恋は媚薬が連れてくる

月咲やまな

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本編

【第11話】伝えたい気持ち②

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 ドア越しに宗一郎の気配を感じなくなり、ふうぅと小さなため息を宗太がつく。それと同時に、彼の逆上しそうになっていた心は少し落ち着きを取り戻していた。何とか誤魔化す事は出来たが、先の事を何も考えずに行動してしまった為、みどりの気を悪くしてしまったのではないかと、宗太は気が気じゃなかった。
 グイッとみどりが宗太の体を押し、少しでも離れようともがく。勝手な事をしてしまった罪悪感から、宗太はみどりから離れた。
「…… ごめん、センセ」
 視線を下へと落とし、宗太がと小さく呟いく。
 そんな彼の表情を見て、ちくりと痛む胸元を軽く押えつつ、みどりが首を力なく横に振った。
「ずっと…… 言いたくって、でもチャンスなかったからさ。何か俺、焦っちゃったみたいで」
 自分の椅子に座り、宗太が小さい声でそう言った。
「『好きだ』って俺が一番最初に言えれば、もしかしたら俺に振り向いてなんてもらえないかなーとかも思って」
 困った表情のまま、みどりが宗太の言葉を黙ったまま聞いている。
「でも、その様子だと俺は…… 玉砕したみたいだね」
 クスッと笑い、宗太が椅子の背もたれによりかかる。辛そうではあるが、激昂気味だった瞬間よりはいくぶんスッキリした顔をしていた。
「ご、……ごめんね。私は宗太君の事は……弟くらいでしか…… 」
「うわーいったいなぁ、その一言は」
「ご、ごめんっ」
「ああ、もう気にしないで。立ち直りの早さには自信あるからさ。一回や二回じゃないし、アニキ絡みでフラれるの」
 ニコッと微笑みながら宗太が言った言葉が、みどりの耳にやけに刺さる。
(あれ?私…… 宗太君に『好きな人ができたー』とか、『いるのよねー』とか、ましてや『宗一郎さんが好き』だなんて言ってないよね⁈…… な、何故バレた…… )
「俺が好きになる子ってさ、みんなアニキが好きだったんだよ」
「……そ、そうだったんだ」
(そりゃあそうよね、モテそうだし。年上だし、彼女とかいなかった方が不自然じゃない)
 顎を指で何度も触りながらそんな事をみどりが思っていると、宗太が苦笑した。
「何人の子が泣いたんだろうね」
 そう言った声が、ちょっとわざとらしい。
「みどりセンセも泣かされないでね、俺は……待ってるからさ」
 宗太が教科書に手を伸ばし、それらを机の引出しの中へとしまい始めた。
「今日はもうお終い、勉強なんて頭に入んないし、センセだって教えるような心境じゃないだろう?」
 みどりの頭に手を伸ばし、宗太がやさしき手つきでそっと撫でる。
「俺から見たら、小さい体のセンセの方がずっと年下みたいに見えてたんだけどな。俺は…… 中身がまだ子供なのが駄目だったみたいだね」
 そう言うと、彼は座っていた椅子から立ち上がり、みどりを部屋に残したまま、一階へと降りて行ってしまったのだった。

       ◇

 居間のドアを開けて、宗太が中へ入る。彼が後ろ手でドアを閉めると、睨みつける様な視線を前に向けた。
 その視線を受けて、ソファーに座りながら膝の上に頬杖をついた状態だった宗一郎が、じっと宗太を見詰め返す。
 そのまま数秒間、ただ視線だけをぶつけ合う。兄弟にしかわからない間が、そこにはあった。


 ふうぅとため息をつき、先に顔を逸らしたのは宗太の方だった。
 宗一郎の対面にある2人掛けの大きなソファーに、宗太が腰をかける。体を思いっきり背もたれに預け、天井を見上げながら「フラれた」と一言こぼした。
「そうか」
 宗一郎が短く返す。
「わかってたんだろう?さっきの様子がおかしいの」
「当然だ」
「じゃあ、何で開けて入ってこなかったんだよ。センセが俺に無理矢理襲われたりでもしたら、どうすんのさ」
「お前はそこまで馬鹿じゃないだろ?」
「変なところは俺の事、信用してんのな」
「兄弟だしな」と言い、立ち上がって宗一郎が台所へ向う。冷蔵庫からラップのされたお皿を取り出し、電子レンジにそれを入れる。
 宗太ものそっと立ち上がり、台所に向うと「自分でやるよ」と言いながら箸を出して、炊飯器から茶碗に自分分のご飯を盛りつけ始めた。
 返事はせずに宗一郎が台所から離れ、ソファーにかけてあったスーツのジャケットを羽織る。
「早いけど、みどりさん送って来るわ」
「あぁ、頼む…… 」
 宗一郎の方に顔を向ける事無くそう言い、電子レンジから温まったおかずを取り出すと、宗太はもう一品を中へといれて、温めボタンを押した。
 緩めていたネクタイをしっかり締めて、宗一郎が二階へと上がっていく。
 キシッ、キシッと聞こえる階段を上がる音を、宗太は複雑な心境で聞きながら、温まった夕飯に箸をつけたのだった。
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