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エピローグ
君の存在は
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「…… もう、無いって?」
宗一郎が眉間にシワをよせ、険しい顔で呟いた。
「ええ、あれは僕が趣味で作っただけの品で、作り方を書き留めてもいませんしね」
「…… そ、それじゃ困るんだが、全く記憶に無いか?お前頭良いし、少しくらい覚えてないか⁈」
「そんな事を言われましても…… 。それに、何が困ると言うんです?宗一郎は、欲しい者を手に入れたじゃありませんか」
明らかに焦っている宗一郎に向かい、彼の友人である湯川大和が言った。
——湯川宅の客間に二人。
穏やかな笑みをたたえながらじっと大和に見詰められ、宗一郎は少し居心地悪そうに脚を崩した。彼の手には小さな空き瓶が握られていて、やり場を無くした不安がその中には詰まっているみたいだ。
「宗一郎は、そんな物に頼らなくとも充分魅力的じゃないですか」
「…… お前に言われても実感は湧かないよ」
着物をきっちりと着こなす大和に目をやり、宗一郎が渋い顔をする。明治初期の美青年を思わせる風貌の友人を前にし、実感などわくワケが無かった。
「そんな事を言って、僕だって噂くらい知っていますよ?何度も女性を泣かせてきたくせに」
「んなの、付き合う気がないから断ったら勝手に泣かれただけだろう⁈よりにもよって…… 全部見事に弟の好きだった女ばっかりだったせいで——くそっ」
ぼやきながら俯く宗一郎に向かい、大和が「まぁとにかく、無い物はどうにもできません」と、ため息混じりに言う。
不意に宗一郎のスマートフォンから着信音が流れた。
「あ、悪い。ちょっと電話でるわ」
宗一郎の言葉に、大和が無言で頷く。
「もしもし?…… あぁ、大丈夫だよ。うん…… うん…… 」
とても嬉しそうな表情をしているので、きっとみどりからの電話なのだろう。
その様子を、自分の事のように大和がとても嬉しそうに見詰めている。
「今から?あー…… 」
一転して、宗一郎の表情が曇った。
「いや、わかった。行くよ、大丈夫。…… うん、楽しみにしてる…… じゃ——」
深いため息をつき、宗一郎がスマートフォンを持ったまま膝へ手を落とす。あぐらをかいた脚の上に肘をつき、おでこに手を当てる姿は、どう見たって『楽しみにしている』者の顔じゃ無い。
「彼女に逢うのが、そんなに怖いんですか?」
「…… 当たり前だろう?何も無しで会うのは、次が初めてなんだし」
「——え?まさか、初日からアレを使ったんですか⁈」
驚いた大和が大きな声をあげた。
「一目惚れだったんだよ…… 」と、顔を真っ赤にしながら宗一郎が呟く。
「はぁ…… 若気の至りとはいえ、いっそ作らなければ良かったですね。宗一郎が今の今まであんな物を持っていた事にも、驚きましたけれども」
呆れた声でそう言った大和は、薬剤師の資格を持っている。昔『妻(予定)に飲ませてみたい』なんて欲望に任せて、媚薬を作ってしまった事があった。
結局は使わず、扱いに困った品を安全そうな友人に悪戯半分であげたのだが、そんな事はもう随分前の事なので、とっくに薬は捨てられたものと大和は思っていたのだが——
「俺は、効果があった事の方に心底驚いた」
宗一郎の言葉に対し、大和が激しく同意し、首肯した。
賞味期限や消費期限といった問題も気になったし、お腹を壊したりしてはいなかったか心配になってくる。
「…… だからって、頼ってはいけませんよ。あんな物がなくとも、振り向かせ続ける手などいっぱいあるじゃないですか」
もっともな事を言い、大和がにこやかに微笑む。
反論の余地の無い言葉に、宗一郎は黙ったままだ。
「とにかく、もう今日は彼女の所に早く行ってあげて下さい。久しぶりなのでしょう?会えるのは」
「——な、何でわかった⁈」
驚きのせいで、宗一郎の声が大きくなる。
「とても嬉しそうな顔をしていたのと、宗一郎が最近ものすごく忙しかったからですよ。それと、薬が無いと怖くて会えず、より一層無駄に仕事へと没頭していたのではありませんか?あまり女性を放置していると、『彼にフラれたのでは…… 』と勝手に勘違いされてしまうかもしれませんよ?」
眼鏡をクッと上にあげながら、宗一郎がため息をつく。まったくもってその通りで、ぐうの音も出ないままだ。
「お前は…… 何でそう、人の痛いところを突いてくるんだよ」
◇
みどりの住む部屋の前に着き、緊張しながら呼び出しのベルを宗一郎が押す。玄関ドアの奥から、バタバタを走る音が聞こえ、鍵が開くと、中からみどりが笑顔で出てきた。
「いらっしゃい!早かったですね」
「…… うん、丁度近くで用があったからね。それと、少しでも早く逢いたかったし」
そうは言うも、本音ではちょっと怖い。
「あがって下さい。夕飯準備しておいたんですよ」
眩しいくらいの笑みを浮かべながらみどりがそう言い、部屋の奥へと戻って行く。後に続き、靴を脱いで宗一郎も部屋の中へ進んだ。
「今日は紅茶も用意したんですよ。ポットとか持っていなかったんで、学校の帰りに急いで買ってきました」
「そこまでしなくても良かったのに…… 」
「久しぶりに宗一郎さんの淹れてくれる紅茶が飲みたかったんですが…… 迷惑でした?」
「いや!嬉しいよ、うん…… 」
みどりの手料理を平らげ、宗一郎が台所に立ち紅茶を淹れる。
当たり前のように今まで入れていた媚薬が、今日からはもうない。
それでも…… 大丈夫なんだろうか?
