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第三章
【第十話】華への不安③
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食事やお風呂などが終わり、ソファーに二人で並んで座りながら一息吐く。手には蜂蜜入りホットミルクの注がれたマグカップが握られおり、テレビのニュースを見ながら、揃ってちびちびとそれを飲んでいる。
ごくりっ——
カシュの喉が鳴ったが、ホットミルクを飲んだからでは無い。
視界の隅にどうしたって入ってくる、ソファーの上で体育座りをしている華の、たわわな胸の谷間が気になってしょうがないからだ。
両手でマグカップを握っているからか、胸がいい感じに寄せられ、体育座りという体勢のせいでグッと上がっている。そのため、いつも以上に豊満な胸元が強調されているのだが、本人はホットミルクとニュースの内容に夢中で全く気が付いていない。
ふうっとカップへ息を吹きかけるたび、口元がキスをせがむような形に見えてしまい、カシュの心が掻き乱れた。
(ち、違う。華さんに他意はない。誘われてなんかいない、いないったらいないっ—— )
何度も自身へ“事実”言い聞かせているが、どうしたって属性的にも下っ腹の奥がもやもやとしてしまう。出来るだけ谷間から視線を逸らそうとはするものの、眼福姿が真隣にあっては、それもなかなか難しい……。
必死に堪えるカシュの尻尾がゆらりと動き、華の頬をそっと撫でてしまった。急な事で華は少し驚いたが、嫌がったりなどはせず、彼女はカシュの好きにさせた。こういった行為を華が簡単に許してしまうから、カシュが益々期待感を募らせてしまうのだが、彼女はそこまで深くは考えていないのが非常に厄介だ。
しっとりと吸い付くような肌の感触が心地よく、カシュの体がぶるっと震える。同時に少しの痺れも肌に感じたが、逃げ出す程の不快感ではなく、彼は『この痺れは、静電気かな?』くらいに受け止めた。
背を正し、今度こそはと画面の方に集中しようとする。だが当然出来るはずがなく、もっと他の箇所を触っても平気かな?などと、どうしたって考えが暴走してしまう。
細い首筋や、枕にまで出来そうなくらいの大きな胸。尻尾であろうが、本当に触れたのならば確実に怒られるので実際には出来ないが、考える事を止められない。妄想の中だけで彼女を押し倒し、首をそっと優しく尻尾の先で撫でながら、谷間に顔を埋めて頬擦りをする。——その程度の想像だけでもう、淫魔なインキュバスのクセに、カシュにとっては充分過ぎる程鼻血モノの内容だった。
「随分と車の事故のニュースが多いわね。来週からの登校時だとか、カシュも外に出る時は気を付けてね?」
突然話かけられ、カシュが驚き、肩がびくりと震えた。
「え?あ、はい!車、えぇ気を付けますよ、ぶつかって壊さないようにですよね」
「そっちなの?気を付ける点って。インキュバスって、案外丈夫な体をしているのね」
楽しそうに声をあげ、華が立てている膝の上にこてんを頭を乗せてカシュに笑いかけた。
一人暮らしの長い華は着心地の楽な服を家では好んで着ている。今はカシュが同居状態だというのに首元にゆとりのあるシャツを着ているせいで、今まで見たこともないくらいギリギリのラインまで谷間が露わになり、強調されてしまった。
状況的にはもう興奮以外のナニモノでもないシーンだというのに、カシュの視線が一箇所に釘付けになり……青冷めていく。
「カシュ?どうかしたの?」
「——あ、いえ。……そう、ですね。踏み潰すくらいなら、まぁ。やりませんけどね?やる必要も無いし」
カシュは華に話を合わはしたが、何だかとてもぎこちない。
彼は偶然目に入った、彼女の胸の尖りの近くにあった痣が気になってしょうがなかったからなのだが、もうその辺りはシャツの中に隠れてしまい、再度ソレを確認する事は出来そうになかった。
