吸血鬼のいる街

北岡元

文字の大きさ
24 / 31
友だちでいてくれる君へ

友だちでいてくれる君へ(後編)

しおりを挟む
 一面に桃色の花が咲く丘の上で、3人は座り込んで手を握った。心を重ね合わせて、1人じゃないって伝わる。握られた手に込められた力が、温度が、コペルを再びこの場所へと誘った。
 見晴らしのいいこの場所で、3人は並んで座った。
「もしかしたら、なんて言いたくないぜ、俺たち」
 龍一はそう零した。
「絶対何とかなる。そうだろ、星子」
 星子は頷きながらも、視線を隠した。
「いつだってそうだったろ。力を合わせて何とかしてきた。負けそうな時は、絶対に仲間が助けてくれた」
 龍一の拳が震えていた。何かを堪えているかのように、歯を食いしばっていた。
「絶対に何とか出来る。そうだよな、星子……」
 雲の隙間に煌めく橙に染まる空に照らされて、まるでスポットライトのように、3人を切り取っていく。
「短い間だったかも知れない。でもさ、コペルがやって来てから、この戦いは変わったんだ。今度は俺たちが変えてやるんだ。コペルの戦いを、俺たちが……」
 星子はずっと頷いていた。その表情には、影があるようにも見える。
 コペルは上を向いた。今にも地平線から消えてしまいそうな夕暮れ。真上にはもう、小さな星が浮き出てきている。
 2人の強い心を感じる。悔しいって、叫んでる。
 怖かった。消えてしまうかも知れない事も、2人にもう会えなくなる事も。そう決まった訳じゃないのに、怖くて仕方が無かった。
「龍一、星子……」
 でも2人がいるから、少しずつ変わっていく自分や、周りの世界が、いつだって眩しく見えた。タンスに閉まってた似合わない革ジャン、好きでもないのに聞いてたロッカーの歌、周りと合わない事を、ただかっこよく見せようとしてた自分の面影が、そんな事を教えてくれた。それは2ヶ月か3ヶ月くらいの時間だったかも知れない。それでも、かけがえのないものをここに証明出来るくらいに、素晴らしい成長の時間だった。
「俺、気づいた事があるんだ」
 龍一も星子も、振り返った。コペルの声は、明るかった。
「誰かの心を感じられる事って、こんなにも嬉しいんだって。ずっと見ないようにしてきたものが、こんなにも素晴らしいものだったんだって」
 全身にぐっと力を入れて、立ち上がる。花を踏まないようにすればいい。それが今のコペルの先にある答えなのだから。
「ありがとう」
 2人の目を見て、そんな言葉が溢れた。
「俺、やっぱりゼッターとの約束のために生きていたい。きっと、それだけでいいんだ」
 2人の手を繋ぐ。今度はコペルから、2人へ。友だちでいてくれる、2人へ。
「龍一、落ち込まないで。龍一がいなかったら、こんな綺麗な場所まで来れなかった。人の心の美しさは、分からなかった」
 垂れた前髪の奥に、龍一の瞳が光る。こんなにも、優しいなんて。きっと、出会わなければ気づかなかった。
「泣かないで、星子。絶対に消えたりしない。2人がこうしていてくれるから、俺がいる事に意味が出来たんだ。だから、俺は消えたりなんかしない」
 星子はうんと頷きながらも、顔を上げる事が出来ない。きっと、悔しいんだ。松山さんの時みたいに、解決してやれない事が。
 想いを感じる。2人の優しい心を感じる。
 思い出す。昔の自分を。見捨てられたみたいに、まるで居ないみたいに、数々の瞬間を過ごしていた。気づけば1人で抱えきれない事もたくさんあった。
 親がいないから、コペルはただその一言を心の片隅に追いやって、捨てられないまま生きてきた。何をするにも、そうだ。真面目な自分が偉いのも、不真面目な自分がスレたように見られるのも、親がいないからだった。当たり前の事だった。
 でも、ある時龍一や吸血鬼と出会って今までの瞬間に、そんな事を思ったりしなかった。仲間や友だちがいる事が、コペルを奥底から変える事になった。
 白い光と、この世界の事。それは、1人では手に入らなかった力だ。優しさに触れて初めて、手に入った力だ。
 それだけで十分だったと、コペルは思う。
「行こう、2人とも」
 もう抑えきれないくらいの白い輝きが3人を覆っていく。気がつけばそこは、駅の裏道だった。
「コペル……」
 龍一も星子も、コペルを見つめていた。
「この戦いが終わったら、もっとたくさんの景色を見よう。これから先の事でも話しながらさ」
 そう言って、コペルは歩き出した。
 本当にありがたい事だ。何度だって元気や、踏み出す力をくれる人たち。その事を考えると、いつだって明るい気持ちになれる。どんな未来でも思い描ける。
 そんなコペルの姿を見て、2人はようやく真剣な気持ちが解けた。そして、コペルの後に続いた。
「コペル、約束だぞ!」
「もう……、私たち、あんたの保護者じゃないんだから、たまには楽に過ごさせなさいよ!」
 連鎖する想い。心が心を繋ぎ、広がっていく光の能力。コペルはそっと胸にしまい込んで、また未来へと歩き出したのだった。


その時だった。


 突然の突風に帽子が吹き飛んだ。不意に風の吹く方を向いた。そこにいたのは。
「ヴァージニア……!」
 3人は驚愕した。先日倒してしまったはずの、醜い腕の怪物がまたしても立ちはだかっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...