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本編
愛玩少女〜第4話〜
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この部屋で桜子が目を覚ましてから、幾日かが経過した。
その間桜子は一度も部屋から出してもらえる事もなく、ハクに世話をされて緩やかに日々が流れていた。彼はその間一言も、彼女が失ってしまった記憶に対して『何か思い出した?』と急かす事は無く、ただ穏やかに、何事も無かったかの様に接してくれている。
「おはよう、僕の小鳥。今朝の体調はどうかな?」
部屋の扉が開き、ハクが桜子の為に朝食を持って来た。今のような運動不足の中でも太らずにすみそうな軽めの品々を見て、彼女がほっと安堵の息を吐く。相変わらずの美味しそうな匂いが部屋中に漂い、すっと匂いを嗅ぎ取った桜子が嬉しそうに微笑んだ。
「おはようございます」
ベッドに腰掛けていた桜子が立ち上がり、テーブルを近くに寄せる。『他にも家具が欲しい』とおねだりして持って来てもらった品なのだが、これまた真っ白で相変わらずの眩しさだ。
「ありがとう、助かるよ」
礼を言い、テーブルの上に朝食の乗ったトレーを置く。スプーンや箸はハクの側にあり、どうやら今回も桜子は自分で食べさせてはもらえないみたいだ。
「じゃあ食べようか。何から食べたい?パンかな、小さいけど今日はハンバーグもあるけど、どうする?」
椅子に座り、当然の様に箸を持ったハクが桜子に問い掛ける。
「今日こそは、じぶ——」と意を決して言おうとした彼女の言葉は、「最初はサラダにしようか」と遮られた。
「はい、あーんして」
「…… 」
今日も、今回もダメだったか。
残念に思いながら、桜子があーんと声を出しながら口を開ける。そのたびに頰を桜色に染めたハクが口元を引き絞り、体がプルプルと震えているが、何とかミニトマトを彼女の可愛らしいお口の中に入れる事には成功出来た様だ。
「——ご馳走様でした」
頭を下げて、桜子が礼を言う。毎食毎食、自分はここに来てから一切何もしていないのに食事を与えてもらえ、感謝しかない。せめて何かお返しを、もしくは自分も家事を手伝えないかと思うのだが、前に彼女がそう告げた時に『僕がしたい事だから、桜子は何もしなくていいんだよ』と言いながら頭を撫でられ、流されてしまった。
だが、何もわからないから何もしなくていいという訳にもいかない。そう思う気持ちが捨てきれず、桜子は腰掛けていたベッドから降り、「今日は私がさげますね」とトレーを手に取った。
「ダメだよ、君はここに居て」
「で、でも…… お世話になりっぱなしですし。このまま、ただここに居ても…… 」
何もする事がなく、一日一日が異常に長く感じる。窓も無い、ただただた白い部屋では、夜が来た時に部屋が急に真っ暗になった時以外、時間の感覚さえ無くなってしまう。ふと気がついた時には、ベッドの上で気絶するみたいに寝入ってしまっている事もしばしばだ。
「暇、なのかい?」
「正直…… そうですね。初めてこの部屋で起きてから、どのくらい経ったのかも曖昧ですし」
「一週間くらい経ったかな、君がここに来てからは。僕がずっと一緒に居てあげられたらいいのだけど、ご飯の用意や片付けもしないといけないからねぇ。あ、そうだ!今度何か本でも持って来よう。レコードとかもいいかもしれないな」
「…… レコードですか?」
「うん、アンティーク品は嫌い?」
「いえ、興味はあります。ただ、扱い方がわからないですけど」
「遺品の中に沢山クラシックのレコードがあったから、それをこの後持って来てあげるね。使い方も教えてあげるから、僕が居ない時にも聴くといいよ」
