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ある少女の願いと結末6.
しおりを挟むペルシュは去年6歳になってからすぐ王都の研究所に住み込みで畜産や農業、魔物や魔法石について学ぶようになった。
前陛下、父が魔力のないペルシュのために本来12歳になってから学べることを未来の選択を増やせるようにと取り計らってくれた。
「リア様っ!」
「ペルシュ…… ただいま!」
研究所の前でじっと道の先を見つめていたペルシュはケイリアの存在を見つけると破顔し頬を染め、走り寄ってくる。
腕の中で笑っていた時はあんなフワフワだった髪が真っ直ぐでサラサラな焦茶色となり風に揺れている、目の前に来た頭を撫でてみるとフワフワの名残りを感じ、笑みが零れてしまう。
「ふふっ」
頭を撫でるケイリアを初めは気持ち良さそうにしていたが、やがてくすくす笑うケイリアを茶色い瞳で不思議そうに見上げる。
「リア様?」
「1年ぶりね。ペルシュは、本当にいつまでも桃みたいだわ。変わりはないかしら?」
「はいっ。リア様も……あっ! ご出産おめでとうございます」
ありがとう、と腕に抱いたミケラウスを見つめるペルシュに顔を見せる。
「わぁぁ……可愛い……」
「あら、あなたも同じだったわ」
「ふふっ」
元気に研究所の案内をするペルシュ。
研究員達も暖かい目線を送っている。
客間に通されると研究所の所長から丁寧に挨拶をされた。日頃のペルシュを教えてもらい、所長から褒められ、お小言を言われ、百面相するペルシュを見ると嫌な思いをせず、毎日楽しく過ごしているのだと手を取るように分かり、自然と笑顔が漏れてくる。
「もうっ!! リア様まで笑うなんて」
所長が退出し、桃色の頬を膨らませケイリアを見つめていたペルシュは何かを思い立ち、待っててください。と客間を飛び出す。
帰ってくると両手に薄クリーム色の飲み物?を持って戻ってきた。
すぐに香りが部屋に広がる。
「桃かしら?」
「そうですっ!! 僕が作ったんですよ。父が送ってくれた桃です。飲んでみてっ」
「……ん、美味しい。少し味が変わったかしら」
「ふふふ、ほとんどはそのままでも美味しいけれど若い桃だったりすると、その度、味が変わっちゃうので少し隠し味を入れています」
「ふふっ、酸っぱいものね。凄いわペルシュ」
えへへ、と照れるペルシュの頭を撫ぜるが、その顔が直ぐに陰ったのが分かった。
「どうしたの?」
「その子は魔力……ある?」
「え?えぇ……とても豊富で丈夫だそうよ、竜族の子ですからね」
「そう……ですか。いいな。僕はまだ諦められないです」
「ペルシュ……」
「たくさんのことを学ぶ度に、そのどれにも魔力が絡んでくるんです。なのに、どんなに知識を付けても魔力は生まれない。父のように水魔術や火魔術が扱えないから、広範囲の畑を管理するのも難しい。後継者は僕なのに……僕しかいないのに……」
「そんなことないわ。貴方はこんなにも美味しい桃ジュースを作れるじゃない。やり方は違っても必ず道があるものよ。解決方法、一緒に探しましょ?」
私が家族に支えて貰った日を……守ると決意した日を思い出す。
「リア様……ありがとうございます。この間、研究所の古い倉庫で魔力増幅の蔵書を見つけたんです。そこに魔力譲渡の話も載っていて……古い書物なのでところどころ汚れたり破れたりしていて、ちゃんと読み込めていないのですが、分かったらリア様にも教えますね」
「勉強熱心なのね、だけど魔力以外のことにもちゃんと目を向けてちょうだいね。ペルシュのアイデアは素晴らしいのだから」
そこで止めていれば良かった。魔力なんて諦めさせればよかった。婚約して以来、魔力に関することには自分からは一切触れてこなかった。まさかそれが他者の生命を削るような禁術なんて思わなかったのだから。
最初は何も変わらなかった。ペルシュは笑顔で迎えてくれる。だけど日に日に窶れていく。
ある時、ペルシュは言った。
「昔、僕の領地を襲ったワイバーンの魔力は凄く多かったそうです。だから今も消えない瘴気の跡が残ってるんです……そんな悪いやつなら魔力なんか取り上げちゃった方がいいですよね」
「自分で作った新作のランプの火持ち時間を測っていたら水魔術で女性を襲う方がいたので少し懲らしめたら悪いことしないって誓ってくれたんです」
ペルシュが12歳になり、領地には戻らないと言い出した。「僕はまだまだ知識が足りない」「覚えないと行けないことが増えたんだ」届く手紙には、少しの焦りも見えたが
「毎日がとても楽しい」と締め括られていたため深く考えることは止めていた。
それから1年が経ち、ミケラウスも6歳になった。お友達が出来たと喜んではいるが、甘えたが抜けない。私も……ペルシュも、この頃は志を見つけ、頑張ろうと毎日を頑張っていたはず。
みなに羨ましがられる程の魔力を持っていると言うのに。どうして、この子はそれを伸ばそうとしないの? 容姿だけ良くても苦しい思いをするばかりだ。
その思いが強くなるたび、ペルシュが「まだ足りない」と知識を貪るたび、ミケラウスの勉強量を増やした。
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