主人公をいじめぬいて最後は殺される悪役王子だった事に気付いた10才の俺。

はるか

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最終章

58 後悔

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この城に連れてこられた頃、異様な雰囲気に少し驚いた。使用人達の真っ直ぐこちらを見ない自信が無いようにもとれる態度。

そしてアレンに異常に怯えている。トップに立つものは馴れ合ってバカにされてはいけないが、恐怖で支配しても下の者は能力を十分に発揮出来ない……とその昔この城のトップに近い所にいた俺は思うぞ。(腐っても第1王子だったのよ。)

俺の場合、前世の記憶が戻った10才以降は人の上に立つ事に慣れず、嫌いだと言うのにピーマン出されたり、嫌だと言うのにやたらとフリルのついた服を着せられたり、と舐められていた気がする。……悪役王子のこの俺になんたる仕打ち、くわぁ!!

それでも城を追い出される時は皆泣いてくれて俺に付いていくという者までいた。まぁ社交辞令だろうが嬉しかったのを覚えている。

今のこの城は何だ?こんなに追い詰められて仕事してもきっと能力が発揮出来ない。

アレンは本当に暴君になってしまったんだろうか?

そんなのは絶対に嫌だと思う。でもこれ以上俺が関わっても悪い方向にしかいかない気がする。憎まれているのに知らないふりをして側に居るなんて騙しているようなもんじゃないか。ユノを殺さずに側に置いているのもアレンが苦しんでいるからこそだと思う。何にせよ諸悪の根元はこの俺なんだ。

だからと言って俺だけが消えてもラインハルトに似たユノが側にいる限りアレンの苦しみはなくならない。

ユノを説得してここから去らないといけない。その為には先ずはユノの心の治療をしたい。善は急げだと思った。

「明日、ユノの所へ帰る。あっ、テレポートはいいから!歩いて行くから。」

そう言って俺は手の平をアレンの前に出しテレポートを拒否した。あんなテレポートはゴメンだ。一人で帰れるけど俺を連れてきたアレンに一応断りをいれとかないとな。……何で連れて来られたのか未だに謎だが、いつまでもアレンの寝所を占領する男は居ない方がいいだろう。

「……駄目だ。」

「世話になり……えっ、駄目?何で!??」

「そんなにあの者の所へ帰りたいか。……好きなのか?」

「?うん。大好きだけど?」

ユノはこの体の主の少年が困っている時に手を差し伸べてくれた恩人だ。少年の恩人は俺の恩人。そんな恩人に俺の罪を被せて酷い目に合わせた事に心が張り裂けそうだ。

そしてラインハルトに似たあの醜悪な容姿だ、この先恋愛はおろか結婚も出来ないかも知れない不憫過ぎる幼馴染。15才の誕生日に処女消失させるのは断固として阻止したい。

「……大好きか。」

ズンッーー!

纏った空気でアレンの機嫌が悪くなったのが分かった。

や、ユノに恋してるわけじゃねぇよ?やっぱりまだ俺(ラインハルト)の事、憎いけど好きなんだな。

「……お前、あの村で医療行為をしていたと聞くが何処でそんな技術を覚えた?」

……ん?……きた。きたきたきたきたぁ!その質問やっときたぁ!!

牢屋に入れられてからこの質問にどうやって答えようと考えに考え抜いた答えをやっと言う時がきた。ちょっと気持ちが浮上した。

5年前直ぐに聞かれると思って急いで考えたのが懐かしい。結局恩赦があり解放されるまで聞かれることはなかった。俺は尋問もされぬまま5年間牢屋に入れられていた。……ん?尋問されないまま?5年間も?

「……ところで俺の罪状はなんだったんだ?」

あっ、アレンが固った。

「……くっ!あの者の元へ戻るがいい。」

「あ、りがとうございます?」

そうして俺達は言葉のキャッチボールが出来ないまま、俺はユノの元へ帰る事になった。








「……ハル!?」



俺が歩いて帰宅するとユノが驚いて抱き締めてきた。

「今度こそもう会えないかと思った。アレンに聞いても教えてくれなくて……」

ボロボロと泣くユノは同情を得られないほど醜い。これは……俺が守らないと血に飢えた獣どもの餌食にされてしまう!世間は醜男に冷たいんだ。

「ユノの事は俺が守るからな。」

背が伸びたとはいえ順調に成長したユノにはまだまだ及ばず見上げる形になってしまうのが情けないが、少年、もっと鍛えてアレンくらい伸びてやるからな!俺の前前世の頃の姿形に似ているこの少年がそんなに大きくなるとは思えないが、ここはゲームの世界、その名の通り希望はあるさ、な?

