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本編
【第16話】ロイの回想 ④
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待ちに待った夜。
日課である絵本の朗読をしてやると、今日は初めての針仕事で疲れていたのか、雪乃は話の途中ですっかり寝入ってしまった。
寝てしまえばこっちのもの。このくらいの小さな子どもは一度寝ると、動かそうが着替えさせようが、そう簡単に起きるもんじゃない事は実体験済みだ。
だが、僕は念の為、実益も兼ねてそっと雪乃のぷにぷにとした頬をつついてみた。もちろん、反応など無い。一回、二回と押したが、やっぱり起きる事はなかった。
起きないという事は十分に確認出来た。だが、この感触の気持ち良さに少し楽しくなってきた僕がしばらくの間雪乃の頬をぷにゅぷにゅと押し続けていると、さずがに眉を寄せ『うーん』と唸り声が。
『か、可愛いぃ…… ゴホンッ』
胸の奥を鷲掴みにされたようなヘンな錯覚を咳払いで打ち消すと、僕はそっと雪乃の細い腕を持ち上げ、妹の腕の中で瞼を閉じていた金髪の人形を抜き取った。
『温かいな。まるで血が通っているみたいだ』
それが、持った時の第一印象だった。
雪乃がずっと抱いていたのだ、きっと妹の体温が人形に残っているせいだとは分かっていても、そう感じずにはいられなかった。
そっと触れた頬や手にはとても弾力があり、起こした時に開かれた瞼には、人形独特の不自然さが全く無く、本物の瞳のようで少し不気味だ。金色の髪は流石に作り物っぽさがありはしたが、丁寧に処理しており、とても柔らかい。小さな指先にはきちんと爪の様な物が埋め込まれ、本物と見紛わんばかりの仕上がりだった。
『こんなもの、五歳の子供が作れるはずが…… 』
この人形を目の前にして、人形だと一瞬で見抜ける者はまずいないだろう。それ程の物を、とてもじゃないが五歳の子供が造れるはずが無い。
…… でも、妹が嘘をつく事などありえない。という事は、芙弓が嘘を?いや、わざわざそんな事をする意味があるだろうか。友人に贈る初の品に、嘘をつく必要など無いはずだ。そんな事をする意味もない。
義父の造った物なのなら、正直にそう言って渡したとしても、雪乃は心から喜んだだろう。
じゃあ、やっぱりこれはあんな幼い少女が自分で?
『信じられない、まさかそんな』
僕は疑いの目を人形に向けたまま、軽く首を横に振った。
手先が器用な方である僕でも、こんな物は造れない。たとえ技法を習っていたとしても、手先がまだ覚束無い年齢では到底無理がある。
こんな物を本当にあんな子が?
どうやって?習えば誰でも作れるような技法か何かがあの家にはあるのか?いや…… やっぱり、何か嘘をついているんじゃ。
——頭に浮かぶ疑問を解消する術もなく、ただ興味だけが胸に湧く。元来好奇心が強いせいか、気になった事はとことん追求しないと気が済まない。なのにそれが出来ないせいで、心にモヤモヤとした気持ち悪さが生まれた。
どうやって調べる?
雪乃に訊いても意味は無いし、これはもう本人に訊くしかないか?
『よし!』と心の中で呟き、再び雪乃の腕を持ち上げると、僕は軽い名残惜しさを感じながら、雪乃の腕の中に人形を戻した。
今度会った時にでも訊いてみよう。
分からない事は早く調べるに越した事はない。疑問は僕を捕らえ、他の事を考える事を許してくれなくなる傾向があるからだ。
でもどう訊こうか。相手は雪乃と同じ五歳の子供だ。どうしたものか……。
そんな事を考えながらゆっくり雪乃のベットから降りると、僕はサイドテーブルに置かれている鈴蘭の様なデザインをしたランプの紐を引き、電気を消す。
雪乃の傍に手を置き身体を支えると、柔らかい妹の頬にそっとおやすみのキスをした。
『おやすみ、いい夢を』
雪乃の髪をそっと撫で、その感触を楽しむと僕は、妹の眠る寝室を後にした。
今度会ったらどう訊こうか。
それ以前にあの子、あまり話さないと雪乃が言っていたけど、僕とは話してくれるだろうか?
