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第三章

【第十一話】華への不安④

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 夜の帳がすっかり周囲を覆い、華はシングルベッドの上で一人、昼間の疲れを癒しつつ穏やかな寝息をたてている。
 そんな彼女の側にカシュが立っているが、かなり顔色が悪い。心臓はヘンに五月蝿いし、先程ちらりと見えた華の胸元にあった痣が目の前によぎるせいで、心は不安でいっぱいだ。

「違う、きっと違う…… アレは…… えっと、見間違えだ、うん。影がきっとそう見えただけに決まってる」

 ボソボソと呟きながら、カシュがゴクリと唾を飲み込んだ。
 そっと手を伸ばして、ゆっくり華の使う布団を捲る。襟ぐりの広いシャツを着ている為、胸元が露わになってしまっているが、先程チラリと見えた気がする痣のようなモノまではこのままでは見えなかった。
 華の肌に触れてしまったり、布の擦れる音がたってしまわないように気を付けながら、襟ぐりに指を引っ掛けて服をそっと下へおろす。横になっていても尚、存在感のたっぷりある胸元や谷間が徐々に目の前に晒されていき、カシュは再び唾を飲み込む羽目に。それにより、先程よりの多い唾が彼の喉元をおりていった。

「………… っ」

 カシュが眉をひそめ、唇を強く噛んだ。
 指先をさっと華から引っ込め、ギュッと拳を作る。左手で目元を覆うと、深い溜息を吐きながら、彼は華の眠る部屋を後にした。


 足元がふらつき、壁にカシュの肩がドンッとぶつかる。真っ暗な部屋の中で「…… 他も確認しなきゃ」と呟き、鞄に手の伸ばしたが——それは開けるのをやめた。

(鞄はマズイ。華さんはカンの鋭い人のようだし、何がキッカケで気が付くかわからない…… )

 部屋の中を見渡し、何か華の個人情報を得られる物は他に何かないかと本棚の前に行く。カシュは棚の前にしゃがむと、人差し指で背表紙を確認しながら並ぶ本に目を走らせた。
「あった、卒業アルバム!」
 小声言いながら、本を手に取る。厚紙でできたカバーの中から高校の時のアルバムを取り出すと、カシュは何枚もページを捲り、華のクラスのページを必死に探した。
「…… くっ!」
 速攻でクラス全員の個人写真の中から華を見付け、カシュが鼻先を慌てて手で覆った。高校生の時の華の写真が可愛過ぎて辛い。
 随分前に、二次元のキャラを押し倒しながら『推しが尊過ぎて辛い!』と叫ぶ人の夢を覗き見た事があった。その時は『意味がわからん』と呆れていたのだが『こういう気持ちかー!』と我が身で体感し、複雑な気持ちを心の中で叫びながら、カシュは天井を仰ぎ見た。

 ——いや待て。違う、そうじゃない。

 高貴さまで感じられる見目麗しき今とは違い、可愛くて愛らしい華の姿に悶えることが目的ではないのだ。そんな事をしている場合じゃない。
 写真を指でそっと撫で、下に印刷されている名前を指差す。

「…… コレが、華さんの名前」

 そこには“徒結華あだむすはな”と書かれていた。
 初めて知った愛しき人のフルネームを前にして、カシュが両手で顔を覆い、深いため息を吐く。
「あぁ、どうしよう。華さんは間違い無く…… 魔女の末裔だ」
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