みどりは俺と居る事で緊張したり、心臓を高鳴らせたり、身体を火照らせてくれたりするのだろうか?
触れても、何も感じたりしなくなってしまったら、どうしたらいいのだろう…… 。
いっそどこかに閉じ込めて、自分以外の誰にも会えないように出来れば…… 怖がらずにいられるのに——
「宗一郎さん!お湯沸けてますよ!」
「——え?!あ!ごめっ」と言いながら、慌てて宗一郎が火を止める。声をかけられるまで、彼はその事に全然気が付かなかった。
不安そうな表情でみどりが立ち上がり、そっと宗一郎のワイシャツの袖を掴む。
「どうしたんです?今日はなんだか上の空ですけど」
「そんな事は…… 無いと思うけど」
触れられる事にすら恐怖を感じ、宗一郎がみどりから一歩下がった。そのせいでみどりの手が彼の袖から離れ、空を掴む。
すると、みどりが泣きそうな顔をして俯いてしまった。
宗一郎が戸惑いながら「みどり?どうした?」と、顔を覗き込みながら訊く。距離を取った事が原因だとわかってはいるが、それだけでは無い気がした。
「だって、なんだかフラれる前みたいな気配がするから…… 。何を話して上の空だし、触れようとしたら避けるし…… 」
「有り得ないよ!俺から別れたりだけは、絶対に無い!」
力強くそう言い、宗一郎がみどりの体をギュッとキツく抱き締めた。
「ごめん、ホントごめん……ちょっと考え事していて。傷付けるつもりはなかったんだ」
「……宗一郎さん」
見詰めあっていると、甘い空気が二人を包み出した。
惹かれあうようにどちらからともなく顔を近づけ、口付けしようとした。だがその瞬間——宗一郎のスーツのポケットの中で、着信音が鳴りだしてしまった。
ピタッと動きが止まり、邪魔をされてしまった宗一郎が、スーツのジャケットを睨みつける。
息をつきながら「ごめん…… 。仕事の関係だと困るから、出るよ」と言いながらみどりから離れると、渋い顔をしながらスーツに手を伸ばした。
着信画面を見るとそこには、先程まで一緒にいた友人の『湯川大和』の名前が。
「もしもし?」
不機嫌丸出しの声がどうしても出てしまった。
『すみません、取り込み中に。でも言い忘れた事がありましてね、急いで伝えないとと思いまして』
「…… 手短に頼むよ」
『はい、では要件だけ。昔宗一郎に差し上げたあの薬は、多用すると効果が薄れるんです。身体が慣れてしまうんですよ』
「…… え?」
『だから、最初のうちは確かにとても効果的だったでしょうけど、前半以降の彼女の反応は…… 全て、彼女の本当の気持ち、本物の身体の反応だって事です』
「で、でも…… あの日はすごく——」
初デートの事を思い出し、宗一郎が口元を押さえた。
『後半に入ってからも大量に与えれば多少は効果が出るかもしれませんが。それも一時的なものです、長続きはしないはずですよ』
「…… そ、それを先に言え‼︎」
電話越しに、宗一郎が怒鳴った。
『そう言われましても、随分前の物ですからね。でもまぁそういう訳です。伝えましたよ。では、末永くお幸せに』と言うと、大和は一方的に電話を切った。
通話の切れたスマートフォンを震えながら握り締める宗一郎の側で、みどりが心配そうな顔をしながら、おろおろとしている。
「ど、どうしたんですか?仕事で何かトラブルでも?」
問われる言葉に返事も出来ず、急に全身から力が抜け、宗一郎が肩を落とした。
(…… 自分の馬鹿さ加減に、呆れてしまうな)
「いや、大丈夫だよ。友人からだったから」
