすよ」
「はい、ありがとうございます。取り敢えず、何となく形が同じようなものをまとめていってるんですけど、このやり方で大丈夫ですか? 」
「あぁ……いんじゃないすか。テキトーで」
心の中で“この会社自体テキトーだし”と付け加えた。
「浅倉さんはこの会社は長いんですか?」
無言での作業が気まずいのか水川さんが話を振ってくる。
少し考えてから「まぁ、そこそこは」と答えた。
「この会社は結構年配の方が多いから、浅倉さんみたいな若い方は重宝されてますよね、きっと………って言ったら他の皆さんに失礼か」
「はは………ここだけの話にしときます」
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