そう言いながら、すっと桜子の手の中からハクがトレーを回収する。片付けを手伝わせる気は、やはり全く無いみたいだ。
「楽しみです、ありがとうございます」
手伝えなかった事は残念だったが、予見はしていたので、桜子は『是が非でも運ばせて欲しい』とは言わなかった。
「そういえば、遺品って…… どなたの、ですか?」
「母のだよ。義理の、だけどね。僕は養子だったから血縁は無いんだ。この家も遺産相続した物でね、住む場所に困らない様にしてくれた事は今でも感謝してる」
「…… そうなんですか」と言い、桜子が気不味そうに俯く。何と言葉を返すべきか迷ってしまい、言葉が続かない。
「もう随分前の話だから、あの人が居なくても悲しくは無いよ。それにほら、今は君が居てくれるしね」
ニコッと微笑み、ハクが椅子から立ち上がる。
「じゃあ僕は食器をさげてくるね。その後にレコードプレイヤーとかを持って戻って来るから、一緒に聴こうか」
今日は退屈せずに済みそうで、桜子は嬉しそうに「はい!」と答えた。
◇
大きな犬が耳を傾けていそうな蓄音器が桜子の部屋に運び込まれ、「うわぁぁ…… 」と彼女が感嘆の息を吐いた。記憶には無いが、きっと初めて実物を見た。そんな気がして桜子はワクワクと心が躍り、嬉しくてならない。
「さ、触っても、いいですか?」
手をわきわきと握ったり開いたりしながら、桜子がハクに訊く。
「あぁ、いいよ。喜んでもらえたみたいで嬉しいな」
クラシカルな蓄音器の外見は、どうやら見事に桜子の心を捕らえた様だ。今のとなっては無意味に大きく、だけどお洒落で、無駄が多いのが楽しくてならない。
「…… 早速、聴いてみる?」
「はい!」
子どもみたいにはしゃぐ桜子が可愛くって、ハクは子犬が尻尾を振るみたいにそわそわしながら、レコードをセットして音楽を流し始めたのだった。
「…… 素敵な音ですね」
ベッドの上に腰掛け、桜子が瞼を閉じながら音楽に聴き入る。夜眠る前にハクの歌ってくれる子守唄以外、音楽を聴くのはものすごく久しぶりな気がする。…… 覚えていないが、多分。
ハクは近くの椅子に座っていて、嬉しそうに音楽に耳を傾けている。彼もレコードで音楽を聴くのは久しぶりで、桜子と共にこの時間を過ごせる事が嬉しくてならない。
「あぁ、そうだね」
「この曲は?」
「エリーゼのために、だったかな。オルゴールなんかにもよく使われている曲だね」
「…… へぇ」
そうであるとはわからず、桜子が曖昧に返事をした。何もわからないことが、やはりちょっと悲しい。話題に対して共感、共有が出来ない事の何と切ないことか。
「…… ハクさんは」
「んー?」
「私の記憶が戻っていない事を、気にはしないのですね」
美しい音楽を聴いていて気が緩んでしまったのか、桜子がぼそっと呟いた。
「記憶を取り戻す事に、何か意味があるの?」
きょとんとした顔で、ハクが桜子に訊き返す。
「忘れたという事は、不要な物だったからでしょう?一度は捨てたモノを取り戻すなんて、意味の無い行為じゃないかな」
…… そうなんだろうか?でも、一理あるのかもしれない。
桜子は驚いた顔をしつつも、ちょっとわかるかもと納得してしまう。
「毎夜毎夜、現実だったかもしれない悪夢にうなされてしまうのに、そんなモノを取り戻したいとか思うはずが無いから何も訊かなかったんだけど、まずかった?」
声のトーンが落ち、ひんやりとした空気がハクの周囲から漂う。
「ご、ごめんなさい」
「謝る必要はないよ。ただ無駄な事をする必要は無いんじゃないかなって言っているだけだから」
反射的に謝った桜子に対し、ハクは優しい声色で言葉をかける。だが表情は冷たいままで、桜子が安堵出来る様なものではなかった。
