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友だちでいてくれる君へ
明日はきっと
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街が夜になると、カルマはフードを脱いだ。青々と茂っていたはずの木の葉は、紅く褪せて道の上にそっと眠る。もうすぐ年の終わりがやってきて、新しい日々を過ごすために。雨風に耐え抜いた木の葉たちは、誰に気づかれることも無く眠っている。
それは自分も同じことだと、カルマは思った。何故思ったのか、自分にも分からない。
いつからだっただろう。定期的に、この感覚を実感する。まるで自分から生気を絞り尽くしたかのように、身体に力がこもらなくなる。そして明日には、また生気を取り戻したように、いつも通り動けるようになる。それはまさしく、死人に魂を込め直しているかのようだった。
誰にも気づかれることはなく、また明日にはもう生え変わってしまう命。リズもゼッターも、このカルマが楽園の実現を果たすべく、儚い命を投げ打って戦っていた事実は、カルマ自身なすら気づいていないのだから、知る由もない。
「何人もの同士や人間を犠牲にしてきた……。でも最近は、まるで皆が何かに操られているかのように、上手く事が運んでいる……。もうすぐ終わる。何もかも、楽園にたどり着けば変わる。だがもう、俺は終わるようだぜ……、だって、俺の中の何かが……、もう終わらなければならないと、言っているんだ……」
たどり着いたのはシャッター街。その寝床でガクン、と膝が揺れたのを自覚すると、頬をコンクリートが強く撫でた。これでまた俺も眠りにつける。カルマはそう思った。
「帰ってきたのね、カルマ……」
寝床には既に先客がいた。氷の椅子に腰をかけて、光を受け付けない瞳で死人のように転がるカルマを見つめている。
「テ、ラス……」
名前を呼ぶ。睨み合う目と目。
もう何をされるのか、カルマは理解していた。だが、腕に力が入らない。能力を使うことが出来ない。
「も、もう……、俺たち吸血鬼の勝ちだ……。「血」は見つかった……、鍵も見つかった……」
「命乞い、かしら……。最も、命を欲する命乞いではなく、命を捨てる命乞いだけれど……」
冷酷な瞳でカルマの瞳を貫く。伸ばされた腕が、カルマの首筋を掴みあげる。
瞬間、カルマは恐怖を実感した。まだ死ねない。生き続けるハメになるのだと理解した。
「最後の仕上げよ、カルマ……。私のフィギュアになりなさい……!」
掴みあげたテラスの腕から、邪悪なエネルギーがカルマへと注入されていく。開ききった瞳に血が溜まり、破裂しそうな程に数百の血管がうねる。喉や腕に力を振り絞ると、千切れそうなほどに筋肉が暴走する。たまらなくなって歯ぎしりをすると、ダンプカーに押し付けられたように頭が締め付けられる。余りにも悲惨な生命の痛みを体験して、カルマはグロテスクな断末魔を上げた。
カルマは気を失い、また床を転がった。それを確認したテラスは、カルマの耳元へと口を寄せた。
「行きなさい、カルマ……。斑木コペル以外の者の始末は、あなたに任せるわ……」
そう囁くと、程なくしてグラグラとカルマが起き上がる。
「テラス……。なんかよく分からんが、また俺を助けてくれたのか?」
「ええ……。気にしないで、明日こそ楽園を開くのよ」
楽園、という言葉に、カルマの瞳は一層に輝きを増す。
「ああ、ついにだな。もう少しでマックスやマリアは浮かばれる……」
そして何事も無かったかのように、寝床の奥へと入っていった。
テラスは、フィギュアという特殊能力を使って、吸血鬼を操る事が出来る。だが、それでもカルマの身体は、もう魂を入れる箱としての機能すら失おうとしていた。
彼を操り始めたのは、200年前の戦いに遡る。処刑されたマリアを目の当たりし、駆け出したマックスと別れた、その後だった。
マリアを失ったショックに崩れ落ち、立ち上がれないカルマを容赦なく、人間は銀の弾丸で蜂の巣にした。
即死は免れたものの、テラスが目撃して人間を皆殺しにした時には、既に間に合わなかった。だから、彼の魂を繋ぎ止めるべく、フィギュアを使った。
マックスもそうだ。急所に弾丸を受けて生きていられる訳は無かった。最後に幸福であればそれでいいと、テラスは思った。
感情の無い操り人形と歩んだ200年間。だが、それも明日までだ。
きっと明日は、幸福を掴み取る日となる。テラスはそう思った。長すぎる戦いに、裏切られ続けた歴史に、渇望し続けた明日に、吸血鬼が終止符を打つ。例え、仲間たちが魂の抜け殻だとしても。
