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ある少女の願いと結末4.
しおりを挟む騒がしかった室内も静かになり、上の空だったケイリアの銀色の髪がペルシュの頬に当たる。
くすぐったいのか、笑うペルシュを見て、ケイリアは今一度しっかりと抱き直そうとするとペルシュに髪の毛を引っ張られ動けなくなる。
「うちの可愛いリアを独り占めなんてずるいなぁ」
顔を上げることはできないが、兄だと分かった。
兄はそっと、ケイリアの髪を撫で、掴むペルシュの指の間に人差し指を滑り込ませた。
「にいさ……ま……」
「ん? おぉ、リアには負けるけど可愛い子だね! ばぁ」キャッキャ
「兄様、私のせいで皆大変な目に合っているのでしょう?」
「どうして? いないなぁーい」ううぅ
「わたくしがっ!!」「リア?」
「ぁう…ふぅっ……ふぇええええ」
ケイリアの大声で驚き、泣き始めたペルシュ。慌ててあやすも泣き止まない。
兄が通路にいた夫人を呼ぶも、ケイリアはペルシュを離さない。
「殿下……私はペルシュがとても誇らしいです。こんなにも殿下に愛されて……それと同じくらい寂しくもあります。ふと思うのです。母の顔など忘れ、離れてしまうのではないかと……取りあげられて……しまうのでは、ないかと……」
「そんなつもりはっ……」
顔を上げたケイリアは胸元で震える両手を押さえる夫人と目が合う。
「あっ……ごめ……なさいっ。ただ……守りたくてっ」
「ええ……えぇ! 分かっております。私も同じ痛みを分かってくださる殿下が居れば、この子の将来は大丈夫なのだと安心したのですから……少しの母のヤキモチを、少しの我儘をお許し頂けませんか?」
涙が一筋零れた夫人は微笑み、ペルシュを撫でた。
ゆっくりと夫人の胸元へ、ペルシュを預けると「ありがとうございます。お腹がすいて機嫌が悪いだけですから……また後で」そう言って一度ケイリアごと、優しく抱きしめるとペルシュを抱き、部屋を退出した。
「……っく……うぅ……どう……たらぁ……いいのよぉ」
「リア……」
軽くなった腕が、急に冷える胸元が、ペルシュが居ないことを突き付けられ苦しくなる。
「リア……リアッ!」
兄の声が耳に響き、抱きしめられていたことに気づいたケイリアは兄の胸を押す。
「……いつかは兄様や父様、姉様みたいになるんだって思ってたの。ううん、なりたかった。でも私は自分の夢が壊れて周りみんなを傷つけちゃったって分かった。ペルシュに……勝手に縋って、今も何も出来ない。それに……これから……私に何ができるの?」
「リア……私は、振り返るといつも笑って駆け寄ってくるリアが大好きだ。必死に父上や私達の後ろから追いかけようと努力するリアがとても誇らしいと思っている。だから……リアの夢を壊したくなくて……すまない……でもひとつじゃない。できることは必ずある。リア、一緒にみつけよう?」
押してもビクともしない兄がやっと腕を解くとこちらを不安そうに覗き込む。
「私……は……」
───コンコン
兄はケイリアの顔を見つめ、やがて扉に声をかける。
王国騎士が扉を開け、ケイリアをチラリと見て礼をする。そして兄に顔を向け「ワイバーンが畑の結界を破りました」と告げた。
解った、と返事をした兄は
「リア、行ってくるよ。帰ったらゆっくり話そうね」とケイリアに微笑み、額に口付けを落として退出した。
それからいつの間にか朝になり屋敷を出ると、焼け焦げた匂いがした。遠くの方で黒や灰色の煙がモクモクと上がっているのが見える。
ワイバーンは祠を破壊し、魔法石を喰らった。
陛下や王太子、魔導士達が浄化魔術を発動させ、領主や領民は瘴気の靄の手前で火の魔法や松明を使い、桃の木を燃やして広がらないようにしていた。
隣国からの竜騎士隊も応戦し、退治した時に腹の中からでてきたその魔法石はたくさんの瘴気で穢れた血や魔力を吸い、魔石と同化してしまっていた。
その後、ケイリアは地面にしゃがみこんだまま動けなかった。放心状態のケイリアを兄が抱き抱え、馬車に乗る途中、領主は「まだ桃の木は残っていますから、大丈夫ですよ」と、領民も皆、ケイリアの身体を心配する言葉を口にした。
全てが胸を抉った。
城に帰り、部屋に篭もると家族、皆が声をかけてくるが聞きたくなかった。
もうあれから何日だろうか。
「リア、入るわね」
姉が果物籠を持って入ってくる。
毎日、姉はこうして果物を持って勝手に入り、ケイリアの口に押し込めて部屋を出ていく。
「ふふっ、今日はとびっきりよ」
そう言って口元に運んできたものは懐かしい匂いがした。久しぶりに香りを感じたケイリアは、口元のそれを見る。
「まだ酸っぱいかも」
押し込まれたそれはとても
「……あまい……」
「あら! 当たりね! 兄上は「酸っぱッ!!」って口元を窄めてたわよ、ふふっ」
「兄上がね、朝一であそこの領地から貰ってきたのよ。明日の方が良いって言ったんだけど、今すぐって言われて籠に捩じ込まれちゃったわ」
「……うぅ……」
「泣き虫さんね。本当は酸っぱかった?」
「ううん、甘い。すごく甘い……」
「リア……リアは魔力が欲しかった?」
「……うん」
「魔力が好き?」
「分からない。でもみんなの魔力で活躍する姿が大好きなの」
「そうなのねー。じゃーあ、私はもう魔力は使わないわ」
「どうして……」
「魔力だけでリアに好かれてるなんて悲しいわ。それに!! 女の子は魔力なんて無くたって輝けるのよ!! リア……自分の可能性を諦めないでね」
「違うッ……姉様も兄様も母様も、父様も……そのままで大好き……わ、私も……皆を笑顔にできる?」
「ずっと私達を笑顔にしてきたじゃない!! 貴方はこれまでも十分頑張ってきたのよ。誇りなさい。そして自分の力量をちゃんと分かりなさい!」
「わか……りました。……うぅっ……姉様、ありがとう」
「あらあら、泣き虫に戻っちゃったわ。困ったわねぇ、よしよし。ギュー攻撃してやるっ!ふふっ」
「ぐす……ふふふっ」
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