そう言い、苦笑しながらも宗一郎がみどりの体を再びギュッと抱き締めた。腕には先程より力が入り、みどりがちょっと苦しそうな顔をしたが、逃げたりはしない。
「宗一郎さ…… ん?」
いったいどうしたのかさっぱりわからず、みどりが腕の中で首を傾げた。
「ねぇ、みどりは…… 今こうされると、ドキドキしたりするのか?」
「し、しな、しないわけが無いじゃないですか。宗一郎さんと一緒に居るんですもん」
照れ臭さと恥ずかしさの混じった声でそう答え、みどりが宗一郎の背中に手をまわす。
互いの心臓の音を感じられるくらいに身体を密着させ、みどりが「ね?こんなにドキドキしてる…… 」と囁いた。
その声の優しさに、宗一郎の胸が苦しくなる。
こんなにも愛されてるのに…… 僕は彼女の何を見ていたんだろう?
「好き…… 好きだよ」
「……私もですよ」
「俺は、君がいないと本当に駄目みたいだ…… 。失いたくないって、心底思うよ」
「どうしたんです?いつも強気な宗一郎さんらしくない」
「あぁ、そうだね。でも……みどりが恋しくてしょうがないんだ」
心から出た言葉に、みどりの頰が緩んだ。
「俺の側に…… ずっと居て欲しい」
「もちろんですよ」
穏やかな笑みを浮かべながら、みどりが宗一郎の首の後ろまで手を伸ばし、彼を引き寄せてキスをする。最初は少し驚いたが、ゆっくりと瞼を閉じ、みどりのくれる甘い口付けに、宗一郎が酔いしれた。
——みどりは存在そのものが、まるで媚薬みたいだ…… 。
そう感じながら、二人は互いを求め合い、甘い夜を貪ったのだった。
【終わり】
宗一郎が眉間にシワをよせ、険しい顔で呟いた。
「ええ、あれは僕が趣味で作っただけの品で、作り方を書き留めてもいませんしね」
「…… そ、それじゃ困るんだが、全く記憶に無いか?お前頭良いし、少しくらい覚えてないか⁈」
「そんな事を言われましても…… 。それに、何が困ると言うんです?宗一郎は、欲しい者を手に入れたじゃありませんか」
明らかに焦っている宗一郎に向かい、彼の友人である湯川大和が言った。
——湯川宅の客間に二人。
穏やかな笑みをたたえながらじっと大和に見詰められ、宗一郎は少し居心地悪そうに脚を崩した。彼の手には小さな空き瓶が握られていて、やり場を無くした不安がその中には詰まっているみたいだ。
「宗一郎は、そんな物に頼らなくとも充分魅力的じゃないですか」
「…… お前に言われても実感は湧かないよ」
着物をきっちりと着こなす大和に目をやり、宗一郎が渋い顔をする。明治初期の美青年を思わせる風貌の友人を前にし、実感などわくワケが無かった。
「そんな事を言って、僕だって噂くらい知っていますよ?何度も女性を泣かせてきたくせに」
「んなの、付き合う気がないから断ったら勝手に泣かれただけだろう⁈よりにもよって…… 全部見事に弟の好きだった女ばっかりだったせいで——くそっ」
ぼやきながら俯く宗一郎に向かい、大和が「まぁとにかく、無い物はどうにもできません」と、ため息混じりに言う。
不意に宗一郎のスマートフォンから着信音が流れた。
「あ、悪い。ちょっと電話でるわ」
宗一郎の言葉に、大和が無言で頷く。
「もしもし?…… あぁ、大丈夫だよ。うん…… うん…… 」
とても嬉しそうな表情をしているので、きっとみどりからの電話なのだろう。
その様子を、自分の事のように大和がとても嬉しそうに見詰めている。
「今から?あー…… 」
一転して、宗一郎の表情が曇った。
