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【第四章】
【第十一話】悩み多きお客様⑤(ヴァイス・談)
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竜紀と初めて逢った時、オレは自分の置かれた現状をかなり楽観視していた。最高の相性の相手なのだから傍にさえ居れば自然と惹かれ合うものだと思い込んでもいたし、実際オレの方からは惚れる一方で取り返しのつかないレベルにまできている。だが竜紀の方は出逢った日のままで、ちっともこちらに好意を寄せてくれている感じがしない。
今みたいに出逢いの瞬間を何度も思い返しては傷付き、あの時言われた『無理』の一言は胸の奥にある心の傷を抉り続けている。あれ以降幾度となく同じ言葉を浴びせられているせいもあるだろう。常にオレから距離を取り、元の世界に追い返す為に必死になってその方法を求め、行き着いた先がこの魔装具店とやらだ。
「——なるほど。今までのお話を要約すると、貴方は獣人しかいない異世界から来たヒトで、番を求めて召喚魔法を使ったが赤い目をした何かしらに邪魔をされ、気が付いたらこの世界に来てしまっていたという感じですね?」
「あぁ」
菓子や茶の並ぶテーブルを囲むように置かれた小さな椅子に座ったまま、フードや手袋で隠していた体を晒しながら今までの経緯を店の二人の説明した。普段から口数が少ないせいか頭の中で考えていることの半分も言えず、我ながら相当要領を得ない説明しか出来なかったのだが、要点だけは伝わったみたいなので良しとしよう。
「なるほど」と呟きながら、ナナリーが好奇心に満ちた目でじっとこちらを見ている。どうやらオレのこの、獣をそのまま立たせた様な姿が珍しいみたいだ。…… まさか、この世界に来てから創造魔法で作ったシャツとズボンが変だった、とかでは無いよな?一緒に居る竜紀まで、これ以上変な目で見られては申し訳ないからな。
肉球のある自分の手をじっと見詰め、『他にも獣人が居る世界なのに、コレはそんなに珍しいものなのだろうか?』と疑問に思う。オレからしたら、頭部に髪はあれども、それ以外は裸同然のその姿の方がずっと不思議でならない。
「結論から言うと、僕の使える移動魔法ではヴァイスさんを元の世界へ送り返すのは不可能です。魔塔へ依頼してもまず無理でしょうね。僕以上の術者はいませんから」
「そんな!」と叫び、竜紀がその場で立ち上がった。ガタッと音を立てて椅子が倒れそうになり、慌てて掴んでそれを阻止する。『そこまでしてオレを追い返したいのか?』と言いたい気持ちになったが、開いた口は声を発する事なくゆっくり閉じていき、強く引き結ぶだけに留まった。
「移動系の魔法を使って一度も行った事の無い場所へ行こうとすると、出来るだけ正確な座標が必要なんです。もしくは、術者が明確にその場所をイメージ出来なければ、移動する事は不可能ですね。ましてや…… 全く別の世界へとなると」
ゆるゆると首を横に振るエルナトの様子を見て、正直心底ホッとした。これで追い返す事を竜紀が諦めてくれたら、オレとの関係をもっと前向きに考えてくれるかもしれないからだ。
「…… っ」
苦虫でも噛み潰したみたいな顔をするナナリーに対して疑問を抱いたが、それ以上にエルナトの表情の方が気になる。どうしたってコイツは、辛そうな女性の姿を見て、そんなに嬉しそうにしているんだ?