「…… 何も思い出せない事自体は、正直あまり気にしていないんです。ハクさんの言う通り、コレってもしかして記憶の断片なのかなって夢を見ても…… 取り戻したい様な内容なんかこれっぽちも無いから」
「うん、そうだよね。わかるよ」
そう答えたハクは不謹慎な程嬉しそうだ。
「でも…… 」
「でも?」
「ハクさんとの事まで忘れたままなのが、心苦しいんです。今まで一緒に過ごした思い出とか、何も無いままだなんて。こんなに良くしてくれているのに、何も返せないどころか、親切にしてくれる理由もわからないままだとか…… イヤ、だなって」
「…… 桜子…… 」
彼女の名前を呼び、ハクの体が歓喜に震えた。頰は高揚し、桜子を見詰める瞳がうっとりと蕩ける。心臓も激しく高鳴り、彼は自分の胸倉を強く掴んだ。
「あぁ、君は本当に優しい子だね。僕の為に気を揉んでくれているだなんて…… 。僕の事で頭がいっぱい何だね?僕の事を一日中考えてくれているの?くだらない過去なんかよりも、僕を、僕だけを見てくれているとか!あぁぁぁ、最高だ。君を見付けられて、本当に良かった」
興奮気味に、ハクが言葉を続ける。
「でも、何も気に病む必要は無いよ。どうせ今と大差なんか無いんだからね」
口元に弧を描き、ニタリとハクが笑う。
スッと手を桜子の方へ伸ばすと、高揚したままの顔を軽く傾け、彼女の髪を優しく撫で始めた。
「もっと僕だけでいっぱいにしてあげる。何でも、何だって君の為にしてあげるから…… 僕の側から離れてはダメだよ?」
ハクの言葉を聞き、桜子の背筋がゾクリと震えた。
強く己を求められた事が嬉しくてならない。今までに一度も感じた事などない感情が胸の奥に芽生えたと、何もわからずとも確信出来るくらい心が震える。
「桜子…… 僕の可愛い、小鳥…… 」
彼女の長い白銀の髪を一房掴み、そっと優しく口付ける。その姿が桜子には忠誠を誓う騎士か物語の王子様の様に見え、ポッと頬を染めた。
——あ…… 今、恋に落ちる音がした。
そんな言葉が桜子の頭の中に浮かび、彼女は自分の火照る顔をそっと俯かせたのだった。
その間桜子は一度も部屋から出してもらえる事もなく、ハクに世話をされて緩やかに日々が流れていた。彼はその間一言も、彼女が失ってしまった記憶に対して『何か思い出した?』と急かす事は無く、ただ穏やかに、何事も無かったかの様に接してくれている。
「おはよう、僕の小鳥。今朝の体調はどうかな?」
部屋の扉が開き、ハクが桜子の為に朝食を持って来た。今のような運動不足の中でも太らずにすみそうな軽めの品々を見て、彼女がほっと安堵の息を吐く。相変わらずの美味しそうな匂いが部屋中に漂い、すっと匂いを嗅ぎ取った桜子が嬉しそうに微笑んだ。
「おはようございます」
ベッドに腰掛けていた桜子が立ち上がり、テーブルを近くに寄せる。『他にも家具が欲しい』とおねだりして持って来てもらった品なのだが、これまた真っ白で相変わらずの眩しさだ。
「ありがとう、助かるよ」
礼を言い、テーブルの上に朝食の乗ったトレーを置く。スプーンや箸はハクの側にあり、どうやら今回も桜子は自分で食べさせてはもらえないみたいだ。
「じゃあ食べようか。何から食べたい?パンかな、小さいけど今日はハンバーグもあるけど、どうする?」
椅子に座り、当然の様に箸を持ったハクが桜子に問い掛ける。
「今日こそは、じぶ——」と意を決して言おうとした彼女の言葉は、「最初はサラダにしようか」と遮られた。
「はい、あーんして」
「…… 」
今日も、今回もダメだったか。
残念に思いながら、桜子があーんと声を出しながら口を開ける。そのたびに頰を桜色に染めたハクが口元を引き絞り、体がプルプルと震えているが、何とかミニトマトを彼女の可愛らしいお口の中に入れる事には成功出来た様だ。
「——ご馳走様でした」