「いや、わかった。行くよ、大丈夫。…… うん、楽しみにしてる…… じゃ——」
深いため息をつき、宗一郎がスマートフォンを持ったまま膝へ手を落とす。あぐらをかいた脚の上に肘をつき、おでこに手を当てる姿は、どう見たって『楽しみにしている』者の顔じゃ無い。
「彼女に逢うのが、そんなに怖いんですか?」
「…… 当たり前だろう?何も無しで会うのは、次が初めてなんだし」
「——え?まさか、初日からアレを使ったんですか⁈」
驚いた大和が大きな声をあげた。
「一目惚れだったんだよ…… 」と、顔を真っ赤にしながら宗一郎が呟く。
「はぁ…… 若気の至りとはいえ、いっそ作らなければ良かったですね。宗一郎が今の今まであんな物を持っていた事にも、驚きましたけれども」
呆れた声でそう言った大和は、薬剤師の資格を持っている。昔『妻(予定)に飲ませてみたい』なんて欲望に任せて、媚薬を作ってしまった事があった。
結局は使わず、扱いに困った品を安全そうな友人に悪戯半分であげたのだが、そんな事はもう随分前の事なので、とっくに薬は捨てられたものと大和は思っていたのだが——
「俺は、効果があった事の方に心底驚いた」
宗一郎の言葉に対し、大和が激しく同意し、首肯した。
賞味期限や消費期限といった問題も気になったし、お腹を壊したりしてはいなかったか心配になってくる。
「…… だからって、頼ってはいけませんよ。あんな物がなくとも、振り向かせ続ける手などいっぱいあるじゃないですか」
もっともな事を言い、大和がにこやかに微笑む。
反論の余地の無い言葉に、宗一郎は黙ったままだ。
「とにかく、もう今日は彼女の所に早く行ってあげて下さい。久しぶりなのでしょう?会えるのは」
「——な、何でわかった⁈」
驚きのせいで、宗一郎の声が大きくなる。
「とても嬉しそうな顔をしていたのと、宗一郎が最近ものすごく忙しかったからですよ。それと、薬が無いと怖くて会えず、より一層無駄に仕事へと没頭していたのではありませんか?あまり女性を放置していると、『彼にフラれたのでは…… 』と勝手に勘違いされてしまうかもしれませんよ?」
眼鏡をクッと上にあげながら、宗一郎がため息をつく。まったくもってその通りで、ぐうの音も出ないままだ。
「お前は…… 何でそう、人の痛いところを突いてくるんだよ」
◇
みどりの住む部屋の前に着き、緊張しながら呼び出しのベルを宗一郎が押す。玄関ドアの奥から、バタバタを走る音が聞こえ、鍵が開くと、中からみどりが笑顔で出てきた。
「いらっしゃい!早かったですね」
「…… うん、丁度近くで用があったからね。それと、少しでも早く逢いたかったし」
そうは言うも、本音ではちょっと怖い。
「あがって下さい。夕飯準備しておいたんですよ」
眩しいくらいの笑みを浮かべながらみどりがそう言い、部屋の奥へと戻って行く。後に続き、靴を脱いで宗一郎も部屋の中へ進んだ。
「今日は紅茶も用意したんですよ。ポットとか持っていなかったんで、学校の帰りに急いで買ってきました」
「そこまでしなくても良かったのに…… 」
「久しぶりに宗一郎さんの淹れてくれる紅茶が飲みたかったんですが…… 迷惑でした?」
「いや!嬉しいよ、うん…… 」
みどりの手料理を平らげ、宗一郎が台所に立ち紅茶を淹れる。
当たり前のように今まで入れていた媚薬が、今日からはもうない。
それでも…… 大丈夫なんだろうか?
みどりは俺と居る事で緊張したり、心臓を高鳴らせたり、身体を火照らせてくれたりするのだろうか?
