主人公をいじめぬいて最後は殺される悪役王子だった事に気付いた10才の俺。

はるか

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最終章

57 笑えない城のざわつく夜

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成長期に適切な栄養を取らないと人間はこうも脆くなってしまうのか。

歯が折れ心の折れた俺は無になった。

大袈裟と言う事なかれ失った歯は1本じゃない。俺は15才にして半数以上の歯を失った。

この体の主になんて謝ったらいい?

そりゃ、表情筋無くすだろ?





Side   笑えない城で働く人々

突然動かなくなった貧相な子供に城で働く皆は動揺した。

青白い顔に枯れ枝のような身体。真っ黒な髪の毛は栄養がゆき届いていないのかパサパサしている。

この城の救世主かもしれないみずぼらしい少年が動かなくなったのだ、動揺もするだろう。

そう救世主、それは何故か?

それを語るにはこの城の主が20才で国王になった時から語らなくてはならない。

先代に続き見目麗しく民から愛された主は領土が犯されれば先陣を切って出陣し勝利を収め、流行り病が流行の兆しを見せればいち早く察知し、未然に防ぐなど名君の名を欲しいままにした。歴代の王の中で1番の人気者といっても過言ではない。

直接関わらない人間にとってはの話である……。

歴代の王の中でも類を見ないと言われる程赤い髪に赤い瞳、人々を魅了してやまない容姿に最初は城の皆も熱狂していた。この神に愛されし美しい主に仕える事ができる事を天に感謝さえしていた。

『お前たち愚図に期待はしていないが失敗は許さない。』

それが皆への初めてのお言葉であった。赤いのに氷のように冷めた瞳だったと記憶している。

皆の燃え上がっていた心も身体?も一瞬にして覚めていった瞬間であった。

あっこれあかんやつや。とご意見番の長生きエルフは思ったそうな。

それからというもの、皆が常に怯える日々が始まった。

能力の高すぎる主は下々の能力の低さに苛立ち常に監視した。少しのミスや遅れがあろうものなら即クビ。新しい人員がやって来た。それを繰り返し能力のそこそこ高い者達が残りこの城の均衡を保っている。しかし綻びが出るとあっという間に崩れていくような危うさがある。皆が粗相をしないように常にぴりぴりしていた。

そして5年前、事件は起こった。

その事件は後にその日に咲き誇っていた花の名にちなんで『アザレアの悲劇』と呼ばれている。

その日、主が美しい少年を何処からともなく拐って来たのだ。ある者は泣き叫ぶ声を今でも忘れる事が出来ないと言う。

そして騒ぎを聞き付けた王妃が登場する。

ドア越しに少年を解放するようにと説得したが主は一向に聞き入れる事はなかった。泣きつかれて眠る美しい少年を王妃へ見せる暴挙でたのだ。

固まる王妃。

永遠に近い時間が流れた。もう何もかもが目茶苦茶だった。そして悲劇の瞬間が訪れる。

「アレンあなたバカじゃないの?全然違うじゃない!その子を解放しなさい。さもないと、……離婚よ。」

対峙する二人。

――主はパタンと扉を閉めた。     

そうして王妃は故郷のエスカルド王国へ帰った。皇太子を連れて……。

――これが『アザレアの悲劇』の概要だ。この事で責任を取らされお家断絶や牢屋に入った者はゆうに50人は越えるというのだから悲劇に他ならない。しかし死人が出なかった事は幸いといえる。

後に先代とエスカルド国王が話し合い、皇太子が成人したらこの国へ帰る事で合意したが、そこに至るまでの道程は平坦ではなく、あわや皇太子がエスカルド王国の王族へとの話も出る始末だった。跡継ぎが居なくなるかもしれない主は強引に諸悪の根元の少年を養子にしたが、有力な貴族がこぞって反対した為、別宅を作り少年がそこに住む事で落ち着いた。

昔から城で働く者は『天使の君』の呪いだと密かに言う。噂に聞く少年に瓜二つだったという主の兄『天使の君』は、実は城の者達にとても愛されていて民衆にとても嫌われていた。

結局廃后の不貞の子である事が発覚し、ひっそりとその存在を消された。今は生きているのか死んでいるのかすら分からない。ただその名を口にすることは許されていない。

呪い。信じたくはないがさもありなんだと皆思っている。この城は不幸続きだ。

・王妃との離婚
・諸悪の根元の少年を養子にする暴挙
・エスカルド王国の息のかかった皇太子の帰還

皆ギリギリの精神状態だった。そんな中、主が意識のないみずぼらしい少年を連れて帰り、湯浴みをさせろと言ったのだ。

またか!全城人が震えた。

湯浴みをさせ主の寝所へ運んだ者は故郷へ帰る決意をしたという。

しかし丸1日経って寝所から出て来た主は顔色もよく美しい顔を煌めかせ仕事もいつもより精力的にこなし、皆へ冷たい視線も寄越さなくなっていた。極めつけは滞っていた無理難題をことごとく解決し皆を安心させた事だ。流石稀代の名君だと皆頼もしく思った。

――しかし1週間を過ぎる頃からいつもの主に戻っていった。皆があれは夢幻だったかと思い始めた時、主はまた寝所へ向かった。基本主は寝所で寝ることはなく書斎のイスや、養子の少年の元で寝ているので、寝所へ向かうということは皆も忘れかけていたあの貧相な少年の元へ行ったという事だった。

そして噂が駆け巡る。

王が笑った。

あの絶対零度唯我独尊君主が笑っただと?皆にわかに信じがたかった。

しかし次の日、少しの物音でも起きてしまう熟睡をしたことがない主が呼んでも扉を叩いても返事をしないという。

まさか寝ているのか?

主が居なくては始まらない会議がある為に貧乏くじを引いた宰相が部屋に入った。部屋の使用人達は部屋に入るくらいなら辞めますと言ったので仕方がなかったのだ。

そして宰相が吹っ飛ばされた先に皆が見たものは――


「ぶぶぶっ!あーっははは!何だそれは!」

少年に噛みつかれ、大笑いする主の姿に等々気が触れたかと皆は思ったがそうではないらしい。

「お前、面白いな。」

にこぉっと目映く笑い少年の頭を撫でまくる主の姿を運悪く見たものは男も女ももれなく恋に落ちたという。

あの貧相な少年を除いては……



――そしてこの貧相な少年がこの城を救える救世主かもしれない。そんな噂が城中を駆け回わった。

しかし当の本人がウンともスンとも言わなくなってしまったのだ。

――壊れた機械人形のように少年が動かなくなったというのに主は面白がるように少年をつついたり抱き締めて寝たりしている。性行為は今のところないらしい。

主のようなバカ力にみずぼらしい少年が耐えられるとは思えないので皆ハラハラしながら見守っている。

(国王様、その少年は壊れやすいです。早く気づいて!)

反応がない少年に飽きた主は国1番の癒しの魔術師を呼んだ。

あっという間に歯が元通りになった少年が跳び跳ねて喜ぶ。

それを微笑ましく見ていた皆はとんでもないものを見てしまった。

「やったー!ほら歯が治った!」

ニィっと歯を見せながら主に笑いかける少年。

そう、少年が主に笑いかけた時だった。

「あれ?アレン、顔真っ赤だ?熱でもあるのか?」

不思議そうな顔をして少年は主の額に小さな手をやった。

「うわっ!もっと赤くなった!?……あっ、鼻血……」

驚く少年に、ゆでダコのように赤くなり鼻血を出す主。



その日、城はざわついた。
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