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第1章
03 正しい勇者(まおう)の作り方
しおりを挟む小鳥の囀りが聞こえ出した。
世界は爽やかな朝を迎えたらしい。
明かりの消し方は分からんし、結局興奮して眠れなかった。お子ちゃまの癖に徹夜してしまった。
まぁ、ちょっとやそっと寝不足でげっそりしようがデブはデブだけどな。
いつもなら朝食前のオヤツが届けられるところだ。
――うん、まずはそれ止めたいよね。
朝食の前にオヤツ食べる必要ある?胃もたれするわっ。
よし、廃止しよう。
急に色々変えたら、あの時から王子は変わられたってバレバレになっちゃって、乗っ取り説とか別人説とか流れても困るから、今日はこれだけを変えよう。
ということで朝食前のオヤツ廃止!言われた使用人は一瞬驚いた顔をしていたがすぐに了解し、俺の朝食前のオヤツは廃止になった。
ふー、何か達成感あるぅ!
――次の日は、魔法の家庭教師を頼んだ。
その次の日は食事量の減少。今まで食べれたけど、体に悪い事分かっちゃったし、あんなに食べる気しない。残すの勿体ないから減らさせた。
そうして少しずつ軌道修正していき、一ヶ月後には、
・アレンには積極的に関わらない
(虐め最低だし、アレン小さくて可愛いし)
・使用人は必要最低限にしか話さない
(我が儘とか命令とか言いたくないし)
・とにかく暇だから城にある本を毎日読む
(この世界の事が分かるし、これから一人で生きていく為のヒントが見つかるかもしれないし)
上の事を日常的に行うようになっていった。
久しぶりに俺に合う奴から見たら、えっ?誰?頭打った?ってなるレベルだが、一ヶ月かけておこなったので、周囲の使用人達は違和感なく慣れていったようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ファイヤー……」
何も起こらない。
「ほんに、からっきし才能ないのぅ。」
魔法家庭教師の年老いた老人が呆れたように呟く。
昔は賢者様と崇められた凄い人らしいけど…金にものを言わせて雇った。
「……いや、それ言ったらお仕舞いだから。」
「攻撃系は無理じゃろうなぁ。諦めろ。才能ないわい。するだけ無駄じゃ。」
「うわぁー、いたいけな子供によくそんな事言えるなぁ。泣くぞ?」
じとっと睨むと、鼻でふん!とされた。
「なぁにが、いたいけな子供じゃ。「居るだけで迷惑なデブ」の間違いじゃろ?無理矢理こんな所に連れて来られてこんな不細工デブの子守りとはほんに儂、可哀相。まぁ希望はアレンじゃな。あやつは筋がいい!素直じゃし。可愛いし。こんな最低の所によくぞ金の卵がいたもんじゃわい。儂、弟子にしたい。」
心の声が駄々もれってやがる。
こいつ、俺の権力の全てをかけて葬りさっていいかな?
「……まぁ、あいつはそうだろうな。だからといって俺に手をぬくなよ。何かないのか?俺にも出来る魔法は?」
この世界を生き残るためには魔法が出来ると出来ないとじゃ、生きるか死ぬかなんだぞ?かつての賢者は心底面倒臭そうだ。
「お主は一応魔力はあるようじゃし、……属性は聖か……初歩中の初歩ヒール位は使えるようになるかもしれんのぅ、しかし魔力が少ないから無駄な努力になるかもしれん。」
……この顔で属性が聖。
しかし身も蓋もない。
仮にもこの国の王子に遠慮がないのも程がある。
俺も先の未来を知らなければ、パンがなければケーキを買えばいいだろう。みたいに、魔力の才能がなければ才能がある強いやつを金の力で雇えばいい!と言えただろう。
だが、俺の未来には破滅しかない。
この状況から逃げ出すには王子の地位を捨て、一人で生きていくしかないんだ。
一人で生きていくには力が必要不可欠。ヒール位は覚えたい。
後は剣術を磨くしかないのか。このデブデブしい体で剣術を磨いてどうなるのか。――絶望しかない。俺って本当に無能だな。
「もう、行っていいかのう?アレンに次の魔法を教える約束があるのじゃ。打てば響くというのか、あやつに教えるのは楽しい。」
俺は、我が儘じじいに投げ出されそうになって焦った。このまま放り出す気か!?
「おっおい!ヒールってどうやるんだ?何をすればいいのか教えろ!」
「毎日1000回ヒール唱えたら、少しは出来るようになるかもしれんなぁ。出来るようになったら呼べ。それまで儂とアレンの邪魔をするなよ。」
おいおい10才の子供に言う言葉か?
天才って我が儘で子供だな。全くもって尊敬出来ん。
――それから俺の日課にヒール1000回唱える事が加わった。
そして剣術の稽古も。こちらの先生はまだ20代だが人格者で、アレンと差別することなく俺みたいな運動音痴なデブにも手取り足取り優しく教えてくれる。
そんな毎日を過ごしてあっという間に半年が過ぎていった。
その日は、いつものように城の図書館で本を読んでいると何やら部屋の外が騒がしい。そしてすぐに大きな爆発音がすると煙の中からアレンが現れた。大きなソファに寝転がって本を読んでいた俺はその光景に固まった。
「――えっ、今のって魔法だよな?アレン、小さいのに凄いな。」
俺が半年毎日ヒール唱えても一向に何も起きないのに、アレンは爆発系の魔法が出来るようになったらしい。あのじじいとも半年会ってないから知らなかった。
「そっ、そうですか?」
怒りに満ちた瞳で入ってきていた筈のアレンは俺の言葉に照れ臭そうに頭をかく。
「ところで何の用だ?魔法が使えるようになったからと俺に復讐でもしにきたのか?」
――うん、ふと、そんな可能性に気づいちゃったよね。
俺、大概酷いことしてきたしね。アレンに魔法とか教えるの止めといた方がよかったかな。
「違っ!違います!!最近、お兄様が僕を遠ざける理由を聞きに参りました。お兄様に会いたいと言っても通してくれないので実力行使したのです」
怖っ!5才児恐いわ~。でも、俺と関わらない方が平和だと思うんだけどなぁ。
「ほぅ、俺はお前に優しくはなかったと記憶しているが?」
「そんな事はありませんっ。居ても居なくても同じ、誰にも必要とされていない僕に構ってくれていたのはお兄様だけですっ。どんな事をされてもいいので、どうか、僕を遠ざけないで下さいっ。」
健気~。
今や魔法のじじいや剣術の先生がお前を認めてくれているのに、これって、刷り込みっていうのかね。可哀想に。お前は主人公なんだぞ。俺なんかを求めるなよ。
「俺はお前と居ると吐き気がする。俺の視界に入ってくるな。」
ごめんね~。
一緒に居たら酷いこと言わなきゃいけないだろ?無理!こんな可愛い子に言えないし。今、言っただけで、胸が張り裂けそうに痛むし、最後は追い出さないといけないから仲良くなりたくないんだよ~。
「……そうですかそれならば、お兄様をさらって逃げます。一緒に誰も知らない土地で二人だけで生きましょう。」
うん、話通じてないね?顔恐いよ?5才児の顔じゃないよ?
「……分かった。俺の側にいることを許す。」
「やったー!!お兄様に会えなくて死にそうだった!これ以上会えないようなら、世界を混沌の闇に葬り去りたい気持ちになってたんです。」
――危ない危ない、魔王作る所だったわ。
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