「…… ま、まぁ、それは元々こちらのお店に期待していた案件じゃないんで、自分達でどうにか探してみます」
がくんと項垂れながら竜紀がこぼす。エルフ型のエルナトが相談に乗ると言ってくれたんだ、本心としては『もしかしたら!』と強く期待していたのだろう。
「そうそう、最初のご依頼の威圧感に関してですが…… 」
口元に手を当ててエルナトが小さく唸り声を上げる。
まさか、こちらも難題なのだろうか。変身魔法が使えればすぐに解決する事案なのだが、こちらに来て以降、火・風・水などといった自然要素がオレの魔力となかなか馴染まず、服を創り出すといった最低限の魔法しか使えていないせいで竜紀を困らせてばっかりだ。
「変身効果を指輪などの魔装具に持たせる事は可能ですから、見た目を変化させれば威圧感も誤魔化せるのではないかと」
「よ、良かったぁぁぁ」と安堵し、竜紀が胸を撫で下ろした。
「ただ、別の種族に変身する魔法を付与した物を販売するのは、御法度なんですよ」
「それはやっぱり詐称行為になるからですか?」
そう訊いて、ナナリーが不思議そうに首を傾げる。それに対し、「確かヒト型の者がエルフ型だと偽って結婚詐欺を働いた事件が原因だったんですよね」と竜紀が答えた。
「えぇ、そうです。随分前の事件ですが、しばらくの間世間を騒がせた事件だったので、お若い竜紀さんでもご存知だった様ですね」
にっこりと笑うエルナトの表情が不自然だ。そして彼の隣に座るナナリーもまた、焦りの混じる顔で無理に笑っている。「そうでしたね」と口にしてはいるが、まるで知らない事を誤魔化しているみたいに感じられる。
「犯人は逃走中に魔物に食われて死亡し、被害者達が泣き寝入りしたので後味の悪い事件でしたから…… 」
「それ以降変身魔法は制約が厳しくなったと新聞で読んだのに、僕がまだ子供の頃の話だったんですっかり忘れてました」
うぐぐっと声をあげて頭を抱える竜紀が可愛くてならない。今はそんなそんな事よりも、制約か…… 。参ったな。
「んー…… 。でもそれって、別の種族にはなれないってだけの話ですよね?獣人であるヴァイスさんが、獣人型に変身する分には問題無いのでは?言葉遊びって感じには、なっちゃいますけど」
「あり、ですね。獣みたいな姿のままでは行動もままならないですし、その手でいきましょうか」
まぁこの世界に存在しないはずの者だから法の適用外でもあるだろうし、落とし所としてはそれが一番だろう。果たしてそれで威圧感とやらがどうにかなるとは正直思えないが、面倒なのでエルナトはその事を黙っておく事にした。
今みたいに出逢いの瞬間を何度も思い返しては傷付き、あの時言われた『無理』の一言は胸の奥にある心の傷を抉り続けている。あれ以降幾度となく同じ言葉を浴びせられているせいもあるだろう。常にオレから距離を取り、元の世界に追い返す為に必死になってその方法を求め、行き着いた先がこの魔装具店とやらだ。
「——なるほど。今までのお話を要約すると、貴方は獣人しかいない異世界から来たヒトで、番を求めて召喚魔法を使ったが赤い目をした何かしらに邪魔をされ、気が付いたらこの世界に来てしまっていたという感じですね?」
「あぁ」
菓子や茶の並ぶテーブルを囲むように置かれた小さな椅子に座ったまま、フードや手袋で隠していた体を晒しながら今までの経緯を店の二人の説明した。普段から口数が少ないせいか頭の中で考えていることの半分も言えず、我ながら相当要領を得ない説明しか出来なかったのだが、要点だけは伝わったみたいなので良しとしよう。
「なるほど」と呟きながら、ナナリーが好奇心に満ちた目でじっとこちらを見ている。どうやらオレのこの、獣をそのまま立たせた様な姿が珍しいみたいだ。…… まさか、この世界に来てから創造魔法で作ったシャツとズボンが変だった、とかでは無いよな?一緒に居る竜紀まで、これ以上変な目で見られては申し訳ないからな。