頭を下げて、桜子が礼を言う。毎食毎食、自分はここに来てから一切何もしていないのに食事を与えてもらえ、感謝しかない。せめて何かお返しを、もしくは自分も家事を手伝えないかと思うのだが、前に彼女がそう告げた時に『僕がしたい事だから、桜子は何もしなくていいんだよ』と言いながら頭を撫でられ、流されてしまった。
だが、何もわからないから何もしなくていいという訳にもいかない。そう思う気持ちが捨てきれず、桜子は腰掛けていたベッドから降り、「今日は私がさげますね」とトレーを手に取った。
「ダメだよ、君はここに居て」
「で、でも…… お世話になりっぱなしですし。このまま、ただここに居ても…… 」
何もする事がなく、一日一日が異常に長く感じる。窓も無い、ただただた白い部屋では、夜が来た時に部屋が急に真っ暗になった時以外、時間の感覚さえ無くなってしまう。ふと気がついた時には、ベッドの上で気絶するみたいに寝入ってしまっている事もしばしばだ。
「暇、なのかい?」
「正直…… そうですね。初めてこの部屋で起きてから、どのくらい経ったのかも曖昧ですし」
「一週間くらい経ったかな、君がここに来てからは。僕がずっと一緒に居てあげられたらいいのだけど、ご飯の用意や片付けもしないといけないからねぇ。あ、そうだ!今度何か本でも持って来よう。レコードとかもいいかもしれないな」
「…… レコードですか?」
「うん、アンティーク品は嫌い?」
「いえ、興味はあります。ただ、扱い方がわからないですけど」
「遺品の中に沢山クラシックのレコードがあったから、それをこの後持って来てあげるね。使い方も教えてあげるから、僕が居ない時にも聴くといいよ」
そう言いながら、すっと桜子の手の中からハクがトレーを回収する。片付けを手伝わせる気は、やはり全く無いみたいだ。
「楽しみです、ありがとうございます」
手伝えなかった事は残念だったが、予見はしていたので、桜子は『是が非でも運ばせて欲しい』とは言わなかった。
「そういえば、遺品って…… どなたの、ですか?」
「母のだよ。義理の、だけどね。僕は養子だったから血縁は無いんだ。この家も遺産相続した物でね、住む場所に困らない様にしてくれた事は今でも感謝してる」
「…… そうなんですか」と言い、桜子が気不味そうに俯く。何と言葉を返すべきか迷ってしまい、言葉が続かない。
「もう随分前の話だから、あの人が居なくても悲しくは無いよ。それにほら、今は君が居てくれるしね」
ニコッと微笑み、ハクが椅子から立ち上がる。
「じゃあ僕は食器をさげてくるね。その後にレコードプレイヤーとかを持って戻って来るから、一緒に聴こうか」
今日は退屈せずに済みそうで、桜子は嬉しそうに「はい!」と答えた。
◇
大きな犬が耳を傾けていそうな蓄音器が桜子の部屋に運び込まれ、「うわぁぁ…… 」と彼女が感嘆の息を吐いた。記憶には無いが、きっと初めて実物を見た。そんな気がして桜子はワクワクと心が躍り、嬉しくてならない。
「さ、触っても、いいですか?」
手をわきわきと握ったり開いたりしながら、桜子がハクに訊く。
「あぁ、いいよ。喜んでもらえたみたいで嬉しいな」
クラシカルな蓄音器の外見は、どうやら見事に桜子の心を捕らえた様だ。今のとなっては無意味に大きく、だけどお洒落で、無駄が多いのが楽しくてならない。
「…… 早速、聴いてみる?」
「はい!」
子どもみたいにはしゃぐ桜子が可愛くって、ハクは子犬が尻尾を振るみたいにそわそわしながら、レコードをセットして音楽を流し始めたのだった。
「…… 素敵な音ですね」
ベッドの上に腰掛け、桜子が瞼を閉じながら音楽に聴き入る。夜眠る前にハクの歌ってくれる子守唄以外、音楽を聴くのはものすごく久しぶりな気がする。…… 覚えていないが、多分。