触れても、何も感じたりしなくなってしまったら、どうしたらいいのだろう…… 。
いっそどこかに閉じ込めて、自分以外の誰にも会えないように出来れば…… 怖がらずにいられるのに——
「宗一郎さん!お湯沸けてますよ!」
「——え?!あ!ごめっ」と言いながら、慌てて宗一郎が火を止める。声をかけられるまで、彼はその事に全然気が付かなかった。
不安そうな表情でみどりが立ち上がり、そっと宗一郎のワイシャツの袖を掴む。
「どうしたんです?今日はなんだか上の空ですけど」
「そんな事は…… 無いと思うけど」
触れられる事にすら恐怖を感じ、宗一郎がみどりから一歩下がった。そのせいでみどりの手が彼の袖から離れ、空を掴む。
すると、みどりが泣きそうな顔をして俯いてしまった。
宗一郎が戸惑いながら「みどり?どうした?」と、顔を覗き込みながら訊く。距離を取った事が原因だとわかってはいるが、それだけでは無い気がした。
「だって、なんだかフラれる前みたいな気配がするから…… 。何を話して上の空だし、触れようとしたら避けるし…… 」
「有り得ないよ!俺から別れたりだけは、絶対に無い!」
力強くそう言い、宗一郎がみどりの体をギュッとキツく抱き締めた。
「ごめん、ホントごめん……ちょっと考え事していて。傷付けるつもりはなかったんだ」
「……宗一郎さん」
見詰めあっていると、甘い空気が二人を包み出した。
惹かれあうようにどちらからともなく顔を近づけ、口付けしようとした。だがその瞬間——宗一郎のスーツのポケットの中で、着信音が鳴りだしてしまった。
ピタッと動きが止まり、邪魔をされてしまった宗一郎が、スーツのジャケットを睨みつける。
息をつきながら「ごめん…… 。仕事の関係だと困るから、出るよ」と言いながらみどりから離れると、渋い顔をしながらスーツに手を伸ばした。
着信画面を見るとそこには、先程まで一緒にいた友人の『湯川大和』の名前が。
「もしもし?」
不機嫌丸出しの声がどうしても出てしまった。
『すみません、取り込み中に。でも言い忘れた事がありましてね、急いで伝えないとと思いまして』
「…… 手短に頼むよ」
『はい、では要件だけ。昔宗一郎に差し上げたあの薬は、多用すると効果が薄れるんです。身体が慣れてしまうんですよ』
「…… え?」
『だから、最初のうちは確かにとても効果的だったでしょうけど、前半以降の彼女の反応は…… 全て、彼女の本当の気持ち、本物の身体の反応だって事です』
「で、でも…… あの日はすごく——」
初デートの事を思い出し、宗一郎が口元を押さえた。
『後半に入ってからも大量に与えれば多少は効果が出るかもしれませんが。それも一時的なものです、長続きはしないはずですよ』
「…… そ、それを先に言え‼︎」
電話越しに、宗一郎が怒鳴った。
『そう言われましても、随分前の物ですからね。でもまぁそういう訳です。伝えましたよ。では、末永くお幸せに』と言うと、大和は一方的に電話を切った。
通話の切れたスマートフォンを震えながら握り締める宗一郎の側で、みどりが心配そうな顔をしながら、おろおろとしている。
「ど、どうしたんですか?仕事で何かトラブルでも?」
問われる言葉に返事も出来ず、急に全身から力が抜け、宗一郎が肩を落とした。
(…… 自分の馬鹿さ加減に、呆れてしまうな)
「いや、大丈夫だよ。友人からだったから」
そう言い、苦笑しながらも宗一郎がみどりの体を再びギュッと抱き締めた。腕には先程より力が入り、みどりがちょっと苦しそうな顔をしたが、逃げたりはしない。
「宗一郎さ…… ん?」
いったいどうしたのかさっぱりわからず、みどりが腕の中で首を傾げた。
「ねぇ、みどりは…… 今こうされると、ドキドキしたりするのか?」
「し、しな、しないわけが無いじゃないですか。宗一郎さんと一緒に居るんですもん」
照れ臭さと恥ずかしさの混じった声でそう答え、みどりが宗一郎の背中に手をまわす。
互いの心臓の音を感じられるくらいに身体を密着させ、みどりが「ね?こんなにドキドキしてる…… 」と囁いた。
その声の優しさに、宗一郎の胸が苦しくなる。
こんなにも愛されてるのに…… 僕は彼女の何を見ていたんだろう?
「好き…… 好きだよ」
「……私もですよ」
「俺は、君がいないと本当に駄目みたいだ…… 。失いたくないって、心底思うよ」
「どうしたんです?いつも強気な宗一郎さんらしくない」
「あぁ、そうだね。でも……みどりが恋しくてしょうがないんだ」
心から出た言葉に、みどりの頰が緩んだ。
「俺の側に…… ずっと居て欲しい」
「もちろんですよ」
穏やかな笑みを浮かべながら、みどりが宗一郎の首の後ろまで手を伸ばし、彼を引き寄せてキスをする。最初は少し驚いたが、ゆっくりと瞼を閉じ、みどりのくれる甘い口付けに、宗一郎が酔いしれた。
——みどりは存在そのものが、まるで媚薬みたいだ…… 。
そう感じながら、二人は互いを求め合い、甘い夜を貪ったのだった。
【終わり】
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