肉球のある自分の手をじっと見詰め、『他にも獣人が居る世界なのに、コレはそんなに珍しいものなのだろうか?』と疑問に思う。オレからしたら、頭部に髪はあれども、それ以外は裸同然のその姿の方がずっと不思議でならない。
「結論から言うと、僕の使える移動魔法ではヴァイスさんを元の世界へ送り返すのは不可能です。魔塔へ依頼してもまず無理でしょうね。僕以上の術者はいませんから」
「そんな!」と叫び、竜紀がその場で立ち上がった。ガタッと音を立てて椅子が倒れそうになり、慌てて掴んでそれを阻止する。『そこまでしてオレを追い返したいのか?』と言いたい気持ちになったが、開いた口は声を発する事なくゆっくり閉じていき、強く引き結ぶだけに留まった。
「移動系の魔法を使って一度も行った事の無い場所へ行こうとすると、出来るだけ正確な座標が必要なんです。もしくは、術者が明確にその場所をイメージ出来なければ、移動する事は不可能ですね。ましてや…… 全く別の世界へとなると」
ゆるゆると首を横に振るエルナトの様子を見て、正直心底ホッとした。これで追い返す事を竜紀が諦めてくれたら、オレとの関係をもっと前向きに考えてくれるかもしれないからだ。
「…… っ」
苦虫でも噛み潰したみたいな顔をするナナリーに対して疑問を抱いたが、それ以上にエルナトの表情の方が気になる。どうしたってコイツは、辛そうな女性の姿を見て、そんなに嬉しそうにしているんだ?
「…… ま、まぁ、それは元々こちらのお店に期待していた案件じゃないんで、自分達でどうにか探してみます」
がくんと項垂れながら竜紀がこぼす。エルフ型のエルナトが相談に乗ると言ってくれたんだ、本心としては『もしかしたら!』と強く期待していたのだろう。
「そうそう、最初のご依頼の威圧感に関してですが…… 」
口元に手を当ててエルナトが小さく唸り声を上げる。
まさか、こちらも難題なのだろうか。変身魔法が使えればすぐに解決する事案なのだが、こちらに来て以降、火・風・水などといった自然要素がオレの魔力となかなか馴染まず、服を創り出すといった最低限の魔法しか使えていないせいで竜紀を困らせてばっかりだ。
「変身効果を指輪などの魔装具に持たせる事は可能ですから、見た目を変化させれば威圧感も誤魔化せるのではないかと」
「よ、良かったぁぁぁ」と安堵し、竜紀が胸を撫で下ろした。
「ただ、別の種族に変身する魔法を付与した物を販売するのは、御法度なんですよ」
「それはやっぱり詐称行為になるからですか?」
そう訊いて、ナナリーが不思議そうに首を傾げる。それに対し、「確かヒト型の者がエルフ型だと偽って結婚詐欺を働いた事件が原因だったんですよね」と竜紀が答えた。
「えぇ、そうです。随分前の事件ですが、しばらくの間世間を騒がせた事件だったので、お若い竜紀さんでもご存知だった様ですね」
にっこりと笑うエルナトの表情が不自然だ。そして彼の隣に座るナナリーもまた、焦りの混じる顔で無理に笑っている。「そうでしたね」と口にしてはいるが、まるで知らない事を誤魔化しているみたいに感じられる。
「犯人は逃走中に魔物に食われて死亡し、被害者達が泣き寝入りしたので後味の悪い事件でしたから…… 」
「それ以降変身魔法は制約が厳しくなったと新聞で読んだのに、僕がまだ子供の頃の話だったんですっかり忘れてました」
うぐぐっと声をあげて頭を抱える竜紀が可愛くてならない。今はそんなそんな事よりも、制約か…… 。参ったな。
「んー…… 。でもそれって、別の種族にはなれないってだけの話ですよね?獣人であるヴァイスさんが、獣人型に変身する分には問題無いのでは?言葉遊びって感じには、なっちゃいますけど」
「あり、ですね。獣みたいな姿のままでは行動もままならないですし、その手でいきましょうか」
まぁこの世界に存在しないはずの者だから法の適用外でもあるだろうし、落とし所としてはそれが一番だろう。果たしてそれで威圧感とやらがどうにかなるとは正直思えないが、面倒なのでエルナトはその事を黙っておく事にした。
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