ハクは近くの椅子に座っていて、嬉しそうに音楽に耳を傾けている。彼もレコードで音楽を聴くのは久しぶりで、桜子と共にこの時間を過ごせる事が嬉しくてならない。
「あぁ、そうだね」
「この曲は?」
「エリーゼのために、だったかな。オルゴールなんかにもよく使われている曲だね」
「…… へぇ」
そうであるとはわからず、桜子が曖昧に返事をした。何もわからないことが、やはりちょっと悲しい。話題に対して共感、共有が出来ない事の何と切ないことか。
「…… ハクさんは」
「んー?」
「私の記憶が戻っていない事を、気にはしないのですね」
美しい音楽を聴いていて気が緩んでしまったのか、桜子がぼそっと呟いた。
「記憶を取り戻す事に、何か意味があるの?」
きょとんとした顔で、ハクが桜子に訊き返す。
「忘れたという事は、不要な物だったからでしょう?一度は捨てたモノを取り戻すなんて、意味の無い行為じゃないかな」
…… そうなんだろうか?でも、一理あるのかもしれない。
桜子は驚いた顔をしつつも、ちょっとわかるかもと納得してしまう。
「毎夜毎夜、現実だったかもしれない悪夢にうなされてしまうのに、そんなモノを取り戻したいとか思うはずが無いから何も訊かなかったんだけど、まずかった?」
声のトーンが落ち、ひんやりとした空気がハクの周囲から漂う。
「ご、ごめんなさい」
「謝る必要はないよ。ただ無駄な事をする必要は無いんじゃないかなって言っているだけだから」
反射的に謝った桜子に対し、ハクは優しい声色で言葉をかける。だが表情は冷たいままで、桜子が安堵出来る様なものではなかった。
「…… 何も思い出せない事自体は、正直あまり気にしていないんです。ハクさんの言う通り、コレってもしかして記憶の断片なのかなって夢を見ても…… 取り戻したい様な内容なんかこれっぽちも無いから」
「うん、そうだよね。わかるよ」
そう答えたハクは不謹慎な程嬉しそうだ。
「でも…… 」
「でも?」
「ハクさんとの事まで忘れたままなのが、心苦しいんです。今まで一緒に過ごした思い出とか、何も無いままだなんて。こんなに良くしてくれているのに、何も返せないどころか、親切にしてくれる理由もわからないままだとか…… イヤ、だなって」
「…… 桜子…… 」
彼女の名前を呼び、ハクの体が歓喜に震えた。頰は高揚し、桜子を見詰める瞳がうっとりと蕩ける。心臓も激しく高鳴り、彼は自分の胸倉を強く掴んだ。
「あぁ、君は本当に優しい子だね。僕の為に気を揉んでくれているだなんて…… 。僕の事で頭がいっぱい何だね?僕の事を一日中考えてくれているの?くだらない過去なんかよりも、僕を、僕だけを見てくれているとか!あぁぁぁ、最高だ。君を見付けられて、本当に良かった」
興奮気味に、ハクが言葉を続ける。
「でも、何も気に病む必要は無いよ。どうせ今と大差なんか無いんだからね」
口元に弧を描き、ニタリとハクが笑う。
スッと手を桜子の方へ伸ばすと、高揚したままの顔を軽く傾け、彼女の髪を優しく撫で始めた。
「もっと僕だけでいっぱいにしてあげる。何でも、何だって君の為にしてあげるから…… 僕の側から離れてはダメだよ?」
ハクの言葉を聞き、桜子の背筋がゾクリと震えた。
強く己を求められた事が嬉しくてならない。今までに一度も感じた事などない感情が胸の奥に芽生えたと、何もわからずとも確信出来るくらい心が震える。
「桜子…… 僕の可愛い、小鳥…… 」
彼女の長い白銀の髪を一房掴み、そっと優しく口付ける。その姿が桜子には忠誠を誓う騎士か物語の王子様の様に見え、ポッと頬を染めた。
——あ…… 今、恋に落ちる音がした。
そんな言葉が桜子の頭の中に浮かび、彼女は自分の火照る顔をそっと俯かせたのだった。
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