(あの痣は……いや。まさか、そんな……)
「そうね、この先も人の車を潰しちゃダメよ?それなりに貯金はしていても、半壊した車を弁償するのは正直かなりの痛手だから」
「ボクの失態なのに、華さんが弁償する義務はそもそもないんじゃ?」
「……あ、それもそうね。でも一応は保護者みたいなものだし、弁償しない訳にはいかないんじゃないかしら」
「ボクとしては、保護者よりも、“お嫁さん”になって欲しいんですけどね」
「……その話は無しにしましょう?少なくとも三年は、手出しの出来ない案件なのだし」
困り顔をしながら、華が視線をテレビに戻す。
もうニュースの時間は終わっていて、画面には化粧品のコマーシャルが映し出されていた。
「さてと、明日も朝早いし、今日はもう寝ようかしら」
空になったカップをテーブルに置き、ぐーっと腕や背筋を伸ばす。その様子をカシュは少し眉間にシワを寄せたまま見守り、彼も持っていたカップを華のカップの隣に置いた。
「食器はボクが洗っておきますね」
「あら、いいの?ありがとう」
にっこりと微笑みながら礼を言われ、落ちていたカシュの気分が少し上がる。
(あぁ、やっぱり華さんは可愛いなぁ)
「カシュは、本当に寝なくて大丈夫なの?」
ソファーから下りて、華が隣の部屋へ足を向ける。軽く振り返ると、彼女の事を目で追っていたカシュと視線が合った。
「えぇ、不要です。華さんが寝ている間は、学校に通うために不足している知識でも身に付けておきますよ」
「偉い子ね」と言いながら、華がカシュの頭を優しく撫でる。ふんわりとした髪の感触が心地よくって気持ちいい。
華に頭を撫でられて、カシュの瞳が猫の様に細くなり、細長い尻尾までもがパタンパタンとソファーの座面を叩いている。そんな彼の様子を見ている華の顔が緩み、見事に破顔した。
(な……何、この可愛い生き物は!と、尊過ぎるでしょぉ)
胸の奥を鷲掴みにされ、華は口元を引き絞り、ブルブルと小刻みに震えている。たが、気持ち良さから目を閉じてしまっていたカシュは、普段の彼女はしない不可思議な行動を身損ねてしまったのだった。
ごくりっ——
カシュの喉が鳴ったが、ホットミルクを飲んだからでは無い。
視界の隅にどうしたって入ってくる、ソファーの上で体育座りをしている華の、たわわな胸の谷間が気になってしょうがないからだ。
両手でマグカップを握っているからか、胸がいい感じに寄せられ、体育座りという体勢のせいでグッと上がっている。そのため、いつも以上に豊満な胸元が強調されているのだが、本人はホットミルクとニュースの内容に夢中で全く気が付いていない。
ふうっとカップへ息を吹きかけるたび、口元がキスをせがむような形に見えてしまい、カシュの心が掻き乱れた。
(ち、違う。華さんに他意はない。誘われてなんかいない、いないったらいないっ—— )
何度も自身へ“事実”言い聞かせているが、どうしたって属性的にも下っ腹の奥がもやもやとしてしまう。出来るだけ谷間から視線を逸らそうとはするものの、眼福姿が真隣にあっては、それもなかなか難しい……。
必死に堪えるカシュの尻尾がゆらりと動き、華の頬をそっと撫でてしまった。急な事で華は少し驚いたが、嫌がったりなどはせず、彼女はカシュの好きにさせた。こういった行為を華が簡単に許してしまうから、カシュが益々期待感を募らせてしまうのだが、彼女はそこまで深くは考えていないのが非常に厄介だ。
しっとりと吸い付くような肌の感触が心地よく、カシュの体がぶるっと震える。同時に少しの痺れも肌に感じたが、逃げ出す程の不快感ではなく、彼は『この痺れは、静電気かな?』くらいに受け止めた。
背を正し、今度こそはと画面の方に集中しようとする。だが当然出来るはずがなく、もっと他の箇所を触っても平気かな?などと、どうしたって考えが暴走してしまう。