物語は最後の章へと進んでいく。そして、思い描いた結末を夢見て、吸血鬼たちは夜に微睡んでいくのだった。
それは自分も同じことだと、カルマは思った。何故思ったのか、自分にも分からない。
いつからだっただろう。定期的に、この感覚を実感する。まるで自分から生気を絞り尽くしたかのように、身体に力がこもらなくなる。そして明日には、また生気を取り戻したように、いつも通り動けるようになる。それはまさしく、死人に魂を込め直しているかのようだった。
誰にも気づかれることはなく、また明日にはもう生え変わってしまう命。リズもゼッターも、このカルマが楽園の実現を果たすべく、儚い命を投げ打って戦っていた事実は、カルマ自身なすら気づいていないのだから、知る由もない。
「何人もの同士や人間を犠牲にしてきた……。でも最近は、まるで皆が何かに操られているかのように、上手く事が運んでいる……。もうすぐ終わる。何もかも、楽園にたどり着けば変わる。だがもう、俺は終わるようだぜ……、だって、俺の中の何かが……、もう終わらなければならないと、言っているんだ……」
たどり着いたのはシャッター街。その寝床でガクン、と膝が揺れたのを自覚すると、頬をコンクリートが強く撫でた。これでまた俺も眠りにつける。カルマはそう思った。
「帰ってきたのね、カルマ……」
寝床には既に先客がいた。氷の椅子に腰をかけて、光を受け付けない瞳で死人のように転がるカルマを見つめている。
「テ、ラス……」
名前を呼ぶ。睨み合う目と目。
もう何をされるのか、カルマは理解していた。だが、腕に力が入らない。能力を使うことが出来ない。
「も、もう……、俺たち吸血鬼の勝ちだ……。「血」は見つかった……、鍵も見つかった……」
「命乞い、かしら……。最も、命を欲する命乞いではなく、命を捨てる命乞いだけれど……」
冷酷な瞳でカルマの瞳を貫く。伸ばされた腕が、カルマの首筋を掴みあげる。
瞬間、カルマは恐怖を実感した。まだ死ねない。生き続けるハメになるのだと理解した。
「最後の仕上げよ、カルマ……。私のフィギュアになりなさい……!」
掴みあげたテラスの腕から、邪悪なエネルギーがカルマへと注入されていく。開ききった瞳に血が溜まり、破裂しそうな程に数百の血管がうねる。喉や腕に力を振り絞ると、千切れそうなほどに筋肉が暴走する。たまらなくなって歯ぎしりをすると、ダンプカーに押し付けられたように頭が締め付けられる。余りにも悲惨な生命の痛みを体験して、カルマはグロテスクな断末魔を上げた。
カルマは気を失い、また床を転がった。それを確認したテラスは、カルマの耳元へと口を寄せた。
「行きなさい、カルマ……。斑木コペル以外の者の始末は、あなたに任せるわ……」
そう囁くと、程なくしてグラグラとカルマが起き上がる。
「テラス……。なんかよく分からんが、また俺を助けてくれたのか?」
「ええ……。気にしないで、明日こそ楽園を開くのよ」
楽園、という言葉に、カルマの瞳は一層に輝きを増す。
「ああ、ついにだな。もう少しでマックスやマリアは浮かばれる……」
そして何事も無かったかのように、寝床の奥へと入っていった。
テラスは、フィギュアという特殊能力を使って、吸血鬼を操る事が出来る。だが、それでもカルマの身体は、もう魂を入れる箱としての機能すら失おうとしていた。
彼を操り始めたのは、200年前の戦いに遡る。処刑されたマリアを目の当たりし、駆け出したマックスと別れた、その後だった。
マリアを失ったショックに崩れ落ち、立ち上がれないカルマを容赦なく、人間は銀の弾丸で蜂の巣にした。
即死は免れたものの、テラスが目撃して人間を皆殺しにした時には、既に間に合わなかった。だから、彼の魂を繋ぎ止めるべく、フィギュアを使った。
マックスもそうだ。急所に弾丸を受けて生きていられる訳は無かった。最後に幸福であればそれでいいと、テラスは思った。
感情の無い操り人形と歩んだ200年間。だが、それも明日までだ。
きっと明日は、幸福を掴み取る日となる。テラスはそう思った。長すぎる戦いに、裏切られ続けた歴史に、渇望し続けた明日に、吸血鬼が終止符を打つ。例え、仲間たちが魂の抜け殻だとしても。
物語は最後の章へと進んでいく。そして、思い描いた結末を夢見て、吸血鬼たちは夜に微睡んでいくのだった。
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