——だが、その晩僕が考えていた“今度”はこなかった。
何日も、何週間も芙弓の来訪を待ったのに、人形を雪乃に渡したあの日以来、少女は僕らの家に来なくなったのだ。
日課である絵本の朗読をしてやると、今日は初めての針仕事で疲れていたのか、雪乃は話の途中ですっかり寝入ってしまった。
寝てしまえばこっちのもの。このくらいの小さな子どもは一度寝ると、動かそうが着替えさせようが、そう簡単に起きるもんじゃない事は実体験済みだ。
だが、僕は念の為、実益も兼ねてそっと雪乃のぷにぷにとした頬をつついてみた。もちろん、反応など無い。一回、二回と押したが、やっぱり起きる事はなかった。
起きないという事は十分に確認出来た。だが、この感触の気持ち良さに少し楽しくなってきた僕がしばらくの間雪乃の頬をぷにゅぷにゅと押し続けていると、さずがに眉を寄せ『うーん』と唸り声が。
『か、可愛いぃ…… ゴホンッ』
胸の奥を鷲掴みにされたようなヘンな錯覚を咳払いで打ち消すと、僕はそっと雪乃の細い腕を持ち上げ、妹の腕の中で瞼を閉じていた金髪の人形を抜き取った。
『温かいな。まるで血が通っているみたいだ』
それが、持った時の第一印象だった。
雪乃がずっと抱いていたのだ、きっと妹の体温が人形に残っているせいだとは分かっていても、そう感じずにはいられなかった。
そっと触れた頬や手にはとても弾力があり、起こした時に開かれた瞼には、人形独特の不自然さが全く無く、本物の瞳のようで少し不気味だ。金色の髪は流石に作り物っぽさがありはしたが、丁寧に処理しており、とても柔らかい。小さな指先にはきちんと爪の様な物が埋め込まれ、本物と見紛わんばかりの仕上がりだった。
『こんなもの、五歳の子供が作れるはずが…… 』
この人形を目の前にして、人形だと一瞬で見抜ける者はまずいないだろう。それ程の物を、とてもじゃないが五歳の子供が造れるはずが無い。
…… でも、妹が嘘をつく事などありえない。という事は、芙弓が嘘を?いや、わざわざそんな事をする意味があるだろうか。友人に贈る初の品に、嘘をつく必要など無いはずだ。そんな事をする意味もない。
義父の造った物なのなら、正直にそう言って渡したとしても、雪乃は心から喜んだだろう。
じゃあ、やっぱりこれはあんな幼い少女が自分で?
『信じられない、まさかそんな』
僕は疑いの目を人形に向けたまま、軽く首を横に振った。
手先が器用な方である僕でも、こんな物は造れない。たとえ技法を習っていたとしても、手先がまだ覚束無い年齢では到底無理がある。
こんな物を本当にあんな子が?
どうやって?習えば誰でも作れるような技法か何かがあの家にはあるのか?いや…… やっぱり、何か嘘をついているんじゃ。
——頭に浮かぶ疑問を解消する術もなく、ただ興味だけが胸に湧く。元来好奇心が強いせいか、気になった事はとことん追求しないと気が済まない。なのにそれが出来ないせいで、心にモヤモヤとした気持ち悪さが生まれた。
どうやって調べる?
雪乃に訊いても意味は無いし、これはもう本人に訊くしかないか?
『よし!』と心の中で呟き、再び雪乃の腕を持ち上げると、僕は軽い名残惜しさを感じながら、雪乃の腕の中に人形を戻した。
今度会った時にでも訊いてみよう。
分からない事は早く調べるに越した事はない。疑問は僕を捕らえ、他の事を考える事を許してくれなくなる傾向があるからだ。
でもどう訊こうか。相手は雪乃と同じ五歳の子供だ。どうしたものか……。
そんな事を考えながらゆっくり雪乃のベットから降りると、僕はサイドテーブルに置かれている鈴蘭の様なデザインをしたランプの紐を引き、電気を消す。
雪乃の傍に手を置き身体を支えると、柔らかい妹の頬にそっとおやすみのキスをした。
『おやすみ、いい夢を』
雪乃の髪をそっと撫で、その感触を楽しむと僕は、妹の眠る寝室を後にした。
今度会ったらどう訊こうか。
それ以前にあの子、あまり話さないと雪乃が言っていたけど、僕とは話してくれるだろうか?
——だが、その晩僕が考えていた“今度”はこなかった。
何日も、何週間も芙弓の来訪を待ったのに、人形を雪乃に渡したあの日以来、少女は僕らの家に来なくなったのだ。
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