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優しい国編

07 いざ地下牢へ

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夢を見た。

その夢で俺は優しい人々を平気で傷付け苦しめていた。

最近ディランが守ってくれる安心感で忘れていたんだ。

俺はこの国で唯一の悪役なんだと。

「ディラン殿、私は地下牢へ行き苦しむ人々を解放しなくてはならない。ついて来てくれ。」

俺は覚悟を決めディランを見つめた。

「解放……別にいいが。」

親を大した罪でもないのに罪人にされた小さな女の子が泣き叫んでいた。俺はそれを見てうるさいとしか思えず、同じ牢屋に入れろと言った。あの子はどうしているだろうか。

いてもたってもいられずに俺は地下牢へ急いだ。俺が地獄の底へ落とした人達を開放しなくてはいけない。切実にそう思った――



――突然やって来た俺を見張りの兵士が慌てて案内した。

薄暗い鉄格子の部屋の床にはモコモコした暖かそうな絨毯が敷いてある。しかしその絨毯は貴族の屋敷の物に比べたら雲泥の差だ。

うん、ベットもふわふわしてそうだが貴族の屋敷の物に比べたら雲泥の差だ。

備え付けの家具も一式揃っているが貴族の屋敷の物に比べたら雲泥の差だ。

丁度ご飯の時間らしく囚人達は暖かそうに湯気が出ているよく煮込まれた食べ物を食べていたが貴族の屋敷で出る食事に比べたら雲泥の差だ。

「……地下牢とはこんなに酷い場所だったんだな。」

こんな劣悪な環境であの女の子は無事でいるだろうか。

|ωΦ)チラッ……………(⑉꒦ິ^꒦ິ⑉)

ニコニコして食事を取っていた囚人達は俺には気付かず見張りの兵士に話しかけた。

「ロンさん。今日の高級肉のシチュー最高だね!こんなの家では食べれないから夢みたいだよ。」

「あっ、ロンさん。明日飼ってた猫の一周忌なんだ。半日くらい帰って来るわ!」

「ロンのおじちゃん。私お母さんも呼んでずーっとここに住みたい!」

どんどん青ざめていく兵士を真顔で見ながら俺は地下牢を後にした。

「……解放したら反って恨まれるな。」

後であそこに予算がどれだけいってるか見直さないと。何処もかしこもこんな調子だとこの国は確実に内部から傾く。

「ディラン殿、優しい人々は優しいだけの無能集団だ。何故今まで生き残れたのが謎だと思わないか?」

ずっと俺の側にいて一部始終を見ていたディランに問う。

「……ずーっとここに住みたいとか……ブッ!」

ディランは笑いを堪えて屁をこいたような音を出した。

この男やはり不敬である。
 
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