古書店の精霊

月咲やまな

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第四章

【第十話】誘い①

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「柊華、どこで話そうか」
「んー近くの公園でいいんじゃないかな」
「そうだな、そうするか」
 適当に話せる場所といえばそれくらいしか思い浮かばず、二人は近所の公園へと向かう事にした。
 もう柊華は匠の二の腕からは手を離しており、ただ隣を歩いている。少しだけセフィルに意地悪をしたくって掴んだだけだったので、二人きりになった今となっては掴み続ける理由も無い。
「鞄、家に置いて来たの?」
 制服姿のままではあるが、匠は身軽な格好をしている。家に寄って置いてきたのだろうと、柊華は推測した。
「あぁ、重いしなー。まずかったか?」
「んな訳無いでしょ。むしろ何でそう思うのさ」
「そういやそうだよな」
 ははは、と笑い合いながら二人が歩く。
 もう空は暮れ始めており、公園へと歩道を歩く二人を夕陽が照らす。遠くでは暮れる前に巣へと戻る鳥達の声が聞こえ、テンプレ的夕方の雰囲気に匠が少し酔いしれていた。
 チラッと横を見ると、柊華の頰に夕日が当たり、いつもよりに増して輝いて見える。
(んな可愛い子が幼馴染とか…… ホント俺はラッキーだよなぁ)
 こんな時間に柊華と歩くのは久しぶりだとう事も重なり、嬉しさから匠は顔がにやけてしまい、それを誤魔化す様に軽く頰を手の甲で擦った。
(柊華も俺に対して思ってくれていたらいいな。んなふうに考えるのって、我儘かなぁ…… )
 青春真っ盛りで、ずっと側に居る柊華に長年想いを募らせている匠は、二人きりになるとついいつもそう考えてしまう。だが…… 可哀想な事に、柊華の方は別にこれといって特別感を抱いてはいなかった。


 生徒手帳も鞄も、柊華は“本”に近い物は何もかも店に置いて来た。匠は生徒手帳を鞄の中に入れているタイプなので、今セフィルがこちらの様子を伺う術は無い。公園に誰か人が居れば話は変わってくるが、匠と二人だけなのなら、柊華は久しぶりに完全にセフィルの管理下に無い状態になる。
 匠がどんな話をしたくて柊華を呼んだのか彼女にはまだはわからない。だが、それでもセフィルから離れることが出来た事に、柊華は少し安堵していた。
 裏切られたりなどはしていない。セフィルは嘘を言ってもいない。だが——柊華は複雑な心境を、どうしても急には割り切れなかった。

(いきなり、『貴女の子どもです』とか言われても!私はまだ高校生だよ?しかもあんな——紳
士な館長さんに『母さん』って呼ばれるとか!)

 柊華が髪をクシャと掴み、軽く頭を振る。そんな様子を見て、匠が心配そうな顔で「どうした?大丈夫か?…… 店でアイツと何かあったのか?」と訊いた。
「んー何でもないよ」
「そうかぁ?んなふうには見えないけど」
「テスト勉強やらないとなー、憂鬱だなーって思っただけ」
「…… あぁ、確かにそれは頭の痛くなる問題だな」
 匠は柊華の言葉をそのまま信じ、うんうんと頷いてくれる。その様子を見て、柊華がくすっと笑う。
 彼とは幼馴染なだけあって、一緒にいると気が楽だなぁと、柊華は改めて思った。
 セフィルと居る時の様な緊張感やドキドキといったものが、ここには無い。穏やかな気持ちでそのままを受け止められる。

 こんな時間はいつ以来だろうか?
 久しぶり過ぎて思い出せないや——
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