「そんな上目使いに言われると、……可愛いな。」

ユノが面白そうに俺を見つめる。

「可愛いゆうな。……ゴホッ。」

まぁ、お前よりは可愛いかろう。ゴホッ。

「ハル?大丈夫か?」

咳をした俺を気遣いユノが俺を覗き込む。

「ああ、歩いて疲れた。このくらいの距離で情けねぇな。」

「今日はゆっくり休んで、明日は何があったのか聞かせてくれよな?」

ユノに促されベットに横たわる。ユノは俺が眠りにつくまでその手を離さなかった。









――目を覚ますと体がダル重だった。これは完璧に風邪をひいたらしい。

……まずいな。

ただの風邪と侮るなかれ、この世界では金のない者、能力のない者は風邪でも簡単に死んでしまう。

「ラインハルト、大丈夫だからな。魔術師に来てもらえるように頼むから。聞き入れて貰えなかったら俺が怪我して呼んでもらう!」

目を開けるとナイフを持って今にも自分に傷をつけそうなユノを見て必死に止める。

「止めろ!寝てれば治るから!これ以上お前に何かあったら俺は生きて行けねぇ!」

ハッとした顔をしてユノが潤んだ瞳で俺を見てぎゅうぎゅうと抱き締める。すると視界が真っ暗になっていった。体力の限界がきたようだ。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






冷たい物が頬に当たり気持ちが良かった。しかし離れそうになって必死でそれを掴み頬に促す。

「気持ち……い。」

目を開けぬままスリスリする。

ぞわわわわわわ!

掴んだそれに鳥肌のような物がたったような気がしたので薄目を開ける。

「……ア、レン。」

アレンが珍しく戸惑っているような顔をしてベットに腰掛け俺の頬に触れていた。

俺は弱っている所にアレンが現れて嬉しくなり笑顔になってしまった。

ぞわわわわわわ!

あっ、サムイボたってやがる。確かに薄汚い男から手をスリスリされてニヤニヤされたらサムイボたつな。

しかし熱に浮かされた体はアレンを離したくないと思ってしまう。どうしようもなく寂しいんだ。

「アレン……ごめん、ごめんなぁ……ごめん。」

お前は俺がいなくなってから何年も苦しんでいたなんて。

幸せにじゃないなんて俺の罪はなんて重いんだろう。

押し潰されそうな気分になりながら涙が溢れてきて苦しくて苦しくて消えてしまいたくなった。

途端にフワリと優しく抱き締められて驚いた。まるで羽毛布団に包まれているようだ。

「ハルを離せ!!!」

「ユ、ノ?」

ユノの声と少しの衝撃。

悪い予感がしてアレンを見ると氷のような冷たい顔をしていた。

「……死にたいらしいな。」

アレンが振り向くとユノは吹っ飛んでいった。

「ユノ!」

ユノの方へ向いたアレンの背には小さなナイフが刺さっている。

「アレン!?」

ユノがアレンを刺したのか。

アレンはナイフが刺さったくらいでは死なないだろう。しかしユノは生きているのか死んでいるのか分からないがピクリとも動かない。

「アレン止めろ!」

更に畳み掛けるようにアレンが魔法を唱えようとしているのを必死でしがみついて止めるが今のアレンには俺の声は届かない。

俺は重い体を引きずって魔法が直撃する前にユノの前に立ちはだかった。この小さな薄っぺらい体でアレンの魔法を防ぎきれるとは思えなかったが思わず体が動いていた。

衝撃を受ける前にアレンの驚いた顔が見えた。その顔を見て遠い記憶が甦る。

ああ……アレン。

俺が魔方陣に取り込まれた時もお前はそんな顔をしていたな。あの時の俺はお前が無事なら自分が死んでも悔いはなかった。お前がこんなに苦しみ続けるなんて思ってもいなかった。

後悔を胸に死を覚悟したその時、目の前に見えない壁が現れアレンの魔法をはじきとばした。そして優しい光に包まれ体が少し楽になる。

「こんな弱った体で……死にたいのか。」

俺の元へ飛んできたアレンが俺を責めた。どうやら別の魔術師が俺とユノを助けてくれたようだ。アレンに支えられながらユノの無事を確認する。

「ユノは何も悪くない……悪いのは俺なんだ……」

俺は熱にうなされながらアレンに切に訴えた。

「この子はか弱すぎてヒールでは回復しないようです。力が足りず申し訳ありません。」

近くに現れた魔術師が膝をついてアレンに頭を垂れた。

「エリクサーを。」

「!?……かしこまりました。」

俺は荒い息の中アレンを見上げる。

「大丈夫だ、すぐに楽になる。」

アレンがそう言って泣きそうに微笑むものだから俺もアレンの頬に手をやって笑う。

「大丈夫だ、アレン。」

アレンは目を見張ると大きな赤い瞳から涙を落とした。

「死ぬな。死んだらお前を許さない。俺を置いて行くのは許さない。」

あとからあとから流れ出る美しい涙に俺は胸が張り裂けるほどの痛みを覚えた。

俺は可愛い弟の面倒くさい思いを受け止めるのが辛かった。憎い憎いと言いながら明らかに俺に恋をしていたアレン。俺がちゃんと向き合って罵られてアレンを受け止めて救ってやらなければいけなかったのに、俺はその役目を放棄した。アレンを失うのが怖かったから。自分だけ自己満足で救われて勝手にアレンの前から消えた。

俺は大馬鹿者だ。
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