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優しい国編

04 涙の入浴

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俺が急に恐怖を覚えてから1ヶ月経ったが一向に恐怖心に慣れる事もなく日々怯えて暮らしている。もう、誰も居ないところへ行って隠居したいレベルだ。

「臭うな。」

目の前で食事を摂る見目麗しい男が俺を見る。

俺はえっ?という顔をして後ろを振り返るが誰も居ない。

「グレン殿、どうしてそんなに匂うのだ?」

ああ、俺?

「ここ1ヶ月、風呂に入っていないからかもしれないな。」

1ヶ月風呂に入っていない俺の髪はベトベトで薄汚れていた。服もこの屋敷に来たときのままだ。人は手入れしないとこんなに薄汚れるんだな。

ディランは美しい顔を歪めて汚物を見るような目で俺を見た。

「何故入らない。」

「安心して体を洗ってもらう人間がいないので入れないのだ。」

最近、無理矢理居着いた俺に遠慮のなくなったディランはちょいちょい敬語を使わなくなっているから俺も使わないで話している。

「自分で洗わないのか?」

自分で洗う?

「見当もつかないな。」

ディランが感情の読めない瞳でこちらを見る。このような美しい人間を創るなんて神は天才だなぁと思いながら俺も見つめ返した。

「……俺の屋敷に汚物があるのは耐えられん。」

徐に席を立つと腕を引かれ立たされた。

「何だ?食事の途中だが?」

これは流石に不敬であると言っても差し支えないだろう。

「お前のせいで食事が喉を通らん!!風呂に入れ!!!!!!」

鬼の形相のディランを見て俺は固まった。

「服の脱ぎ方も知らないのか!!」

「全然泡が立たないではないか!何度洗えば綺麗になるんだ!!」

「濡れたまま歩くな!!拭け!!そんな事も出来ないのか!!!」

「……おい、おい、何故泣いている。」

生まれて初めて怒鳴られた俺は恐怖のあまりしくしくと泣いていた。

「父上にも怒鳴られた事ないのに、ディラン、怖い、嫌いだ。」

俺はその日泣き寝入りした。
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