細い首筋や、枕にまで出来そうなくらいの大きな胸。尻尾であろうが、本当に触れたのならば確実に怒られるので実際には出来ないが、考える事を止められない。妄想の中だけで彼女を押し倒し、首をそっと優しく尻尾の先で撫でながら、谷間に顔を埋めて頬擦りをする。——その程度の想像だけでもう、淫魔なインキュバスのクセに、カシュにとっては充分過ぎる程鼻血モノの内容だった。
「随分と車の事故のニュースが多いわね。来週からの登校時だとか、カシュも外に出る時は気を付けてね?」
突然話かけられ、カシュが驚き、肩がびくりと震えた。
「え?あ、はい!車、えぇ気を付けますよ、ぶつかって壊さないようにですよね」
「そっちなの?気を付ける点って。インキュバスって、案外丈夫な体をしているのね」
楽しそうに声をあげ、華が立てている膝の上にこてんを頭を乗せてカシュに笑いかけた。
一人暮らしの長い華は着心地の楽な服を家では好んで着ている。今はカシュが同居状態だというのに首元にゆとりのあるシャツを着ているせいで、今まで見たこともないくらいギリギリのラインまで谷間が露わになり、強調されてしまった。
状況的にはもう興奮以外のナニモノでもないシーンだというのに、カシュの視線が一箇所に釘付けになり……青冷めていく。
「カシュ?どうかしたの?」
「——あ、いえ。……そう、ですね。踏み潰すくらいなら、まぁ。やりませんけどね?やる必要も無いし」
カシュは華に話を合わはしたが、何だかとてもぎこちない。
彼は偶然目に入った、彼女の胸の尖りの近くにあった痣が気になってしょうがなかったからなのだが、もうその辺りはシャツの中に隠れてしまい、再度ソレを確認する事は出来そうになかった。
(あの痣は……いや。まさか、そんな……)
「そうね、この先も人の車を潰しちゃダメよ?それなりに貯金はしていても、半壊した車を弁償するのは正直かなりの痛手だから」
「ボクの失態なのに、華さんが弁償する義務はそもそもないんじゃ?」
「……あ、それもそうね。でも一応は保護者みたいなものだし、弁償しない訳にはいかないんじゃないかしら」
「ボクとしては、保護者よりも、“お嫁さん”になって欲しいんですけどね」
「……その話は無しにしましょう?少なくとも三年は、手出しの出来ない案件なのだし」
困り顔をしながら、華が視線をテレビに戻す。
もうニュースの時間は終わっていて、画面には化粧品のコマーシャルが映し出されていた。
「さてと、明日も朝早いし、今日はもう寝ようかしら」
空になったカップをテーブルに置き、ぐーっと腕や背筋を伸ばす。その様子をカシュは少し眉間にシワを寄せたまま見守り、彼も持っていたカップを華のカップの隣に置いた。
「食器はボクが洗っておきますね」
「あら、いいの?ありがとう」
にっこりと微笑みながら礼を言われ、落ちていたカシュの気分が少し上がる。
(あぁ、やっぱり華さんは可愛いなぁ)
「カシュは、本当に寝なくて大丈夫なの?」
ソファーから下りて、華が隣の部屋へ足を向ける。軽く振り返ると、彼女の事を目で追っていたカシュと視線が合った。
「えぇ、不要です。華さんが寝ている間は、学校に通うために不足している知識でも身に付けておきますよ」
「偉い子ね」と言いながら、華がカシュの頭を優しく撫でる。ふんわりとした髪の感触が心地よくって気持ちいい。
華に頭を撫でられて、カシュの瞳が猫の様に細くなり、細長い尻尾までもがパタンパタンとソファーの座面を叩いている。そんな彼の様子を見ている華の顔が緩み、見事に破顔した。
(な……何、この可愛い生き物は!と、尊過ぎるでしょぉ)
胸の奥を鷲掴みにされ、華は口元を引き絞り、ブルブルと小刻みに震えている。たが、気持ち良さから目を閉じてしまっていたカシュは、普段の彼女はしない不可思議な行動を身損ねてしまったのだった。
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